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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
アスフォルデの環③平穏

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魔女って、みんな綺麗だね

朝霧が森の中を薄く包み込み、柔らかな光が木々の間から差し込んでいた。

春の終わりを感じさせる、心地よい風が頬を撫でる。


健司たちは南の村を目指して、森の小道を歩いていた。道は緩やかに上り、やがて開けた丘へと続いている。


「この先の峠を越えれば、村まではもう少しよ」


クロエが地図を広げながら、後方の一行に呼びかけた。

ルナとミイナは元気よく「はーい!」と返事をし、健司のすぐ後ろを小走りに進んでいた。


だが、その少し後方――

木々の陰を選ぶように歩く一人の姿があった。


リセル。黒いローブをひるがえしながら、やや距離を保って一行についてきている。

その表情は相変わらず無表情で、冷たい風のような雰囲気を漂わせていた。


とはいえ、以前のような敵意や拒絶はない。むしろ、どこか所在なさげに視線を落とし、時おり健司たちの様子をうかがっているのだった。



昼を少し過ぎたころ、小さな泉のある広場で一行は小休憩を取ることにした。


ルナとミイナは泉のそばで水を汲んだり、魔法で涼しい風を起こしたりして遊んでいた。クロエは木陰に座り、持ってきた保存食をほぐしていた。


健司は、ふとリセルの姿を探した。

少し離れた岩の上、木漏れ日に照らされて座っている彼女の姿があった。


リセルはローブのフードを下ろし、風に揺れる銀灰の髪をそっと抑えていた。

その横顔はどこか儚げで、しかし強い意志が秘められているようにも見える。


(……綺麗だな)


自然と、そんな言葉が健司の胸に浮かんだ。


気づけば、彼は歩き出していた。


「リセル」


呼びかけると、彼女はやや驚いたように振り返る。

その反応に健司は少しだけ笑みを見せながら、岩の前にしゃがんだ。


「えっと……なんか、こうしてみんなと旅をしてるとさ。改めて思ったんだけど……」


「……なに?」


「魔女って、みんな綺麗だね」


静寂が落ちた。


リセルの肩がわずかに揺れた。


「――な、なにを言っているの、あなたはっ!」


顔をそむけるリセルの頬が、さっと赤く染まる。

普段の冷静さはどこへやら、動揺した声が空気を震わせた。


「べ、別に私は……そんな……っ」


その様子に、泉から戻ってきたルナとミイナがにやりと笑った。


「やっぱり健司もそう思ってたんだ〜!」

「だよね〜! 魔女ってみんな美人だよね〜!」


「そ、そんな話してたの?」


「うん、昨日の夜。クロエさんと3人で、“健司は誰がタイプかな〜”って!」


「ええええっ!?!?」


リセルの動揺が最高潮に達した瞬間、クロエが木陰からクスクスと笑いながら歩いてきた。


「ふふ。ねえ、健司。それ、リセルにだけ言ったら?」


「えっ?」


「魔女って“みんな”じゃなくて、“君が綺麗だね”って言ったほうが……効果あるかもよ?」


「ク、クロエ!」


リセルがクロエに抗議するも、クロエは余裕の笑みで応じる。


「冗談よ、冗談。でも……本当に健司の言葉って、変なところで真っすぐだから驚くわ」


「えっと……でも、本気で思ってるよ」


健司は照れもせずに言った。


「リセルも、クロエも、ルナも、ミイナも……魔女ってみんな、すごく綺麗だと思う」


その言葉に、一同は不意を突かれたように静かになった。


風が吹く。木の葉がざわめき、泉の水面がきらきらと揺れる。


リセルは視線を落としたまま、小さく呟いた。


「……そういうことを、さらっと言うの、ずるいわよ」


健司は首をかしげる。


「そうかな?」


「そうよ。……私、そんな風に言われたの……初めてだから」


その声は、小さく、どこか壊れそうで――でも確かに、心の奥からのものだった。


しばらくして、リセルは立ち上がり、一歩前に出る。


「先に、歩いてるわ」


顔を見せず、そう言って森の小道を歩き始める。


その背中を見送りながら、ルナがこそっと健司に言った。


「健司……あれは、たぶん“照れてる”ってやつだよ」


「……そうなんだ」


「うん。あれでけっこう素直になってるの。たぶん、かなり特別扱いだよ?」


健司は小さく笑った。


クロエも荷物をまとめながら頷いた。


「ほんと、あの子は不器用だけど……確かに、君の言葉は彼女の心に届いてるわ」


その言葉に、健司はほっとしたように笑った。


そして、しばらく歩いた先の分かれ道で、リセルが立ち止まり、振り返った。


「……さっきは、ありがと。……その、ほんの少しだけ、うれしかった」


それだけを告げて、彼女は先へ進んでいった。


魔女たちの心を、少しずつ動かしていく健司の旅。

それは、“愛”という言葉が、ゆっくりと芽を出す旅路だった。

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