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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
アスフォルデの環⑦対決

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夢物語を壊す者たち

黒い雲が、空を覆っていた。


朝の光は翳り、太陽の暖かさすら地上には届かなくなるほどの魔力の渦が、大気を揺らしている。


その中心に立っていたのは、アスフォデルの環の首領――カテリーナ。


その背後には、幹部として名を連ねる4人の魔女たちがいた。


エルネア――かつてリセルを導いた知略の魔女。

太陽の魔女ソレイユ――熱を操る激昂の戦士。

月の魔女セレナ――静寂と幻を使いこなす冷淡な観察者。

回復の魔女リーネ――癒しの力を持ちながら、感情を閉ざした不屈の者。


彼女たちはそれぞれが一国を統べるに等しいほどの魔力と威圧感を備えていた。


その足は、南の村へと向かっている。


すでに村の気配は感じ取れるほど近づいていた。


だが、彼女たちの足は、谷を見渡す丘で一度、止まった。


眼下に広がるのは、美しくのどかな緑の村。


鳥たちが鳴き、精霊が遊び、魔力の流れすら柔らかく、穏やかに循環している。


そこに、魔女たちの気配が――そして人間の気配が、共にある。


「……これが“共存”の村だって?」


ソレイユが憮然とした声をあげる。


「笑わせないで。私たちがどれだけ、蔑まれ、追われ、焼かれてきたと思ってるの?」


セレナが口を開くことなく、冷たい視線で村を見下ろす。


その視線の先に、確かにクロエやリセル、ルナたちの姿があった。


「たしかに魔女だな。……でも、表情が、柔らかい」


「無防備だとも言える」


リーネがぼそりと呟いた。


「まるで、人間の心が移ってしまったかのように」


「違うのよ」


カテリーナがゆっくりと振り向いた。


長い漆黒の髪が風になびき、深紅のローブが地を這うように揺れる。


「“移った”んじゃない。“逃げた”のよ」


彼女の声には、確かな冷たさと、ほんのわずかな哀しみが滲んでいた。


「過去を忘れたふりをして、自分だけが平和を手にした気になってる。……健司っていう人間の幻にすがってね」


「幻……か」


エルネアが肩をすくめた。


「幻想を見せることにかけては、私たちも人のことは言えないだろう?」


「違う。私たちは現実を知っている」


カテリーナは言い切った。


「人間は恐れる。異質を嫌う。私たちを、恐れ、排除しようとする。何も変わっていない」


「――なのに、あの青年は“変えられる”と信じている。愛すれば、分かり合えると」


彼女の言葉に、誰も応えなかった。


風が、谷を越えて吹き抜けていく。


そして、カテリーナは言った。


「――夢物語よ」


その場にいた誰もが、その言葉に頷いた。


現実は甘くない。

過去にどれだけの魔女が、人間によって苦しめられてきたかを、彼女たちは骨の髄まで知っている。


その痛みは、幻想では癒えない。


だからこそ――


「ここで終わらせる。健司の“平和の理想”も、村も、そして魔女たちの裏切りも」


カテリーナの瞳が、赤く光る。


彼女の足元に、闇が揺れた。重力の波動が地を圧迫し、黒く、深く、沈んでいく。


「私の“ブラックホール”で、すべてを飲み込む。これは警告でも忠告でもない。執行よ」


「――やるのか」


ソレイユが肩をまわし、太陽の魔力を滾らせる。


「私はただ、あなたに従うだけだ」


「……エルネア様の命令も?」


「当然よ。彼女ももう、納得している」


その言葉に、エルネアは目を細めた。


「否定はしない。だが、少しばかり興味はある」


「興味?」


「彼が、我々の言葉にどう応じるか。……この世界に何を見て、何を選ぶのか」


「私は“話し合い”など不要だと思っているわ」


「そうだろうとも。だが、たとえ夢物語でも、見る権利はある」


エルネアの言葉に、カテリーナはしばらく沈黙した。


やがて――微笑む。


「いいわ。だったら、少しだけ“夢の続きを見せてあげましょう”。壊す前に――ね」


そして、彼女たちは歩き出した。


谷を越え、南の村へと。


地を震わせるような魔力の波が、大地を走り抜ける。


鳥たちが一斉に飛び立ち、森の精霊たちが姿を隠した。


世界が、息を潜める。


やがて、村のすぐそばの林を抜け――カテリーナは立ち止まった。


そこから先は、“健司たちの暮らす世界”だった。


「この先にあるのは、希望か、絶望か」


セレナが呟くように言った。


「どちらにせよ、それを決めるのは――私たちではない」


「でも、私たちが“終わらせる者”なのは変わらないわ」


カテリーナが静かに言った。


「さあ――始めましょう。夢物語の、終幕を」

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