表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編⑥アウレリアの魔法

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

204/215

リヴィエールの夜、再生の時

夜は深く、静かに更けていった。

リヴィエールの街の上には、柔らかい月が浮かんでいる。

まるで、今日という1日のすべてを見守っているかのように、やさしく、白く。


その光の下で、健司は、まだ眠り続けていた3人の魔女――ソレイユ、セレナ、リーネのそばに立っていた。

彼女たちは魂を奪われ、魔法の中で彷徨っていた。

けれど、今は安らかな寝息を立てている。

ミリィがずっと手を握ってくれていたおかげかもしれない。

アナスタシアも、アウレリアも、そしてカテリーナも、その周囲を静かに囲んでいた。



部屋の灯りが、彼女たちの頬をやわらかく照らした。

そのとき、セレナの指がかすかに動いた。


「……ん……」


健司が息をのむ。

ミリィが立ち上がり、涙をこぼした。


「セレナ! 聞こえる? 私よ、ミリィ!」


セレナのまつげが震え、ゆっくりと目が開いた。

光が入り込むように、ぼんやりとした瞳が健司を映す。


「……健司……? ここは……」


「リヴィエールだよ。もう大丈夫、みんなが守ってくれた」


続いてソレイユが目を開け、リーネも身を起こした。

3人はしばらく夢を見ているように互いを見つめ合い、それから同時に泣き笑いになった。


「健司、信じてたよ……必ず助けてくれるって」


「ほんとに、ありがとう……」


その言葉を聞いて、健司の胸が熱くなった。

やっと――取り戻せたのだ。

彼女たちの命も、心も。




「さて……」


アナスタシアが小さく息をつき、現実に戻すように言った。


「これからどうするの? あの2人、メルガとスルネのこと」


言葉の重さに、場の空気が少し沈む。

ミリィが彼女達を見つめながら口を開いた。


「捕まえておくべき、って言われそうだけど……あの人たち、もう戦う気はないと思う」


ラグナが腕を組んだまま、低い声で答えた。


「それでも、見逃すのは危険よ。彼女たちは名のある魔女。魔女ランキングの上位に入っているわ。力のバランスが崩れる可能性もある」


「ラグナの言う通りよ」


アナスタシアが続ける。


「一度改心したように見えても、過去に縛られて戻る魔女も多い」


メルガとスルネは、その場にいた。

両手を縛られることもなく、ただ見つめている。

その表情には、どこか諦めにも似た静けさがあった。


健司が立ち上がる。


「待ってください、アナスタシア、ラグナ」


「何?」


「彼女たちは、確かに罪を犯しました。でも、それだけじゃない。彼女たちにも心がある。迷いも、恐れも。誰かに認められたい気持ちも……」


健司の言葉に、静寂が戻る。


「やり直すチャンスがあっても、いいと思うんです。人間でも、魔女でも」


ミリィが小さく頷いた。


「うん……愛を知ったって、メルガさん、言ってたもんね」


「そう。彼女たちは、まだ若い」


アウレリアが柔らかい声で続けた。


「強者の前では逆らえない。私たちだって昔はそうだった」


アナスタシアが目を閉じ、腕を組んで沈黙する。

ラグナも何かを考えているようだった。


そのとき――。


「ねえ」


静かな声が場を割った。

ブラッドレインだ。

いつもの赤いローブを揺らしながら、ゆっくりと前に出てくる。


「あなたたちは、どうしたいの? メルガ、スルネ」


2人は顔を見合わせた。

メルガが先に口を開く。


「……私たちは、ここにいる。それがいちばんに感じる」


「ここに、って?」


ミリィが尋ねた。


「戦う場所じゃなくて、誰かと話せる場所。あの時、セイラに拾われて……私はずっと、戦うことがすべてだと思ってた。でも、今は違う」


スルネも小さく息をつく。


「私は……まだ信じられない。でも、健司の言葉、少しは……刺さったのかもしれない」


彼女の頬がわずかに赤くなった。

透明になる魔女――その心の中に、ほんの少しだけ光が差した瞬間だった。


カテリーナが苦笑した。


「ふふ、ツンデレね」


アウレリアが肩をすくめる。


「あなたも似たようなものよ、カテリーナ」


「なっ!? 違うわよ!」


場が少しだけ和む。

笑いが零れ、焚き火の火がぱっと明るくなった気がした。


健司が笑みを浮かべながら言った。


「じゃあ、決まりだね。彼女たちはリヴィエールに残る。ここなら、誰かの支配じゃなく、心で繋がれる」


アナスタシアが目を開け、静かに頷く。


「……健司がそう言うなら、私は従うわ。ただし、監視は必要よ」


ラグナも立ち上がり、腕を下ろした。


「ええ。彼女たちも、これ以上の争いを望んでいないようだしね」


メルガは微笑んだ。

その顔は、これまでの彼女からは想像できないほど穏やかだった。

戦いを、恐怖を、そして孤独を超えた表情。


「ありがとう。健司……そして、みんな」


その夜、リヴィエールの空には流星が一筋、静かに流れた。

まるで、新しい始まりを告げるように。


夜が明けた。

街の鐘が鳴り、遠くから鳥の声が聞こえる。


メルガとスルネは、リヴィエールの中央広場に立っていた。

ソレイユたち3人も、すでに完全に回復している。


「これから、どうするの?」


ソレイユが尋ねた。


「まだ決めてない。でも……もう、破壊することはやめる」


メルガが答える。


「私も、もう隠れたくない」


スルネが続けた。


その言葉に、セレナとリーネが笑顔で頷いた。


「だったら、ここで一緒に生きようよ。リヴィエールは、魔女が安らげる街だから」


メルガは少し驚いたように目を見開き、そして笑った。


「……ああ、いい言葉ね」


アウレリアが遠くからその光景を見て、小さく呟く。


「まったく……人の心って、難しいわね。でも、美しい」


健司が彼女の横に並んだ。


「うん。でも、それが生きるってことなんだろうね」


アウレリアは微笑む。


「そうね。……愛、なのかも」


風が吹き、リヴィエールの花弁が空に舞った。

それは、まるで新たな物語の幕開けのように――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ