9位の魔女ルネイア
ルメが去った後のリヴィエールは、一見いつも通りの静けさに戻っていた。
だが、誰も知らない。
その静けさは“嵐が来る前の気配”そのものだった。
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ルネイアはマントを払って立ち上がると、仲間の2人に向き直った。
「作戦開始だよ。私とシミラが注意を引きつける。その間に――」
「私がルナとミイナを攫う」
マリエが落ち着いて続きを言った。
「そう。あの2人は健司が最初に助けた魔女。
ここを狙うなら、まず“心の揺さぶり”からだよ」
ルネイアは唇を歪めて笑った。
「健司がどっちを選ぶのか――その答えを見たいんだ。
選ばれなかった方には、“絶望”を見せてあげる」
シミラは無表情のまま頷いた。
「結界の用意は整っています。時間を稼ぎます」
「うん、よろしくね。じゃ、行こ」
3人は森を抜け、リヴィエールへ向かって歩き出した。
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夕日が傾き始めた頃。
広場にいた住民たちは、突如空気が重くなったように感じた。
「ねぇ、何か……寒くない?」
「魔力の気配……?」
空気がざわめき、影のように2つの人影が現れた。
「やぁ。リヴィエールの皆さん、ごきげんよう」
現れたのは――ルネイア。
その横には、人形のように無表情なシミラが立っている。
「っ……!?
お、おまえは――9位の魔女、ルネイア!」
そう叫んだのは買い物帰りのファルネーゼとヒシリエだ。
ルネイアは軽く手を振ってみせた。
「久しぶりだね、炎の魔女たち。元気にしてた?」
「どうしてここに……!」
「ふふ……ここからが絶望の始まりだよ」
その瞬間、シミラが手を広げた。
淡い青色の結界が広場全体を包み込む。
「結界……!」
健司たちはリビングに集まっていた。
クロエが不在なのは珍しかったが、それ以上の異変が起きる。
廊下を全力で走る足音が聞こえたかと思うと――
「大変です、ラグナ様!」
リズリィが部屋に飛び込んできた。
息は荒く、顔は強張っている。
「どうした?」
ラグナが眉をひそめる。
「敵襲です。 野蛮な魔女達が――来ました」
「……相手は?」
「9位の魔女ルネイアと、シミラ……二人です」
その瞬間、空気が震えるほどの怒気が部屋を満たした。
「ルネイア……!!」
怒りの声を上げたのはカテリーナだ。
握りしめた拳が震えていた。
「前の戦いの“借り”、返させてもらうわ……!」
健司がすぐに立ち上がる。
「みんなで行こう。リズリィ、場所は?」
「――広場です!」
「よし、行くぞ!」
健司たちが広場に到着すると、そこではすでに戦闘が始まっていた。
「ファルネーゼ! ヒシリエ!」
健司が叫ぶと、二人はこちらを振り向いた。
「健司! 来てくれたか!」
ファルネーゼの腕が炎を纏い、ヒシリエは広範囲に炎を放っている。
だが――
「当たらない!? なんで……!」
ヒシリエが叫ぶ。
炎が確かにルネイアに向かっているのに、彼女の身体に触れる前に風のように逸れていく。
「落ち着け、炎の魔女!」
背後から厳しい声が飛ぶ。
「ルネイアは“物理型”の魔女だ。炎は読まれる」
「フラム様が言っていたな……」
ラグナが剣を構えながら呟く。
ただその一瞬の隙に――漆黒の魔力が走った。
「――ブラックホール」
カテリーナの魔法が、ルネイアを飲み込まんと迫る。
しかし。
ルネイアは軽く跳んだだけで避けた。
その動きは、まるで風が踊ったように滑らかだった。
「おっと、危ない危ない。カテリーナ、久しぶり」
「ルネイア!!
前の戦いの仲間の仇、ここで返させてもらう!」
カテリーナの怒気は膨らみ、黒い魔力が渦を巻く。
だが、ルネイアは少しだけ首を傾げた。
「仇……? カテリーナ。
あなた……“守られていただけ”のおまえに、何ができるの?」
その一言で、広場は一気に張り詰めた。
カテリーナの表情が歪む。
「黙れ……。
私は――守られっぱなしじゃない……!
健司に出会って……私だって……!!」
叫ぶように魔力を放とうとした瞬間――
ルネイアの目が、鋭く細まった。
「健司がいなかったら、あなたはまだ“弱いまま”よ?」
「――ッ!!」




