表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編④メルガの魔法

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

197/211

リーネ vs メルガ ― 心の戦場 ―

夜風がリヴィエールの石畳を撫でていた。

 月は雲に隠れ、星さえも息をひそめる。

 そんな夜に、ひとり、足音を刻む影があった。リーネだった。


 昼の喧騒が嘘のように静まり返った街で、彼女は歩いていた。

 眠れなかった。セレナが倒れ、ソレイユもまだ目を覚まさない。

 その現実が胸の奥を焼いていた。

 自分は何もできなかった。ただ、守ると言いながら、誰も守れていない。


 そんな思考の底に沈みかけたとき――。


「夜の散歩か。優雅だね、リヴィエールの魔女。」


 冷たい声が闇の奥から響いた。

 リーネが顔を上げると、月を裂くように黒い影が現れた。

 メルガ。魂の魔女。野蛮の幹部のひとり。


「あなたが……魂の魔女ね。」


「私が何者か、もう知っているのね。面倒が省けた。」

 

メルガの瞳が闇の中で赤く光った。まるで誰かの悲鳴を映しているかのように。


「仲間が一人、また一人と倒れていく。絶望だろう?」


 その声には同情ではなく、乾いた愉悦があった。


「絶望?」

 

リーネは静かに微笑んだ。


「あなた、野蛮な魔女らしい考え方ね。でも、私たちは――愛に生きる。」


 その言葉に、メルガの眉がピクリと動いた。


「……愛? またそれか。」

 

唇が歪み、殺気が滲む。


「どいつもこいつも“愛、愛、愛”。そんなもの、恐怖の前では無意味だ!」


 リーネは目を伏せた。


「そう言うあなたが一番、恐れているんじゃない?」


「……何?」


「“誰にも愛されなかった自分”を。」


 その瞬間、メルガの指先に黒い光が宿った。


「黙れ……!」

 

大地が震え、闇の波動がリーネを包み込む。


「ソウル・クラッシュ!」


 魂を揺らす衝撃波が放たれた。

 しかし、リーネの姿は揺れながらも、崩れなかった。

 胸の前に、淡い光が生まれていた。

 それは彼女の魔法――《アンチ・ハート・ヒール》。


「あなたの攻撃、痛いわ。でもね――」


 リーネの瞳が光を帯びた。


「私が感じた痛みは、あなたにも返す。」


 光が爆ぜた。

 メルガの目の前に、無数の記憶が流れ込む。

 健司の声。リーネの涙。彼が差し伸べた手。

 あの瞬間――彼女が救われた夜。


 メルガの表情が揺れた。

 その光景を見ながら、リーネの声が届く。


「見える? これが私の“痛み”であり、“愛”なの。」


「……やめろ!」


「あなたは恐怖しか知らない。だから、人の想いを恐れる。」


「違う! そんなもの、幻だ!」


 メルガは両手を広げた。魂の鎖が空間を裂く。


「ソウル・リバインド!」


 黒い鎖がリーネの胸を貫いた。

 その瞬間、光が弾け、リーネの体が崩れ落ちる。


「リーネ!」

 

誰の声でもない。風の音のように、メルガの心の奥で何かが叫んだ。


 リーネの身体が地に横たわり、静かに息をしていた。

 それを見下ろしながら、メルガは拳を震わせた。


「……くだらない。効かないと言っただろう。」


 だが、彼女の胸の奥に残る違和感が消えない。

 心臓の鼓動が乱れる。

 見えない何かが、心の奥でまだ脈打っている。


「この感情……何だ……?」


 メルガは膝をつき、胸を押さえた。

 中に流れ込む“他人の記憶”が、痛みを持って彼女を刺す。

 健司がリーネに語りかける姿。


 「もういい、リーネ。君は一人じゃないよ。」


 ――その声が、なぜか心に沁みた。


「やめろ……!」

 

メルガは叫び、空を睨んだ。


「信じない! 愛なんて……信じない!」


 その声を遮るように、背後から足音がした。

 スルネだった。


「大丈夫か、メルガ?」


「大丈夫だ。」

 

メルガは立ち上がったが、その声にはわずかな震えがあった。


「……だが、これで三人目だ。」


「セレナ、ソレイユ、そしてリーネ……」

 

スルネが呟く。


「彼女たちは止まらない。きっと、あの男がいる限り。」


 メルガは静かに顔を上げた。

 リーネが倒れたまま、微笑んでいた。

 夢を見ているような穏やかな顔で。


 メルガの拳が震えた。


「……なぜ、そんな顔ができる……。」


「愛、か。」

 

スルネが空を見上げた。


「私には理解できんが、あの女は本気だった。」


 メルガは何も言わず、リーネの前に膝をついた。

 手を伸ばしかけて、止めた。

 触れたら、何かが壊れそうで――。


「……スルネ、行こう。」


「ああ。」


 彼女たちは夜の闇に消えた。

 だが、メルガの胸の奥に残る痛みだけは、消えなかった。

 まるで、誰かがその心に“灯”をともしたかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ