ルネイアと健司の対話
広場に鳴り響く悲鳴と怒号、火花のように散る魔力の光。
その中心に、健司とカテリーナ、そしてルネイアが向かい合っていた。
ルネイアは、戦場のただ中にいるというのに、どこか遊びにでも来たかのような軽やかな笑みを口元に浮かべていた。
その笑みが、カテリーナを余計に刺激した。
「健司……どいて……。あいつだけは……!」
カテリーナの肩が怒りで震えていた。
その瞳には、あの“村の事件”で受けた心の傷が、まだ消えずに残っている。
「落ち着いて、カテリーナ」
健司は静かに手を伸ばし、彼女の肩に触れた。
その温度だけで、カテリーナの呼吸がほんの少し整う。
しかし。
ルネイアは一歩、楽しげに近づいた。
「健司君、カテリーナを守る価値あるの? だって彼女……逃げたんだよ。自分の仲間を見捨ててさ」
「……っ!」
カテリーナの顔が苦しげに歪む。
その言葉は、彼女自身が一番気にしている過去の傷を、正確に刺しに来ていた。
健司は一歩前へ出て、ルネイアに向き直る。
「違います、ルネイアさん。カテリーナは“逃げた”んじゃない。彼女は変わったんです。仲間を守れる自分になろうとして、ずっと努力してきた」
「変わった? ふふ。健司君は本当に優しいね。人のいいところを、必死に見ようとする」
その声は柔らかいのに、どこか底知れない冷たさが混じっている。
「それは……ルネイアさんも、同じなんじゃないですか?」
健司の言葉に、ルネイアのまぶたがかすかに揺れた。
その瞬間だった――
「ルネイア!!」
怒号とともに、数人の魔女が姿を現した。
ブラッドレイン、メルガ、スルネ――
かつて野蛮な魔女として恐れられ、今はリヴィエールへ保護された魔女たち。
ルネイアは彼女たちを見ると、思わず笑みを深めた。
「おお、元気そうで何より。いい人が見つかったね。嬉しいよ。君たちと会った頃は、本当に荒んでたからね」
「……健司に助けられたからよ」
メルガが答えると、スルネがうつむきながら小さくうなずいた。
ブラッドレインは腕を組んで、健司をちらりと見ただけだ。
その“変化”は、ルネイアにとっても予想外だったのかもしれない。
「健司、ね……。なるほど。――まあ、おしゃべりはここまでだ」
軽く肩をすくめた後、ルネイアの瞳がすっと細くなる。
「絶望の時間だよ」
その言葉に、カテリーナが身構え、周囲の魔女たちも魔力を立ち上げた。
しかし健司は、ルネイアにまっすぐ声を投げた。
「いえ。ここから始まるのは――希望です」
「……希望?」
ルネイアの表情が、ほんの一瞬だけ、凍りついた。
その変化は誰もが気づくほど、明確なものだった。
「ルネイアさんは、仲間を大事にする魔女だって聞きました。
あなたが“仲間のために動く”魔女だって、ブラッドレイン、メルガ、スルネが言ってました」
ルネイアの目がわずかに揺れる。
「だから、あなたは絶望なんて言うけど……本当は、誰よりも希望を求めてるんじゃないですか?」
「……っ」
喉の奥で何かが引っかかったような息を吐き、ルネイアは顔をそらした。
けれど、その瞬間。
「ルネイア……?」
シミラが震える声を出した。
その声に、ルネイアの魔力が急激に荒れだす。まるで抑え込んでいた何かが、突如として噴き出したように。
「希望……? そんなもの……」
空気が歪む。
ルネイアの靴先から地面がひび割れ、風が逆巻き、空気の色そのものが暗く沈んでいく。
「人の“変わりよう”なんて……絶望を見せれば、いくらでも壊れるんだよ……!!」
その言葉には――ただの残酷さだけじゃなかった。
傷ついた者だけが持つ、深い痛みが混ざっていた。
シミラが震えながら声を上げる。
「ルネイア……? どうしたの……? あんた、そんな……」
「黙ってて、シミラ」
ルネイアの声が鋭くなる。
普段の彼女からは考えられないほどの冷たさだ。
健司は一度息を吸い、真正面から言った。
「ルネイアさん。あなたは――絶望を知ってるんですね」
その言葉に、ルネイアの目が見開かれる。
「――――」
ほんの数秒の沈黙。
しかし、その数秒が永遠のように重たかった。




