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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
アスフォルデの環⑦対決

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月に願いを

太陽の魔女ソレイユの攻撃が通じなかったことに、幹部たちはざわつき始めていた。


「……魔法無効化……?」


エルネアが目を細め、つぶやいた。


「いえ、それだけではない。彼の力は“拒絶”ではない。“受け入れた”上で、超えている……まるで――」


その言葉を、隣に立つ魔女が遮った。


「……私が行きましょう」


静かで落ち着いた声だったが、どこか寒気を感じさせるような響きを持っていた。


月の魔女、セレナ。


淡い銀の髪が夜風に揺れ、瞳は月光のように静かに光っていた。


彼女が一歩前に進むだけで、空気が変わった。


月の力は、太陽と対をなす“静寂の力”。


感情を抑え、沈め、眠らせる――静かな恐怖の象徴だった。


健司の前に立ったセレナは、まっすぐ彼を見つめる。


「あなたは、光にも闇にも染まらないようね。ならば、月の導きで眠りなさい」


彼女が指を鳴らすと、空に仮初めの月が浮かび上がった。


「――ムーンライトパワー」


柔らかな光が健司を包む。


その光は、まるで揺籃のように、意識を眠りへと誘う。


健司の目が一瞬、伏せられた。


だが――


「……眠れないなぁ」


目を開いた健司が、苦笑を浮かべた。


セレナの目が見開かれる。


「……効かない……?」


「セレナさん」


健司は、一歩前に出た。


「あなたは……月が怖いんですね」


「……なに?」


「月に願った。でも、叶わなかった。……人間に追われ、仲間を失い、逃げ惑うなかで、あなたは祈った。『誰でもいい、助けて』って」


セレナの指がわずかに震えた。


「……そんな記憶……もう、忘れた」


「忘れてない。セレナさんの魔法には、“忘れたい”という願いが染みついている」


健司は静かに言った。


「ムーンライトパワーは、意識を奪う魔法。でも、本当は……悲しみを封じる魔法なんじゃないですか?」


「……っ!」


セレナは、顔を伏せた。


その唇が、かすかに震えていた。


「……人間は、裏切る。祈っても、願っても、何も変わらない。だったら、感情なんて……必要ない……」


彼女が呪文を紡いだ。


「――ムーンスター」


空に星が現れた。


一つ、また一つと降り注ぐ流星のような光。


それは強い感情に呼応し、激しい魔力となって健司を襲った。


リセルとクロエがすぐに防壁を張ろうとしたが――


「下がってて、大丈夫」


健司は笑った。


星が降るなか、彼は一つひとつを避けていった。


すべての星が、彼に届くことはなかった。


セレナは、見ていた。

その姿を。

そのまっすぐな瞳を。


まるで夜の海のように、深く、迷いがなかった。


健司は最後の一歩を踏み出して、セレナの前に立った。


「……どうして……?」


「セレナさん」


健司は、そっと手を差し出した。


「あなたの願いを、僕が叶えます」


「……!」


「月に祈っても届かなかった。なら、今は“誰か”に願ってください。僕はあなたの悲しみを、受け止めます」


セレナの目に、涙が浮かんだ。


「……誰にも……言えなかった……!」


「――お願い、助けてって言いたかったのに……!」


その声は、魔女であることも、幹部であることも忘れた、ひとりの“女性”の叫びだった。


健司は、その手をしっかりと握った。


セレナの魔力が、すっと消えた。


月の幻影も、空から降る星も、消え去った。


ただそこにいたのは、傷を抱えながらも、誰かに信じてほしいと願った、ひとりの魔女。


遠くから見ていたエルネアの目が細められる。


「……二人目……。まさか、ここまでとは」


だが、彼女の隣にいたカテリーナの表情は、もはや怒りを超え、冷徹な決意に満ちていた。


「……セレナまで“堕ちた”のね」


「健司……」


カテリーナはその名を、毒のように吐き捨てた。


「このままでは済まさないわ」

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