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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編⑦いたずら

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206/215

次なる作戦

ルメが消えた後のホワイトヴェルの会議室は、まるで息を潜めた洞窟のように静かだった。

つい先ほどまでルメの軽薄な笑い声が響いていたにもかかわらず、今は嘘のように沈んでいる。


テーブルには亀裂が走り、セイラの怒りの余韻がまだ空気に残されたままだ。

その冷たさと熱さが混じったような空間の中で、野蛮の魔女たちが重たい沈黙を共有していた。


最初に口を開いたのは、金髪の魔女、マリエ。

血を思わせる赤黒い瞳が、まだ信じられないというように揺れている。


「……まさか、メルガとスルネがやられるとは」


その声は低く、鋭く、そしてどこか寂しげだった。

あの2人は、野蛮の魔女でも特に誇り高い者たちだったのだから。


マリエの隣で、軽やかに座り込んでいたルネイアが肩をすくめる。

彼女だけはこの重苦しい空気の中でも、いつものように陽だまりのような表情を浮かべていた。


「まあ……やられた、というより、心を折られた、って感じよね。恋だの愛だのでふにゃふにゃっと」


「元気だな、おまえは」


マリエが呆れたように言うと、ルネイアは笑いながら足を組み替えた。


「気にしたってしょうがないでしょ? 起きたことは変わらないんだし」


セイラは黙っていた。

椅子に深く腰掛け、片肘をつき、瞳だけが炎のように揺れている。


その雰囲気に怖気づいたようにシミラが声を上げた。

彼女は白い髪と薄灰色の瞳を持ち、反射の魔法を操る魔女だ。


「せ、セイラ様……次の方針は、いかがなさいますか」


その言葉で、セイラの瞳がマリエ、シミラ、そしてルネイアに向けられた。


「メルガとスルネが捕まったのは痛い。……2人は野蛮の魔女の顔のようなものだったからな」


「同感です」


マリエが頷く。


「外に与える印象も大きい。野蛮の魔女の威信が揺らぎかねません」


セイラは身を起こし、静かに言った。


「……そういえば、リヴィエールには2人の魔女がいたわね。ルナとミイナ。健司に最初に救われた子たち」


ルネイアの表情がぱっと明るくなった。

あの悪戯好きの光が、また瞳に宿る。


「ルナとミイナ? ああ、あの子たちね。かわいいけど、ちょっと弱そうな感じの」


シミラが続ける。


「あの2人は健司を信頼していますね。特に……深い友情を持っています」


セイラの指がテーブルを軽く叩いた。コツンと冷たい音が響く。


「ルネイア。あとは分かるな?」


「もちろん。セイラ様が考えてることくらい、言わなくてもわかるよ」


ルネイアは、花が咲くような笑みを浮かべた。


マリエは眉をひそめた。


「まさか……ルナとミイナを、囮に?」


ルネイアは指をひらひらさせながら言う。


「囮なんて言い方は嫌いなんだよね~。『健司への選択』って言ったほうが可愛くない?」


シミラの顔が青ざめた。


「選択……ですか?」


「そう。ルナとミイナ、どっちを選ぶかを健司に決めさせる。そして――」


セイラが続きを言った。


「選ばれなかった方には、絶望を見せる。……人間の男がどれほど脆いか、思い知らせてやるのよ」


マリエとシミラが息を呑む。


ルネイアは軽やかに立ち上がり、「はーい」と手を挙げた。


「じゃあ、行こっか。マリエ、シミラ」


マリエが険しい表情で問う。


「いいのですか? リヴィエールにはアナスタシアもラグナもいます。簡単に突破できるとは――」


ルネイアが指を口に当てて笑う。


「心配しないで。私がいるから。マリエはルナとミイナの捕獲に集中して。シミラの魔法があれば、アナスタシアの追跡くらい何とかなるし」


シミラは自信なさげに視線を落とす。


「し、しかし……あの2人は、強者中の強者です。」


「だから私が一緒に行くんだってば」


ルネイアは彼女の肩をぽんと叩いた。


「仲間を危険にさらすつもりはないよ。私、こう見えて仲間思いなんだから」


マリエはその言葉にうなずく。


「……あなたがそう言うなら信じましょう」


ルネイアは、本来が明るくフレンドリーな性格だ。

野蛮な魔女たちの中で、彼女が“リーダー”と呼ばれるのは、その柔らかさと、仲間への深い想いゆえだった。


そんなルネイアに、セイラが重く問う。


「……ルネイア。また残酷なことを考えているのではないでしょうね?」


ルネイアは振り向き、子どもが秘密のおやつを見つかったときのような顔をした。


「えー、セイラ様ってば、すぐそう言うんだから。ふふ……まあ、見ててよ」


そして小さく手を振り、


「じゃ、準備するね」


と軽く跳ねるように部屋を出て行った。


マリエとシミラもそれに続く。

扉が閉まる時、遠くで雪風の音が鳴った。


会議室にはセイラだけが残された。

彼女は目を閉じ、ゆっくり息を吸う。


「……健司。人間のくせに、どれだけ魔女を惑わせれば気が済むんだ」


その声には、怒りだけでなく、かすかに焦りが混じっていた。

そして、風が吹き抜ける。


ホワイトヴェルの雪原で、野蛮な魔女たちの影が静かに動き始めた。

次なる嵐が、リヴィエールへ向かって歩き出している。


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