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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編⑤ミリィ対メルガ

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魂に触れた日 ― メルガ対ミリィ ―

街を包む霧が、まるで生き物のように蠢いていた。

 空は血のような赤。

 魔女メルガが放った「魂の風」が、街全体を覆っていた。


「メルガ……何をする気だ?」

 

健司が問う。


 メルガは微笑した。その瞳は冷たく、どこか哀しげだった。


「健司。あなたは“愛”を語ったね。

 この世に愛があるって、本気で信じてるの?」


「あるさ。」

 

健司の答えは、短く、迷いがなかった。


「なら――見せてあげる。」


 彼女が手をかざした瞬間、空気が軋んだ。

 霧が渦を巻き、黒い光が街の中心に凝縮する。


「愛なんてものが本当にあるなら、

 これを止めてみせなさい。」


 メルガの声が響いた瞬間、三人の魔法が同時に発動した。

 太陽、月、そして回復。

 それぞれの魔法が融合し、嵐のように健司たちへ襲いかかる。


 爆発の音。

 瓦礫が飛び、地面が裂ける。

 健司達は咄嗟に防御結界を張ったが、力の余波で弾き飛ばされた。


「くっ……!」


 彼の肩を支えたのは、ミリィだった。

 その瞳には、決意の光が宿っていた。


「私が証明してあげる。愛が、あるってことを。」


 メルガが冷笑した。


「小娘が……笑わせないで。おまえも魂の餌食になるだけ。」


 ミリィは静かに一歩、前に出た。


「――ラブ・コントロール。」


 空気が一瞬、柔らかく震えた。

 それは攻撃ではなかった。

 花が咲くような、優しい波動。


 メルガの放った魂たちが、その場で止まった。

 ソレイユ、セレナ、リーネ――その瞳に微かな光が戻る。


「何……? 動かない?」


「ラブ・コントロール。」


ミリィが言った。


「愛が溢れている状態になる魔法よ。

 相手は、動けなくなるの。」


 メルガは唇を噛んだ。


「そんな馬鹿な……!」


 次の瞬間、彼女の周囲に黒い光が溢れた。

 「魂の鎖」がミリィに向かって伸びる。

 だが――ミリィの瞳が一瞬だけ輝いた。


「――マインド・ラブ。」


 柔らかい光が、メルガを包んだ。

 それは暖かく、痛みをもたらすような優しさだった。


「……な、何……これは……?」


「あなたに“愛を与える”暗示よ。」

 

ミリィの声は、どこか遠くで響くようだった。


「あなたが否定した“心”を、見せてあげる。」


 世界が歪む。

 メルガの視界が白く染まり――気づけば、そこは見知らぬ場所だった。


***


 風が吹く。

 丘の上に、健司が立っていた。

 その周りには、数多の魔女たち――カテリーナ、アウレリア、アナスタシア、フラム、そしてソレイユがいた。


 皆が笑っていた。

 戦いの後でも、痛みの中でも、彼らは笑っていた。


 互いに信じ、支え合い、時にぶつかりながら、それでも繋がっていた。

 その姿は、メルガには眩しすぎた。


「……これが、愛?」


 メルガは呟いた。


「でも、まやかしだ。いつか裏切られる。壊れるだけだ。」


 その時、声がした。


「本当にそう?」


 振り返ると、そこに若い頃の自分――まだ魔女になる前のメルガが立っていた。

 白い服を着て、優しい目をしていた。


「あなた、本当は羨ましいんだよね。」


「な……にを言ってる。」


「心から繋がってる人たちが。

 誰かと笑い合えることが。

 本音で話せる関係が――羨ましかったんでしょ?」


 その言葉が、胸を貫いた。

 メルガは息を呑み、膝をついた。


「心……そうか……私が本当に欲しかったのは……」


 言葉にならない感情が、胸の奥から溢れ出した。

 温かくて、苦しくて、懐かしい。


 カーツリッチの顔が浮かぶ。

 失われた街、あの日の風、白い花。

 「感情が乏しい」――あの言葉が、遠い記憶の奥から甦る。


 彼女の頬に、初めて涙が伝った。


***


 現実に戻る。

 メルガは膝をつき、震える手で顔を覆っていた。

 ミリィは静かに立ち、健司は彼女を見つめていた。


「21位の魔女、メルガ……」

 

彼女は震える声で言った。


「私は……初めて、心を知ったよ。」


 涙が頬を伝い、地に落ちた。

 その涙は、まるで光の粒のように輝いていた。


「羨ましかったんだ……健司。

 本音で話し合える関係が。

 誰かに“わかってほしい”って、ずっと思ってたんだ……」


 ミリィがそっと彼女に近づき、肩に手を置いた。


「誰だってそうよ。

 でも、気づいたなら……それでいいんだよ。」


 メルガは微笑んだ。

 弱々しく、けれど確かに“人間らしい”笑顔だった。


「……ありがとう。あなたの“愛の魔法”、負けたよ。」


 その言葉とともに、メルガの身体を包む黒い光が消えていった。

 魂の鎖がほどけ、霧が晴れる。

 リヴィエールの空に、朝日が戻ってくる。


 静寂の中で、メルガは立ち上がった。

 そして、健司を見つめて言った。


「あなたたちの言う“愛”――

 もう少しだけ、信じてみてもいいかもね。」


 その瞳には、わずかに光が宿っていた。

 それは、何年ぶりに取り戻した“心”の光。


 ミリィは微笑み、健司も静かに頷いた。


 夜風が吹く。

 月が彼女の涙を照らし、淡く輝かせた。


 魂の魔女メルガ。

 彼女は、愛の中で――初めて、生き返った。

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