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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
アスフォルデの環⑧カテリーナ

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託された光

焚き火がぱちぱちと音を立てて燃えている。

その周囲に、健司たちと数人の魔女たちが集まっていた。


戦いはひと段落し、ほんの少しだけ、穏やかな空気が漂っていた。


その中で――クロエが、ぽつりと口を開いた。


「……その集団、私も知ってるわ」


カテリーナが目を向ける。


「知っている……?」


「ええ。その集団のトップの魔女と……一度やり合ったことがある。傲慢な女だった。自分が最も正しいって思い込んでる」


クロエの言葉には、どこか凍てついた痛みがにじんでいた。


「魔女以外は劣っている、力のない魔女すら価値がない――そんな思想を平然と口にする連中。今も活動してるとしたら、かなり厄介ね」


健司は黙って頷いた。


「……そんな魔女がいるなんて」


彼はそっと、隣に座るカテリーナに視線を送った。


「でも……カテリーナさんは、生かされたんですね」


その一言に、カテリーナの身体がぴくりと揺れた。


クロエも、言葉を継ごうとしたが、カテリーナが首を横に振った。


「違うの。私は……“生かされた”んじゃない。……逃げたのよ」


その言葉に、一同が沈黙した。


「……仲間たちは、あの時、必死に戦っていた。私を守ろうとして、命を投げ出して……それなのに、私は――何もできなかった。怖くて、身体が動かなかった。逃げたの。村の外に、ただ一人……」


火の揺らめきが、カテリーナの頬に涙の影を落とす。


「私は……誰よりも臆病だった。だから、今も誰かに救われるなんて……信じられない。……私は、生きていてはいけないのよ」


そう言って、カテリーナは焚き火から顔を背けた。


その時だった。


健司が、静かに立ち上がった。


彼は何も言わず、手を胸元に当てた。

すると、彼の体から柔らかく、温かな光が放たれた。


それは、月明かりにも似て――しかし、もっと温もりに満ちていた。


「カテリーナさん……目を閉じてください」


戸惑いながらも、カテリーナは言葉に従う。


すると、彼の光が、彼女の額に触れた。


そして次の瞬間――


彼女の視界が、真っ白な世界に包まれた。



そこは、まるで雲の上のような、柔らかで何もない空間。


風も、音も、ない。


ただ、白い光だけが、穏やかに満ちていた。


カテリーナは、自分が立っていることに気づき、辺りを見回した。


「……ここは?」


そのときだった。


「カテリーナ……?」


懐かしい声が聞こえた。


カテリーナが振り向くと、そこには――


かつての仲間たち。魔女たちが、ずらりと並んで立っていた。


花飾りを編んでいた魔女、薬草を集めていた魔女、笑顔で炎の調理をしていた魔女。


――そして、カテリーナの最も信頼していた、副官の魔女。


「みんな……!」


その姿は、今でもカテリーナの記憶に深く刻まれていた。


しかし、彼女たちは悲しそうな顔をしていた。


「……ずっと、カテリーナのことを見ていたよ」


「カテリーナ。君、ずっと苦しんでいたね」


「私たち、カテリーナが逃げたって……恨んだことなんて、一度もない」


「……でも、今のカテリーナ、悲しそうだよ。未来を閉ざした顔をしてる」


カテリーナは膝をつき、声を震わせた。


「私が……もっと強ければ……! あなたたちを守れた……!」


副官の魔女が、ゆっくりと歩み寄り、そっとカテリーナの肩に手を置いた。


「カテリーナ……未来は、あなたに託したの。だから、どうか――笑って」


その言葉と共に、彼女たちはゆっくりと手を広げる。


「あなたは、今でも私たちの誇り。誰かを守りたいって思った、その気持ちこそが、あなたの本当の力」


「――だから、前を向いて」


光が、仲間たちの身体を包み込んでいく。


その光は、優しく、柔らかく――まるで天へと昇っていくようだった。


「待って……!」


カテリーナは叫んだ。


「行かないで……!」


すると、仲間たちは最後に微笑んで言った。


「大丈夫だよ。あなたには――もう、仲間がいるから」



ふっと目を開くと、現実の焚き火の光が視界に戻ってきた。


カテリーナは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を、手で覆っていた。


健司がそっと、彼女の隣に座った。


「……カテリーナさん。あなたは、“逃げた”んじゃない。生き延びたんです」


「……健司……」


「だから、今こうして、あなたの想いが届いたんですよ。大切な仲間たちに」


カテリーナは、健司の肩に寄りかかりながら、小さな声で言った。


「……ありがとう……私……やっと……本当に……救われた気がする……」


クロエも、リセルも、ローザも、そしてルナとミイナも――彼女のまわりにそっと集まって、静かに微笑んでいた。


誰もが、それぞれの傷を抱えている。


けれど、手を取り合えば、その痛みは分かち合える。


そして――癒すことも、きっとできる。


焚き火の炎が、夜空を照らして揺れていた。


その炎のように、カテリーナの心にもまた、小さな灯りがともっていた。


それは、仲間が託した――未来の光。

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