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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
アスフォルデの環⑥ミリィ編

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好きって、どういうこと?

南の村に到着してから、一週間が経った。


毎日が静かで、穏やかで、時折吹き抜ける風に精霊たちが舞い、夜には神聖獣の鳴き声が月明かりに溶けて消える。


健司たちは、日々を忙しくも心地よく過ごしていた。


ミイナとルナは村の子供たちと打ち解け、果実の採り方を教わったり、焚き火の起こし方を学んだりしている。


クロエは村の魔法炉の修繕を手伝い、リセルは薬草の手入れを頼まれたりと、それぞれが自分の役割を見つけつつあった。


ある日の午後――。


村の中央の広場では、薪割りを終えた若者たちが、健司とルナたちを囲んで休憩を取っていた。


焚き火の火を囲み、木製の椅子や石に腰を下ろし、話題は自然と柔らかく、日常的なものに移っていく。


そして――ふいに、ある若者が口にした。


「なあ……お前らって、誰か好きな人とか、いるの?」


沈黙。


健司が思わず目を見開くと、ルナがすぐに答えた。


「いるよ。健司だよ!」


さらっと、まっすぐに。


「わたしもー!」


ミイナも隣で元気に手を挙げる。


村人たちがざわめき、一瞬空気が止まった。


「け、健司……って、おまえか?」


健司は目を見開き、耳まで赤くなっていた。


「え、え? ちょ、ちょっと待って……! い、いるって……な、何の話!?」


「だって、好きって言ったでしょ?」


ルナはきょとんとした顔で問い返した。


「う、うん……まぁ、言ったけど……それは、あの、家族みたいな、ええと――」


「わたしたちは本気だよ?」


ミイナが微笑みながら、頬を赤らめた。


「健司とずっと一緒にいたいし、毎朝おはようって言いたいし、夜は一緒に寝たいし、お料理も一緒にしたいし……」


「それ、“好き”ってことでしょ?」


ルナが胸を張る。


村人たちがどよめく。


「な、なんだこいつら……堂々と……!」


「いや、魔女の感情ってやつは、やっぱりすごいな……」


健司は額に手を当てた。


「うぅ……なんか、話が急に深刻に……」


その様子を、やや離れた場所で聞いていたクロエは、深く息を吐いた。


そして、リセルに視線を送る。


「……どう思う?」


「どうって?」


リセルは平然とした顔で答えた。


「好きな人がいるかって? 私はいないわ」


「私も」


クロエはさらりと答えた。


「そういうのは、落ち着いたら考える。今は……やることが多すぎて、それどころじゃない」


リセルが少し笑った。


「……でも、あの2人、本気よね」


「ええ。本気で、健司のことが好きなんだと思う」


「……羨ましい?」


クロエは少しだけ考えて――そして否定した。


「……いいえ。でも、うらやましいほど真っ直ぐね」


リセルは遠くで笑いあっているルナとミイナの姿を見て、ふっと目を細めた。


「……もし、私が“好き”って感情を口にするときが来たら……それは、もう生き方を変える覚悟がある時なのかもしれないわ」


クロエは、その言葉に静かに頷いた。


「そうね。私たちにとって、“愛する”ってことは、立場を捨てる覚悟がいる」


リセルは少し顔を伏せた。


「……健司は、たぶん、その覚悟を持ってるわ。無意識に、ね」


「それが……怖いのよ」


クロエはそっと胸に手を当てた。


「いつか……自分も応えたくなるかもしれない。だけど、それが、魔女である私を壊すかもしれないって思うと……踏み込めない」


リセルは小さく笑う。


「それでも、“好き”って感情は止められないわ」


二人は、ただ静かに火を見つめていた。


◆ ◆ ◆


その日の夜。


家に戻った健司は、ルナとミイナが横で眠るのを見届けながら、外の風にあたっていた。


クロエがそっと隣に来る。


「……今日は、ちょっと驚いたわね」


「うん……もう、どうすればいいか、わからなくて」


クロエは微笑んだ。


「でも、あなたは誠実だった」


「……そうかな」


「ええ。私は、そう思う。……私だったら、言葉にできないもの」


健司はクロエの横顔を見る。


夜風に揺れる青髪、どこか寂しげなまなざし。


「クロエは……本当に、好きな人はいないの?」


クロエは少しだけ、間を置いて答えた。


「今は、いない。でも……心が揺れる人は、いるかもしれない」


健司は、心臓が一瞬跳ねたように感じた。


「……そっか」


クロエはふっと笑って、夜空を見上げた。


「まだまだ、答えなんて出せないけどね。……でも、こうして、平和に笑っていられる日が続くなら……答えを探すのも、悪くないかもしれない」


健司はその言葉を、静かに胸に刻んだ。


(いつか、その答えが、僕の方を向いてくれる日が来るのなら――)


そして静かに、夜は更けていった。

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