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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編⑨マリエとクロエ

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213/215

時空間に沈む過去

マリエ、ルネイアのもとへ――時空間に沈む過去


時空がきらめいていた。


歩けば足元の空間が波紋となって揺れ、光がねじれて幾何学的な模様を描き出す。

そこは現実のどこにも属さない、いくつもの世界の狭間。

マリエが創り出した、閉ざされた回廊だった。


その中を、マリエ、ルナ、ミイナの三人が歩いていた。


ルナは腕を抱えたまま、不安げにマリエの背中を見つめていた。

ミイナは唇を噛み、時折マリエの横顔をうかがっている。


二人とも明らかに――恐れていた。


けれど、マリエは振り返らない。

まるで心を閉ざすように、ただ前だけを見て歩いていた。


沈黙を破ったのは、ルナだった。


「どうして……どうしてこんなことをするの?」


声は震え、泣き出す寸前のようにも聞こえた。


ミイナも続いた。


「マリエさん……

わたしたち、何かしましたか?

恨みでも……あるの?」


その問いに、マリエの足が一瞬だけ止まった。


「恨み……?」


マリエは小さく笑った。

その笑みには哀しさと、どこか自嘲が混ざっていた。


「あるよ。

魔女になる“前”はね」


「前……?」


ルナの眉が寄る。


ミイナの目には不安と好奇が混ざっていた。


マリエは目を閉じ、深く息を吐いた。


「昔の話よ。

あなたたちには関係ない――そう思ってた。

でも、やっぱり……私はまだ、あの日の私のままなの」


時空間の壁に薄い霧がかかり、マリエの記憶が滲み出すように景色が変わっていく。



草原に風が吹く。


記憶の中のマリエは、まだ普通の村の娘だった。

恋する少女であり、未来を信じる若者だった。


レオンはマリエの婚約者。

優しく、真面目で、村の誰からも好かれる青年。


――2人は、周囲からも“お似合い”だと言われていた。


「結婚式、待ち遠しいね」


当時のマリエは幸せに微笑み、レオンの腕に軽く寄り添っていた。


「うん。

マリエとなら……俺、どんな未来でも大丈夫だと思う」


たしかに、そう言ってくれた。


その言葉を、マリエは信じた。


ここまでは、確かに幸せだった。

疑う理由なんて、一つもなかった。


だが――


世界は誰の幸福にも優しくない。



「ねぇ、知ってる?クロエって娘……魔女なんだってさ」


「恐ろしいよね。あんな子が村にいるなんて」


「レオンと仲良くしてるって噂だぞ」


噂話。

たったそれだけ。


でも、誰かの悪意はいつだって軽い。

残酷なのは――それを信じた自分だった。


マリエは思った。


――あの子が魔女と噂されてる。

――レオンと仲がいい。

――利用できる。


クロエを遠ざければ、レオンと結ばれる未来が確実になる。


あの時のマリエは、愛のために手段を選ばなくなっていた。


村に火種を仕掛けたのは、マリエ自身だった。


「クロエは危険だ」と。

「魔力を隠している」と。


そう言って、彼女を村から追い出そうとした。


しかし――


予想外の出来事が起きた。


レオンが言ったのだ。


「マリエ……俺たち、逃げよう。村を出るんだ」


「どうして?村を出るの?」


「もう限界なんだ。噂が広がりすぎて不安でしょうがない……俺たちの未来は、ここにはない」


その時のマリエは勘違いした。


レオンは自分を守るために逃げようとしている――と。


けれど、本当は違った。



レオンは、クロエを守りたかったのだ。


マリエは、彼と逃げながら気づき始めていた。


“どこへ向かっているのか”を。


そして、ある丘のふもと。


マリエが気づいた先には、2人の魔女がいた。


1人は黒髪の女、セイラ。

もう1人は銀色の髪を持つ剣士の魔女――ルネイア。


セイラが微笑んだ。


「やっぱり来たわね。マリエって娘」


マリエは警戒しつつも訊いた。


「あなたたちは……誰?」


「私?そうね……あなたと同類よ」


「同類……? 私は魔女にはならない。違う」


ルネイアが、くつくつと笑った。


「違わないよ。

男に裏切られた女――って意味では、同類」


「裏切られてなんか……ない!私は、レオンを信じてる!」


その言葉は、震えていた。


セイラの眼がすっと細くなる。


「……ルネイア」


「了解」


ルネイアの剣がレオンへ向く。


「質問に答えろ、男。

お前は誰が好きなんだ?マリエか?それとも――クロエか?」


レオンの瞳には、迷いはなかった。


「クロエだ」


その瞬間――


マリエの世界が崩れる音がした。


レオンは続けた。


「マリエ……君は“結婚が目的”なんだ。

俺を見ていない。

俺の心を、何一つ――」


「嘘……だよね……?」


レオンは、首を振った。


「嘘じゃない」


その一言が――


マリエの心を殺した。


そして、現実では。


ルネイアの剣が、レオンの胸を貫いた。


「――っ!」


マリエは叫びすらできなかった。


レオンの身体が崩れゆく中、セイラの冷たい声が落ちた。


「言ったでしょう?同類だって。

私たちは、男に裏切られて、魔女になった」


マリエの膝が崩れ落ち、涙が地面に落ちた。


「私が……あんなことをしなければ……

クロエを利用しようとしなければ……

レオンは、死ななかったのに……」


その自責と絶望が、マリエの魔力を呼び起こした。


赤い光。

空間がねじれ、世界が歪む。


そして――


その日、マリエは魔女になった。


野蛮な魔女の一員として。



記憶の映像が消え、再び時空の回廊が広がる。


ルナは唇を震わせたまま、何も言えなかった。

ミイナは目に涙をため、マリエを見つめていた。


「……そういうことよ」


マリエは静かに言った。


「私はね、誰かを奪ったことがあるの。

だから、奪われる痛みも知ってる。

でも――許せなかった」


ルナが震える声で言う。


「だから……わたしたちを……捕まえたの?」


マリエは首を横に振った。


「違う。

あなたたちは“例外”を作るからよ。

魔女と人間が共に生きる世界なんて……

私は、信じられない」


ミイナが涙をこぼした。


「でも……健司さんは……!」


「健司?」


マリエの表情がわずかに揺れた。


「あの人は……まっすぐよ。

ああいう人が現れれば、揺らぐ魔女も出る。

あなたたちみたいに」


ほんの少しだけ、寂しげに笑った。


マリエは時空の奥を指し示した。


「着いたわ。

ルネイアのところへ」


光が裂けた。


その先に、剣を携えたルネイアの影が浮かび上がっていた。


「マリエ。遅かったわね」


マリエはルナとミイナを前に押し出すようにしながら答えた。


「この2人を――連れてきたわ」


ルネイアの笑みは獰猛で、どこか哀しげだった。


時空間が閉じ、3人の運命は新たな局面へ動き出した。



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