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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
アスフォルデの環⑤南の村

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ただいま、と言える場所

朝靄がゆっくりと晴れていく中、健司たちは丘の上に立っていた。


目の前に広がるのは、穏やかな田畑と木造の家々。そして、風にそよぐ草花と澄んだ水の流れる川。


鳥のさえずりが響き、木の陰には小さな精霊が飛び交っている。遠くには、白銀のたてがみをもつ神聖獣の姿も見えた。


それは――世界が忘れかけていた、静かで優しい光景だった。


「ここが……南の村……」


健司は思わず息を呑んだ。


クロエも、隣で小さく頷く。


「昔は、“楽園”と呼ばれていた場所よ。神々に祝福された地。魔力も満ちているし、何より……人の心が穏やかだったの」


リセルは目を細め、遠くを見つめた。


「……精霊がこんなに多い。人々が自然と共に生きている証ね」


ミイナが目を輝かせて走り出す。


「見て、ルナ! あの木の上に白い鳥がいる!」


「ほんとだ! 羽がキラキラしてる!」


ルナも嬉しそうに追いかける。

その姿に、クロエが微笑を浮かべた。


「子供らしくていいわね。あんな顔、久しぶりに見た気がする」


健司はゆっくりと村を見渡し、そして言った。


「……まずは、この村の人たちに話してみよう。僕たちが何者で、何をしようとしてるのか。ちゃんと、言葉で伝えたい」


ミイナが振り返って手を挙げた。


「賛成ー! わたし、村の人と仲良くなりたい!」


ルナも大きく頷いた。


「うんっ。魔女でもこわくないって、わかってもらいたい!」


リセルが小さく笑った。


「あなたたちは、もう“魔女”以上に、“家族”って感じね」


健司はその言葉に、少し照れたように笑った。


「ありがとう。リセルも……一緒に行こう?」


「ええ」


その時、ひときわ強い風が吹き、ローザの髪がなびいた。


彼女は誰にも声をかけず、ただ丘の端に立ち、眼下の村をじっと見つめていた。


「ローザ?」


健司が声をかけると、ローザはほんの少しだけ笑った。


「……美しい場所ね。まるで、昔の記憶の中にあった風景みたい」


「……来たことあるの?」


リセルがそっと隣に立って問いかける。


ローザは首を横に振った。


「ないわ。でも……なぜか、懐かしい気がするの。心のどこかにずっとあった……帰りたかった場所のような」


その言葉に、リセルは静かに微笑んだ。


「……変わったね、ローザ」


その一言に、ローザは少し驚いたように目を見開いた。


しかし、すぐに視線を空に向けて、ぽつりと答える。


「……変わってなんかいないわ。私は――昔の自分に、戻っただけよ」


「昔の?」


「ええ。戦うことだけが“魔女”じゃないって、知ってた頃の私。誰かを守りたいって思ったことも、信じたかったことも……全部、忘れたふりをしてたの。でも、それが……本当の私だったのかも」


リセルは、何も言わず、ただその隣に立ち続けた。


ローザの横顔には、静かな決意が浮かんでいた。


一方その頃――


村の入り口では、数人の村人たちが健司たちを見ていた。


彼らの顔には、不安や警戒の色が混じっている。


村人の一人――白髪まじりの初老の男が、一歩前に出た。


「……旅の方か?」


健司は深く頭を下げた。


「はい。僕は健司といいます。この子たちは……ミイナとルナ。こちらはクロエ、リセル、そしてローザです」


クロエたちも、静かに会釈をする。


村人たちは目を見開いた。

それぞれの姿が人間離れしていることに気づいたのだ。


「魔女……か?」


「はい」


健司は真正面から答えた。


「僕たちは、魔女が人間と共に暮らせる場所を探して、旅をしてきました。この村が穏やかで、美しくて……できれば、ここで少しだけ過ごさせてほしい。もちろん、すぐには信じてもらえないと思います。でも、僕たちは戦うために来たわけじゃない。共に歩むために来たんです」


村人たちはざわめいた。

その中に、ひとりの女性が口を開いた。


「……その言葉が、本当なら。私たちは、あなたたちの心を見ます。神聖獣たちが怯えていない。それが、何よりの証です」


健司ははっとした。


確かに、近くにいた神聖獣――大きな羽をもつシルフホーンが、ミイナの手から葉を受け取っていた。


「……ありがとう」


そう言った健司の目に、少しだけ涙がにじんでいた。


クロエがその肩に手を置いた。


「さあ、家を探しましょう。私たちの居場所を」


ミイナとルナが両手を挙げて跳ねた。


「やったー!」


「わたしたちの家だー!」


リセルは小さく微笑み、ローザの方を振り返る。


「あなたも、来る?」


ローザは一瞬ためらったが、やがて小さく頷いた。


「……ええ。でも、私はまだここに馴染むつもりはないわ。ただ、あなたたちがどんなふうに生きていくのか……それを見届ける」


リセルは優しく言った。


「それで十分よ」


こうして――健司たちは、ようやくたどり着いた。

心から「ただいま」と言える、初めての場所へ。


未来はまだ見えない。

けれど、彼らは歩み始めた。


希望と、優しさと、ほんの少しの勇気とともに。

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