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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ソレイユ編②太陽の町 ザサン

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小さな歌、小さな勇気

森の静寂の中、ルナは歌い続けた。


眠りを誘う魔女――。

そう呼ばれ、恐れられた少女。


けれど、今、彼女の歌は、誰かのために響いていた。

誰かに届いていた。


歌が終わると、ルナは、はにかむように俺を見た。


「……私、久しぶりに、誰かのために歌った」


小さな声。

でも、確かな光が宿っていた。


僕は頷き、微笑んだ。


「ルナ、君はきっと、歌手になれるよ」


ルナは、信じられないという顔をした。


「……私が?」


「そう。君の歌は、人を癒せる。

 誰かの心を、優しく包める。

 それって、歌手にとって、一番大事な力だ」


ルナは、胸に手を当てた。


まるで、自分の中の何かを確かめるように。


「……でも、村の人たちは、私を怖がってる。

 魔女だって、言ってる……」


俺は、空を仰いだ。


柔らかな陽が、木々の隙間から差し込んでいた。


「だから、一緒に行こう」


俺は言った。


「君の歌を、もう一度、村の人たちに聞かせよう。

 君が怖い存在じゃないって、伝えよう」


ルナは、目を見開いた。


「……怖いよ」


その声は震えていた。

当然だ。

傷つけられた記憶は、簡単には消えない。


僕は、そっとルナの手を取った。


「大丈夫。僕が、そばにいる」


ルナは、しばらく黙っていた。

そして、ほんの少しだけ、うなずいた。


小さな、小さな勇気だった。


けれど、それは、確かに前に進む一歩だった。



村の広場には、たくさんの人が集まっていた。


僕たちの姿を見つけると、ざわめきが広がった。


「魔女だ……!」

「来るな!」

「また何か呪いを――!」


恐怖と怒りの入り混じった視線。


ルナは、小さく身をすくめた。


だけど、僕は、離さなかった。


ルナの手をしっかりと握って、前に出た。


「みんな、聞いてほしい!」


僕は、声を張った。


「ルナは、魔女なんかじゃない!

 彼女の力は、人を傷つけるためのものじゃない!」


誰かが、叫んだ。


「でも、眠らせるだろ! 怖いんだよ!」


僕は、深く息を吸った。


「眠りは、怖いものじゃない。

 疲れた体を休めて、心を癒すためのものだ」


「ルナの歌は、あたたかい。優しいんだ」


人々は、まだ疑いの目を向けていた。


僕は、ルナを見た。


彼女は、怯えながらも、僕を見返した。


僕は、そっとうなずいた。


(大丈夫。君なら、できる)


ルナは、震える唇をかみしめた。

そして――


小さく、歌いはじめた。


最初は、かすれた声だった。


けれど、次第に、歌声は広がっていった。


あの日、森で聞いた、あたたかい旋律。

優しく、包みこむような歌。


広場に、静寂が訪れた。


誰も、声をあげなかった。


子どもが、母親にしがみつきながら、聞き入っていた。

老人が、ゆっくりと目を閉じた。


怒りに満ちた人たちの表情が、少しずつ、和らいでいく。


ルナの歌が、みんなの心に届いていた。


僕は、胸が熱くなるのを感じた。


(よかった……ルナ……)


歌い終えると、ルナはおそるおそる顔を上げた。


静寂。


やがて――一人の老人が、ぽつりと言った。


「……きれいな歌じゃ」


その声を皮切りに、ざわめきが変わった。


「こんなに優しい歌、聞いたことない」

「眠っちゃいそうだった……けど、怖くなかった」

「魔女なんかじゃないよ……この子は」


人々の目が、恐怖から、驚き、そして温かさに変わっていった。


ルナは、信じられないという顔をした。


僕は、そっと彼女の肩に手を置いた。


「ルナ、ほら。君の歌は、ちゃんと届いたよ」


ルナの瞳に、ぽろぽろと涙があふれた。


「……よかった……」


小さな声で、そうつぶやいた。


人々は、少しずつ、近づいてきた。


「もう、怖がったりしないよ」

「また、歌ってくれるかい?」


ルナは、涙を拭い、ふわりと笑った。


それは、魔女ではない。


ただ、一人の、歌を愛する少女の笑顔だった。


広場に、温かい拍手が広がった。


小さな歌が、小さな勇気が、世界を少しだけ変えた瞬間だった。


僕は、そっと空を見上げた。


まだ、たくさんの魔女たちが、この世界にはいる。

恐れられ、傷つき、心を閉ざした少女たちが。


だけど、僕は、信じている。


愛は、必ず届く。

たとえ、どんなに深い闇の中にあっても。


そして、ルナもまた、その証明になった。


――これが、僕たちの最初の奇跡だった。

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