闇を生んだ真実
夜の中、健司たちが円陣を組んで座っていた。
月明かりが静かに差し込み、穏やかな夜風が頬を包む。
戦いの余韻はまだ消えず、だがその中心には、今や“人を救う側”となったカテリーナがいた。
クロエは初めて、その顔に刻まれた深い痛みを読み取った。
リセルも、ローザも、静かに見つめる。
そして――カテリーナ自身が、口を開いた。
⸻
「私の過去を話します…。信じてほしいわけじゃない。ただ、あなたたちに、私がどうして“あの闇”を背負うようになったのか知ってほしい」
その声音は震えていた。
しかし、その揺れには確かな重みが乗っていた。
「私はかつて…魔女と人間が共に暮らす小さな村で育ちました。仲間は私と同じ魔女、その家族、そして村に住む人間たち。互いに助け合い、笑い合っていた。
花を摘み、子供たちに魔法を教え、病気の子を癒し、収穫を喜び合う…。
誰も私たちを恐れず、偏見などなかった。人の喜びが、魔女の力になる。そんな美しい日々だった」
その言葉に、ミイナは涙ぐんできた。
「そんな暮らし…私たちが目指してるのと同じだね…」
と囁くルナ。
「そんな日々が…突然断ち切られました」
カテリーナの目が揺れた。
「ある夜、遠くから轟音が響き渡り、月の光に照らされた黒衣の集団が、私たちの村へと踏み込んできた」
場面が浮かぶようだった。
夜の村。
子供の笑い声。
カテリーナの手を握る兄弟…。
兵士のように整列した魔女たち――だが、眼には憎悪と高慢が宿っていた。
「彼らは言った。『我々は魔女なのだ。我らは偉大だ。人間とは違う。劣る』と。魔女至上主義を唱える集団。
仲間を皆殺しにした後、私に言った…『お前も同じだ』と。
皆…人間や魔力や力の差など関係なかった。
ただ、“お前たちは我々より下だ”。
それが、理由だった。全滅。
私は死にかけたまま…ただひとり、残されました」
その声は涙で崩れそうになりながら続いた。
「燃える家々。倒れる仲間。泣き叫ぶ子供たち…。すべて失った。
助けようとする人間も、逃げ惑う人間も皆殺されていた。
残ったのは憎しみだけ。
憎しさは、やがて私を闇に染め…“誰かを守る”ことより、“誰かを傷つける”選択へと向かわせた。
あの夜から…私は“救う者”を捨てた。
私の声で人々を率い…守ろうとした矢先に…裏切りだった。
あれは“救いの幻想”ではなく、“魔女の価値”を突きつけるだけの、暴力だった」
クロエは、しばらく静かに聞き、そして小さく頷いた。
リセルもローザも感情を抑えているようだったが、その眼はうるんでいた。
そして健司が、そっと手を差し伸ばした。
「カテリーナさん、その痛みを抱えていたからこそ。あなたの中には、誰よりも“守る心”があるんだと思います」
「……わからない」
カテリーナは首を振った。
「私は人を…信用できない。その夜、信じた人に裏切られた。全てを失ったの。
でも、あなたと皆は…私を、“救えと言わずとも”変えた。
私が捨てた“誰かを守ろうとする力”。それをあなたたちは思い出させた。
そこまで話すつもりはなかった。でも…みんなに知ってほしかった」
その言葉に、ローザが口を開いた。
「だから…カテリーナ様は逃げたんだね」
「逃げたくなかった。信じたくなかった。だから…あえて“敵”になろうとした」
「でも、カテリーナ様の本当は…守りたい人のために立っていたんでしょ?」
とリセル。
ミイナとルナも手を重ねてクロエに寄り添った。
「…もう一度、未来を信じてみませんか?」
カテリーナは静かに目を閉じたまま、ゆっくりと息を吐いた。
「…エルネアだけは、知っていたのですね」
エルネアが声に出して頷く。
「それを踏まえて、カテリーナが今ここに立っている。異例です。救いを願う者ほど、“囚われやすい”のに」
「カテリーナ様は…違った。闇を抱えながらも、“歩きたかった”んでしょう」
その言葉に、カテリーナは少しだけ微笑んだ。
「…本当に…笑って…いいの?」
健司は黙ってうなずいた。
「あなたの痛みには、僕と仲間たちが寄り添います」
その声を受け止めて、クロエがそっと手を伸ばした。
リセル、ローザ、ルナ、ミイナもそれに続き――一つの輪ができた。
カテリーナはじっと見つめ、そしてゆっくりとその輪の中に歩み寄った。
「…ありがとう」
彼女の瞳には涙と、少しだけの希望が浮かんでいた。
⸻
その夜、村の焚き火の前。
幹部だった者たちも、ただ一人の“仲間”としてそこにいた。
どれだけ闇が深くても――
人の心は、希望に触れた瞬間、少しずつ光を取り戻す。
たとえ、それが氷のように冷たくても。
そして、その夜は、魔女と人間が共に過ごす新たな朝への、ほんの小さな一歩となった。




