表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
アスフォルデの環④再び

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/154

もう一度、戦えば

深い森の夜。

その木陰に、ひとりの少女が潜んでいた。


ローザ。

整った顔立ちと揺れる銀髪、そして冷静沈着なまなざしは、魔女としての覚悟と誇りを帯びている。


彼女の視線は、少し離れた場所――焚き火の前で話し合う二人の魔女、クロエとヴェリシアに向けられていた。


闇に紛れていたが、耳ははっきりと彼女たちの言葉を拾っていた。


(……ヴェリシア様、なぜ……?)


ローザは唇を噛んだ。


――「カテリーナ様は健司に注意を払っている」


――「もし本当に、彼が魔女と人間の間に“橋”をかけようとしてるなら、私はそれを見てみたい」


その言葉は、ヴェリシアの“変化”を如実に表していた。


(ヴェリシア様は、あの男を肯定しようとしている……)


ローザの胸の奥に、苦い痛みが走る。


ヴェリシアは、かつて彼女にとって“理想”だった。

冷静で、美しく、誇り高く、カテリーナやエルネアにも忠実で。魔女という存在を守るため、どんな汚れ仕事も引き受けてきた。


そのヴェリシアが――

今、人間を前に、心を揺らしている。


(どうして……あんな男の言葉に……)


焚き火の灯りが消えるのを見届けたローザは、そっと立ち上がった。


風が木々を揺らし、夜がさらに深まっていく。


彼女は、ヴェリシアの後を追って足音を殺し、森のさらに奥へと進んだ。


やがて、月明かりが差し込む広場に出る。


ヴェリシアが、ひとり佇んでいた。


「……どうして、黙ってたの?」


ローザの声に、ヴェリシアは振り返らずに応えた。


「気づいてたのね」


「ずっとあなたを尊敬していた。だから、分かるわ。あの夜から、何かが変わった。……あなたは、カテリーナ様やエルネア様を裏切るつもりなの?」


「……違うわ」


「じゃあ、なぜ……?」


ローザの声には、怒りというより困惑が混じっていた。


ヴェリシアは、ゆっくりとローザを振り返った。


「ねぇ、ローザ。あなたは、カテリーナ様やエルネア様が“絶対”だと思う?」


「……もちろんです。私たち魔女にとって、彼女たちは信念であり、灯火です」


「そう。……でもね、私は思ったの。もしかしたら、彼女たちも“変わる”かもしれないって」


ローザの目が見開かれた。


「変わる? そんな……!」


「感覚的なものよ。確証なんてない。ただ――リセルを見て、クロエを見て、そして健司を見て……ほんの少しずつだけど、歯車が狂い始めている気がしたの」


「……でも、それが良いことだとは限らない」


「ええ。でも私は、もう一度“信じてみたい”の。カテリーナ様も、エルネア様も、強さだけじゃない“何か”に気づくかもしれないって」


ローザは俯いた。


「私は……怖いんです。あなたまで変わってしまうことが」


「私は変わっていない。……ただ、見たいだけ。“その先”を。変わる世界を」


しばし沈黙が流れる。


そしてローザは、ゆっくりと口を開いた。


「……なら、私は戦います」


「戦う?」


「もう一度、あの健司という人間と。リセルやクロエとも。……そして、あなたとも」


ヴェリシアは目を細めた。


「それで、何が分かるの?」


「“何が正しいのか”じゃありません。“自分の中にある答え”を見つけたいんです。……戦えば、きっとわかります」


ローザの瞳は、強く輝いていた。

その奥にあるのは、純粋な意志。


「私にとって、戦うことは、確かめること。信じるための、通過点です」


「……そう」


ヴェリシアは小さく頷いた。


「それでいいわ。あなたらしい。ローザ……あなたは、きっと私を超えていく」


「そのつもりです」


「ただし――戦うからには、“本気”で来なさい」


「当然です。……本気じゃなければ、あなたの心にも届かない」


月がふたりを照らしていた。

静かな森の中に、決意の炎が灯る。


ヴェリシアはローザに背を向け、ゆっくりと歩き出した。


「カテリーナ様は、きっと次の一手を打ってくる。あなたは、どう動く?」


「……見極めます。自分の目で、心で。そして、答えを出します」


「……いい答えね」


ヴェリシアの言葉に、ローザは微笑んだ。


夜が、また少しだけ優しくなった気がした。


けれど、まだ世界は眠っていない。


魔女の運命も、健司の未来も、そしてヴェリシアとローザの信念も――

まだ揺れている。


そして、揺れるからこそ――光が生まれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ