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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
アスフォルデの環③平穏

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カテリーナという魔女

焚き火は、まだ小さく揺れていた。


夜の静寂を取り戻しつつある森の一角。

先ほどの激しい闇のうねりは、まるで何もなかったかのように消え去っていた。


しかし、地面には焦げた跡が残り、折れた枝や裂けた草が、その異常な戦いの痕を静かに語っていた。


クロエは、健司の肩に布を当てながら、眉をひそめていた。


「……よくこんな深手で動けたわね。信じられないわ」


「痛いけど、リセルを庇えたから、いいんだ」


健司は薄く笑いながらも、顔をしかめた。

血は止まりかけているが、深く切り込まれた傷は骨の近くまで達していたらしい。


ルナとミイナは、少し離れた場所で心配そうに見守っていた。

リセルは、焚き火の向こうで立ち尽くしたまま、視線を健司に向けていた。


やがて、彼女は静かに歩き出し、健司の隣に膝をついた。


「……ごめんなさい」


「ん?」


「私のせいで、あなたが傷ついた。……私が、もっと強ければ……」


健司はゆっくりと首を振った。


「違うよ、リセル。誰かを守ろうとするのに、理由なんていらない。僕がそうしたかっただけだよ」


リセルの唇が、ほんの少し震えた。

その言葉は、あまりにも真っ直ぐで、彼女の心を掴んで離さなかった。


「それに……」


健司はふと思い出して口を開いた。


「さっきの人……カテリーナって言ったよね? 彼女って、いったい何者なんだ?」


その言葉に、場の空気が再び張りつめた。


クロエが手を止め、ルナとミイナがぴくりと反応する。


そしてリセルは、焚き火を見つめながら、ゆっくりと語り始めた。


「……カテリーナ様は、魔女の中でも特別な存在よ。名前を聞いただけで震える魔女も少なくない」


「そんなに……?」


「ええ。彼女は“ブラックホール”を使う魔女。空間を圧縮し、引き裂き、すべてを飲み込む重力魔法。その威力は、文字通り世界を歪めるほど……」


健司の表情がこわばる。


「トップ10に入るくらい強い、ってこと?」


「間違いなく。“アスフォデルの環”という魔女組織の長で、魔女の谷を守る影の指導者の一人よ」


「そんなすごい人が……どうしてリセルを?」


リセルは目を伏せた。


「……私が、かつて“調停者”だったからよ。魔女同士の対立を収める立場だった。カテリーナ様の信頼も得ていた……でも私は、闇を守る側ではなく、光に惹かれた」


その目は、過去を見ていた。


「その結果、私は調停者の役目を放棄したと見なされた。……本来なら、もっと早く粛清されていたはず。でも、カテリーナ様は……」


彼女は言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。


「……仲間には優しい人なの。冷たく見えるけど、仲間が傷つけば怒るし、失われれば涙を流す。だからこそ、裏切りに近い私の行動が許せなかったのかもしれない」


クロエがうなずいた。


「私も昔、カテリーナと一緒に任務に就いたことがある。確かに優しい一面はあった……でも、それ以上に“魔女としての信念”を持っている。彼女にとって、“揺らぐ者”は何より危険なのよ」


「揺らぐ者……」


健司はその言葉を呟いた。


リセルの心が揺れたこと。

それがカテリーナの怒りを招いたのだ。


「でもさ」


健司は、少しだけ苦笑しながら言った。


「揺れるのって、そんなに悪いことなのかな? 感情があるから、守りたいものができる。信じたい気持ちが生まれるんじゃない?」


リセルは、健司のその言葉に目を見開いた。


「僕は……魔女も人間も、“正しさ”より“気持ち”のほうが大事だと思ってる。カテリーナって人がどれだけ強くても、気持ちまで縛ることはできないと思うんだ」


しばらく、リセルは何も言えなかった。


焚き火がぱち、ぱち、と音を立てる。


ようやく、彼女は小さく微笑んだ。


「あなたって……やっぱり不思議な人ね」


「よく言われるよ」


ふっと笑い合ったそのとき、クロエが立ち上がった。


「もう遅いわ。健司、今日は休んで。傷の回復には時間がかかる。私が見てるから、安心して眠って」


「……ありがとう」


クロエはふっと優しく微笑む。


そしてリセルは、焚き火のそばに布を敷いて腰を下ろした。


(……私の心は、もう戻れないのかもしれない)


リセルはそう思った。


カテリーナが言っていたこと。揺らいだ自分。


でも、それでもいい。


そう思えた。


「おやすみなさい、健司」


「おやすみ、リセル」


その声に、微かな安心が滲んでいた。


闇の中、静かに時が流れていく。


だが――


その影では、再び魔女たちが動き始めていた。


エルネアのもとには、新たな報告が届き、カテリーナもまた、次の一手を静かに準備していた。



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