太陽の魔女の痛み
カテリーナの号令のもと、南の村を包む空気が張り詰めていた。
リセルとクロエが前に出て、ミイナとルナが健司の背後に立つ。
その中で、太陽の魔女・ソレイユは静かに、しかし内側から燃え上がるように前へ進み出た。
その金色の髪は、太陽のように揺らぎ、瞳には赤い炎が宿っていた。
「……健司って言ったか」
ソレイユは声を低くした。
「あなたの言葉、正直……腹が立つのよ」
「え?」
健司は思わず反応した。
「何も知らない人間が、簡単に“信じる”とか、“未来”とか……どれだけ、私たちが、過去に囚われているか……!」
彼女の体から、まばゆい光が溢れ始めた。
それは陽の魔力そのもの――熱と光、焦がす炎。
「ソレイユ……」
エルネアが止めようとしたが、ソレイユは振り返らなかった。
「いいえ、これだけは私がやる。――証明してあげる。理想が、どれほど甘いか」
空が唸った。
次の瞬間、空中に巨大な光球が現れた。
まるで、第二の太陽。
「――サンフレア」
ソレイユが名を告げた瞬間、その光球は村の上空で爆ぜ、空間そのものが燃え上がった。
灼熱が広がり、地面がひび割れ、木々が焼け焦げる。
ルナとミイナはクロエに守られ、リセルは健司のもとへと走る。
だが――
健司だけは、まったく動かなかった。
そして、太陽の熱が健司の体を包んでも、彼の肌は一切焦げなかった。
まるで、太陽の怒りそのものを、無視するかのように。
「……なに?」
ソレイユは呆然とした。
「効いてない……? サンフレアが……?」
炎はすでに消えていた。
だが、村には一切被害がなく、健司はそこに立ったままだった。
「なぜ……?」
ソレイユの声が震えていた。
健司は、静かに答えた。
「……それは、ソレイユさんの痛みに比べたら、たいしたことないからです」
「なっ……!?」
ソレイユの目が見開かれる。
「何を……知ったようなことを……!」
健司は一歩、彼女のほうに進み出た。
「……太陽の下で、何時間も磔にされたことがあるんですよね」
その瞬間、ソレイユの表情が凍りついた。
「っ……!」
「人間に、能力を疑われて、魔女だと気づかれて。陽の光が大好きだったあなたが、光に殺されそうになった」
ソレイユの拳が震えた。
「やめて……」
「誰も、助けてくれなかった。周りの人は見て見ぬふりをした。――その中に、あなたの友達もいた」
「やめろって言ってるでしょ!!!」
ソレイユが叫び、再び手を天に掲げた。
「サンフレア・リバース!!」
太陽の光が、逆流するように集まり、爆発的に放たれた。
熱線が一直線に健司へと向かい、地形ごと焼き尽くすほどの威力を持っていた。
地が焦げ、空が裂けた。
だが――その中で。
「……だから、効かないです」
健司の声は、揺るがなかった。
光が収まった後、健司は、立っていた。
無傷のままで。
「……ソレイユさんが受けた痛み。あなたが、太陽を恐れながらも、愛していた想い。人に裏切られた悲しみ。――それに比べたら、こんな熱なんて、怖くない」
ソレイユは、その場で膝をついた。
「やめて……もう……そんなこと……思い出させないで……」
肩を震わせ、歯を噛み締める。
「私は、ただ……光を、誰かと分かち合いたかっただけなのに……!」
彼女の魔力が、静かに揺れ、収まっていく。
炎のようだった彼女の気配が、どこか――人間らしい温もりを取り戻していた。
「それでいいんです」
健司が手を差し伸べる。
「あなたが、痛みを抱えたままでも。人を信じることが怖くても。――それでも、“共にいたい”と願うなら、きっと誰かと光を分かち合えます」
ソレイユは、その手を見つめた。
そして、ゆっくりと顔を伏せる。
「……悔しいくらい、あなたの言葉は、まっすぐね……」
その姿を、後ろから見ていたカテリーナは、唇を強く噛んでいた。
「……ソレイユまで……」
その瞳に、静かに怒りが宿る。
「幻想を――広げないで」
そして、次なる魔女が、健司へと歩み出ようとしていた。




