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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編⑦いたずら

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207/215

ルメの悪戯と、騒がしい朝のリヴィエール

リヴィエールの夜は、不思議なほど静かだった。

 魔力の濃い街特有の、ほのかなざわめきはあるのに、どこか優しい。

 メルガとスルネ――長く野蛮な魔女達の中で戦い続けてきた二人にとって、この街の空気はあまりにも穏やかで、落ち着かなくなるほどだった。


「メルガ、スルネはゆっくりしていってね」


 夕暮れの光が窓から差し込む中、健司が二人に声をかけた。


「ありがとう。……これからは、ゆっくり考えるわ」


 メルガは手を胸に当て、静かに微笑んだ。

 戦いの中で固くなった心が、少しだけ緩むような声だった。


「スルネも、今日はもう横になるよ。変な街……だけど、悪くない」


「変な街って」


 健司が思わず笑う。

 そんな軽い空気に、スルネも笑った。


 ――その頃。

 暗い影が、廊下の奥へスッと消えていった。


(さて……準備は完了。楽しみだなぁ、健司の反応)


 ルメだった。

 模倣魔法の天才であり、人をからかうことにかけては右に出る者はいない。

 彼女は今日、すでに“ある作戦”を思いついていた。



 夜も深まった頃、健司がベッドに腰掛けていた時だった。

 トントンと部屋の扉が小さくノックされた。


「健司、今日は頑張ったね」


「クロエ?」


 扉の向こうにいたのはクロエにしか見えない魔女。

 細い肩、同じ髪、同じ瞳、同じ声。


 違和感はまったくなかった。


「うん、クロエ。クロエもありがとう」


「どうも。……ねぇ、ちょっと最近寂しくて。隣で寝ていい?」


「えっ、クロエがそんなこと言うなんて珍しいね」


「たまにはね」


 本物より少しだけ笑い方がやわらかい。

 それでも健司は気づかない。

 ベッドの片側にクロエ(ルメ)が潜りこみ、健司は少し緊張しつつも横になった。


(さて……反応が楽しみすぎる)


 ルメは内心、笑いを押し殺していた。



「健司、起きて」


 クロエとリセルの声がした。

 まだ寝ぼけていた健司はゆっくり目を開けた。


「あ……クロエ、リセル。おはよう」


「おはようじゃないよ」


 クロエの声が冷たい。


「……健司、その女性、誰?」


「へ?」


 隣を見る。

 クロエが寝ている。いや、クロエ“に見える女性”がいる。


「女性?クロエじゃない!……もしかして――ルメ?」


 ピクリ、とクロエ(ルメ)の口元が上がる。


「ばれちゃった? 面白かったね」


「面白くないよ!」


 クロエの怒声が響いた。


「偽物すら区別できないわけ!? こんなに違うでしょ!」


「いや、まったく同じだったよ……」


「健司、だからって許されると思う?」


 リセルが腕を組んでにじり寄る。

 その目は完全に“問い詰めモード”だった。


「いやほんとに、違和感ゼロで――」


「言い訳しない!」


「ひえっ」


 追い詰められる健司。

 だが、その空気を破る声があった。


「健司を責めるのは酷だ」


「そうだな。これは健司が悪いわけじゃない」


 ラグナ、アナスタシア、メルガ、スルネ、そしてブラッドレインまでが部屋に入ってきていた。


「あ、あの……どうして皆いるの?」


「なんとなくだ」


 ラグナが無表情で答える。


「ルメは模倣魔法の天才。本物以上に精巧だ。区別できなかったのは当然だ」


「そ、そんなレベルなの……?」


「うん。自分でも気持ち悪いくらいの完成度なんだよね」


 ルメが元気よく手を挙げた。


「ルメ、何しに?」


 アナスタシアが眉をひそめる。


「からかいに」


「からかい?」


「うん。あ、それとね。ついでにメルガとスルネが健司に告白したっていう嘘をセイラに話した」


「はあああああ!?」


 メルガとスルネの顔がバーッと赤くなる。


「な、なんてことを……! セイラ様は何て?」


「『ありえない』って言ってたよ。でも最後に、『惚れさすのは健司だろう』って言ってた」


「余計なことを……!」


 ラグナの眉がピクリと動く。

 アナスタシアのこめかみもピクピクしていた。


「ルメ。火に油を注ぐような真似を?」


「おもしろいから」


 即答だった。



 全員が呆れていた。

 健司も苦笑いするしかない。


「……ルメ、その……からかったりして楽しい?」


「楽しいよ!健司の反応も、みんなの反応も最高だし!」


 彼女はいつも通り笑っている――が。


 ふと、その瞳の奥の寂しさに健司は気付いた。


「……ルメ、寂しかった?」


「え」


 その一言に、ルメが一瞬固まった。

 悪戯を仕掛けた張本人が、まるで子供のように視線を逸らす。


「な、何言ってるのさ」


「いや……なんとなくそうかな、って」


「…………」


 沈黙。

 その沈黙に、逆に全員が驚いた。


 ルメが照れている。


「……馬鹿だなぁ、健司。そんなの、気付かなくていいよ」


 その表情は“クロエの変装”よりずっと本物らしい顔だった。



「と、とにかく! これはこれで私の勝ちだから!」


「何に勝ったの?」


 クロエがジト目で突っ込む。


「全部!」


「意味わかんない!」


 部屋はいつもの騒がしい空気に戻りつつあった。


「……健司、今日も忙しくなるぞ」


 ラグナが肩を叩き、


「メルガとスルネの保護もあるし、セイラの動きも気になる」


 アナスタシアが低くつぶやく。


「ふふ、楽しくなってきたね!」


 ルメはケロッとして笑った。


「楽しくはならない!」


 全員がツッコむ。


 リヴィエールの朝は、またしても賑やかに幕を開ける。

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