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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編⑨マリエとクロエ

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212/219

時空間の牢獄

リヴィエールの街の外れ、小さな野原が静かに風に揺れていた。

その静寂の中で、ただひとり、淡い金色の髪を持つ魔女が踏みしめていた。マリエ。

その目は冷たく、けれどどこか焦燥を帯びていて、誰かを探し求める獣のような気配をまとっている。


「……ルナ、ミイナ。どこにいるの?」


つぶやいた声は風に溶け、空へ吸い込まれた。


彼女にとって今回の任務は、主からの命令というより“確かめなければならない答え”だった。

人間に寄り添う魔女たち。

健司と共に歩もうとする者たち。

それが本当に正しいのか――否、許されていいのか。


その答えを得るためには、まず彼女らを捕らえなければならない。


マリエは目を閉じ、空間の揺らぎに耳を澄ませた。


魔力の反応が二つ。

幼いが、特異な波長を放つ――ルナとミイナのものだ。


同時に、やわらかな声が聞こえてきた。


「ご飯作ってあげるから、待ってて」


「クロエさんのご飯、久しぶり!」


「うん!ミイナ、あのお肉の煮込みが食べたい!」


マリエの表情が微かに揺れた。

その声音は、あまりに日常的で、あまりに無防備で、あまりに――幸せそうだった。


「……見つけた」


マリエの目が細くなる。


空間が一瞬だけ軋む。


そして次の瞬間、彼女の姿は消えた。



ルナとミイナは木陰の下で談笑し、草花を摘んでいた。

ほんの一瞬、風が止んだ。


その静寂が不自然に思えるほど。


「……ミイナ?」


「ルナ?」


二人が顔を見合わせたときだった。


ズンッ――!


まるで世界が一瞬だけ裏返ったかのように、視界がゆがみ、光がねじれた。


そして、時空間の裂け目からマリエが現れた。


「こんにちは、二人とも」


「誰?」


ルナの声が震える。

ミイナの手がぎゅっと握りしめられる。


マリエは微笑んだ――だが、それは温かさの欠片もない笑みだ。


「思っていたより楽しそうね。

でも、もう終わりよ。あなたたちを迎えに来たの」


マリエの手が伸びる瞬間、ルナとミイナの身体は光の枷に包まれた。


「きゃあっ!」


「いやっ……何これっ!」


二人は抵抗しようとしたが、時空魔法は触れることすら叶わない。

重さも、熱も、痛みすらなく、ただ存在そのものを拘束する。


マリエは淡々と告げた。


「逃げなくていいのよ。

あなたたちは――私が連れていくから」




「ルナ!?ミイナ!?大丈夫!?」


クロエが駆け込んできたのは、まさにその瞬間だった。

彼女の眼に飛び込んできたのは――


光の枷に捕らえられた二人の少女、

その前に立つマリエの姿。


「……マリエ。どうして、あんたがここにいるの」


クロエの低い声は怒りと焦りで震えていた。

マリエは振り返り、楽しげに笑った。


「どうして、って……捕まえに来たのよ。

ルナとミイナを」


「そんなこと――させるわけないでしょう!」


クロエが杖を構えた瞬間。


マリエの目が冷たく光った。


「本当に撃つつもり? その状態のルナとミイナに向けて?」


クロエはハッとした。

時空間拘束は魔力を吸う。

もし攻撃すれば、反射して二人にダメージが戻る。


クロエの手が震える。

杖を握る指先が汗ばむ。


「くっ……!」


マリエはゆっくり歩み寄り、クロエの前で立ち止まった。


「あなたは優しいから、絶対に撃てない。

わかってたわ」


静かな言葉が、逆に胸を締めつける。


「ふふ……では、また」


クロエが叫ぶより早く。


マリエの姿は、ルナとミイナごと歪んだ光に飲まれ――


瞬間、消えた。


「――ルナ!! ミイナ!!」


クロエの声が虚しく森に響く。


足が震え、膝が地面についた。


「……マリエ……あんた……だけは……」


クロエの胸の奥で、怒りが黒く渦を巻いた。

魔力が暴発するほどの激情。

涙が頬を伝う。


「絶対に許さない……。

絶対に……連れ戻すから……!」


その誓いは風に乗り、遠くへ消えていった。


だが、クロエは知っている。


マリエは本気だ。

あの時空魔法は、ただの“捕獲”ではない。

逃げることは不可能。

見つけることすら難しい。


その絶望を噛みしめながらも、クロエは静かに立ち上がった。


服についた土を払うことも忘れ、ただ一点――マリエが消えた場所を睨む。


「……待ってなさい。

あんたがどんな場所に連れていったって……ルナとミイナは、絶対に取り返す」


クロエの眼が、獣のような鋭さを帯びた。


風が吹き、空が揺れる。


新たな火種は、確かに灯った。

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