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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
アスフォルデの環④再び

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否定の刃、揺れる心

南の村まで、あとわずかという地点。

陽光が柔らかく差し込む小道に、緊張の気配が走った。


「――待ちなさい」


その声は、冷たい刃のようだった。

健司たちの前に現れたのは、黒と紫を基調とした装束に身を包んだ少女――ローザ。


その瞳はまっすぐに、健司たちを射抜いていた。


「ローザ……」


クロエが警戒を込めて名を呼ぶ。


リセルも目を細め、そっと健司の前に立った。


ローザは動かず、ただ静かに言った。


「夢物語を……語るのはやめて。そんなもの、現実にはならない」


「……どうして?」


健司が一歩前に出た。


「魔女が笑って暮らせる世界を作る。それが夢物語だとしても、僕たちは――」


「それが、間違ってるって言ってるのよ!」


ローザが叫んだ。


その瞬間、大地を震わせるような魔力が解き放たれた。


地面から漆黒の荊が走り出し、健司たちに向かってうねるように伸びてくる。

同時に、ローザの手には黒き剣――「闇の剣」が握られていた。


「これが私の“否定”。ダークソードスラッシュ!」


鋭く振り抜かれた剣から放たれたのは、闇そのものの斬撃。

健司を目がけて一直線に迫ってくる。


「危ないっ!」


クロエが叫ぶその瞬間、健司は地面を転がるようにして回避した。

ぎりぎりで斬撃が頭上を掠め、木々を裂き、爆発的な音を残す。


「っ……!」


クロエとリセルがすぐさま動いた。

リセルは氷の槍を、クロエは風の刃を放ち、ローザに向けて反撃する。


しかし――


ローザはそれを読むように軽やかに跳び、空中で姿勢をひねり、避ける。


「クロエも……リセルも……! なぜ人間の言葉に心を許すの!」


再び地に降り立ったローザは、闇の荊を束ねるようにして鞭のように操り、健司の背後から襲いかかる。


「健司っ!」


クロエとリセルが同時に叫ぶ――だが、間に合わない。


(……こっちだ)


健司は自ら振り向き、迫る荊の気配に向かって両手を伸ばした。


「――やめて!」


その声とともに、健司の手が闇の荊を“つかんだ”。


「なっ……!」


ローザの目が見開かれる。

健司は、全身に力を込めて言葉を吐いた。


「……もう、いいよ。攻撃しなくていい。君が傷つくところなんて、見たくない」


「……どうして……! 私はあなたを倒そうとしてるのに!」


ローザの声は震えていた。

健司は彼女の目をまっすぐ見て、優しく、しかし揺るがぬ声で言った。


「――羨ましいんだね。クロエやリセルが、笑ってるのを見て」


その一言に、ローザの身体がぴたりと止まった。


「……ちがっ……!」


「違わないよ」


健司は荊をゆっくりと解くように手を離した。


「君だって、本当は笑いたい。信じたい。誰かを。でも、それが裏切られたら怖いから……否定することで、自分を守ってきた」


「……っ!」


ローザの顔が歪んだ。怒りとも悲しみともつかない表情が浮かぶ。


「私は……間違ってると思ってない! 人間なんて……!」


「僕が“人間”だから?」


「――!」


「だったら、話を聞いてよ。僕は君を傷つけるためにここにいるんじゃない。君を……救いたい。戦わなくても、わかり合えるって信じてる」


ローザは唇をかみしめた。


闇の剣が、少しずつ手から滑り落ちる。


「私には……そんなの、似合わない。強くなきゃ……“魔女”じゃいられない。優しさなんて……」


「優しさは、弱さじゃないよ」


健司がそっと近づいて、手を差し出す。


「一緒に行こう、ローザ。僕たちと。笑える場所に」


ローザの瞳に、涙がにじんだ。


そのとき――


闇の荊が、ふわりとしおれ、消えていく。

剣もまた、虚空に溶けていった。


「……バカみたい。私、ずっと……こうして戦うことでしか、自分の気持ちを伝えられなかった」


「でも、伝わったよ」


健司の手は、ローザの頬にふれることなく、ただそっと前に伸ばされたままだ。


ローザは、その手をじっと見ていた。

そして……まだ手を取ることはなかったが、拒絶もしなかった。


「……クロエ、リセル。あなたたち、変わったわね」


「そうね。でも、それは――」


リセルが静かに言う。


「誰かを信じたからよ」


クロエも頷く。


「そして、信じられたから」


ローザは、しばらく黙っていたが、やがて小さく口を開いた。


「……私も、もう少し……見てみたい。あなたたちが、どこまで行けるのか」


健司はほっとしたように微笑んだ。


「ありがとう、ローザ」


「……ただし」


ローザはピッと指を立てた。


「私はまだ、完全には納得していない。だから、ついていくわけじゃないけど、見届けるだけ。いい?」


「うん、それでいいよ」


そのやりとりを見ていたミイナがくすりと笑った。


「ローザも一緒に住むの?」


「誰が住むって言ったのよ!」


「でもでも、健司の家はあったかいよ!」


ルナも加勢して、場の空気が一気に和やかになっていく。


ローザは頭を抱えたが、その頬には、わずかに微笑のようなものが浮かんでいた。


太陽は高く昇り、彼らの行く先――南の村を照らし出していた。


そこは、誰もがまだ見たことのない未来。

でも、確かに希望は芽吹いていた。

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