表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編⑤ミリィ対メルガ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/215

対峙 ― 魂の魔女、現る ―

朝日が差し込む前の、薄い光の時間帯。

 風が止まり、リヴィエールの街は、夜の夢をまだ手放せずにいた。


 そんな静けさの中、悲鳴が響いた。


「リーネが……! リーネが倒れてるの!」


 誰かの声に健司は飛び起きた。

 胸が締めつけられる。

 昨日、外に出ていったリーネの後ろ姿が脳裏に浮かぶ。

 嫌な予感が、確信へと変わっていった。


 彼は部屋を飛び出した。

 カテリーナ、エルネア、ラグナ、そしてアウレリアたちも、ほとんど同時に駆けつけた。


 そこに、リーネがいた。

 石畳の上に静かに横たわっている。

 その顔は、戦いの後とは思えぬほど穏やかで、まるで安らかな夢を見ているかのようだった。


「リーネ!」

 

健司は膝をつき、彼女の手を握った。冷たい。けれど、かすかに温もりが残っている。


「……何て顔だ。」

 

アウレリアが呟く。


「まるで、救われたみたいな顔ね。」


「リーネ、頑張ったね。ありがとう。」

 

健司の声が震えた。

 彼女が何と戦ったのかはまだ分からない。だが、全力で誰かを守ろうとしたのだということだけは伝わってきた。


 周囲の空気が重くなった。

 そのとき、背後から重い足音が近づいてきた。


「――そこにいるんだろう?」

 

低く響く声。ラグナだった。


 彼女は鋭い眼差しで周囲を見渡す。


「出てこい、魂の魔女。そして透明の魔女も。」


 空気がひずんだ。

 朝の光が歪み、空間が波打つ。


「……やっぱり、バレてたか。」

 

透き通るような声が空から落ちてきた。

 姿を現したのは、二人。

 漆黒のローブを纏い、冷ややかな笑みを浮かべた女――魂の魔女メルガ。

 その横には、薄い光の膜に包まれたスルネ。透明の魔女。


「ハハハ、はじめまして、みなさん。」

 

メルガは深々と一礼した。


「魂の魔女メルガ、そして透明の魔女スルネ。どう? 絶望の味は。」


 その笑みは美しくも、どこか壊れていた。


「やっと姿を見せたか……!」

 

カテリーナが怒気を帯びて言う。


「よくも……リーネを!」


 エルネアも魔力を高め、風が渦巻いた。

 しかし、健司だけが動かない。

 ただ静かに、メルガを見ていた。


「……絶望?」


 健司が呟いた。


「君たちほどじゃないよ。」


「は?」

 

メルガの眉がぴくりと動いた。


「どういう意味だ?」


「君は、“心がない”と言われたことがあるんじゃないか?」


 その言葉に、空気が止まった。


「……何を言っている。」


「もしかして――誰かを愛したんじゃないか? でも、その人に“心がない”って拒絶された。

 だから、魂を弄ぶんだろ?」


 メルガの瞳が揺れた。

 ほんの一瞬、何かが崩れるように。


「おまえに……何が分かる!」

 

叫びと共に、周囲の地面が爆ぜた。


「拒絶されたんだ! 心も、存在も! 愛なんて――初めからなかった!」


 メルガの叫びは痛みに満ちていた。

 しかし健司は、それを否定しなかった。


「いや、あるさ。」


 穏やかな声で。


「リーネの顔を見れば、分かる。」


 メルガはリーネに視線を向けた。

 眠るような表情。穏やかで、静かで――それは確かに、誰かを信じ切った者の顔だった。


「やめろ……!」

 

メルガが唇を噛みしめた。

 胸の奥で、何かがざわついた。


「そうやって、“愛されること”を信じる顔を、私は壊してきた。

 それなのに――なんで……こんなに……!」


 その声が震えた瞬間、メルガの手が赤黒く光った。


「そうか……絶望を見せてやる。」


 彼女が魔法陣を展開する。

 空間が歪み、冷たい風が吹き抜けた。

 黒い鎖が地面から伸び、空を裂いた。


「《ソウル・ゴースト》――!」


 叫びと共に、鎖の中から三つの光が現れた。

 淡く、儚く、それでいて確かに“人の形”をしていた。


「……まさか。」


 カテリーナが目を見開いた。

 そこに現れたのは――ソレイユ、セレナ、そしてリーネ。


「嘘……魂……?」

 

エルネアが震え声で呟いた。


 ソレイユは穏やかな表情で立ち、セレナはどこか悲しげに目を伏せていた。

 そしてリーネは、まだ何も言葉を持たず、光だけを纏っていた。


 メルガが笑った。


「これはね、彼女たちの魂だよ。」

 

その声は冷たいが、どこか誇らしげでもあった。


「気をつけてね。魂を攻撃すれば――本人にもダメージがいく。」


「卑劣な……!」

 

カテリーナが叫ぶ。


「人の心を、魂を、何だと思ってるの!」


「心? そんなもの、あっても苦しむだけだ!」

 

メルガが叫んだ。


「魂なんて、いくらでも弄べる。壊せる。私が証明してあげる!」


 しかし、スルネは隣で何も言わなかった。

 ただ、じっと健司を見ていた。


 健司は静かに立ち上がった。

 その目には怒りも憎しみもなかった。

 ただ、深い哀しみだけがあった。


「……メルガ。」


 その声に、メルガの魔力が一瞬、乱れた。


「君は、自分で言った。“愛なんてない”って。」


「そうだ!」


「でも――君は今、“愛されなかった”ことを怒っている。」


 沈黙が落ちた。

 その沈黙の中で、誰も動けなかった。

 メルガの肩が震える。目を伏せる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ