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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編④メルガの魔法

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愛を映す鏡 ― 魂と透明の魔女

朝のリヴィエールは、静寂と緊張に包まれていた。

 霧のように冷たい風が流れ、陽光が街を照らしているはずなのに、どこか暗い。


 健司が目を覚ますと、扉を叩く音がした。


「健司!」


 カテリーナの声だった。

 慌てた調子に、ただならぬ気配を感じる。


「どうしたんだ、カテリーナ?」


「セレナが! セレナが――!」


 その言葉に、健司の体が固まった。

 嫌な予感が胸を貫く。


「まさか……ソレイユの時と同じ?」


「そう。意識を失って倒れていたの。全く同じ状態よ」


 健司は迷わず走り出した。

 カテリーナ、リセル、クロエ、ミリィ、ヒシリエが後を追う。

 廊下の先、セレナの部屋。

 扉を開くと、そこには静かに横たわるセレナの姿があった。


 その顔は穏やかで、まるで眠っているよう。

 しかし、その瞳は開かない。

 呼びかけても、応答がない。


「セレナ……ねぇ、セレナ!」

 

健司がその手を握る。

 冷たい。

 まるで魂が遠くに行ってしまったような感覚。


「これは……いったい何なんだ」


 健司の声が震えた。


 カテリーナが前に出た。


「間違いないわ、これは敵の仕業。

 魂そのものを縛る魔法……そう考えるのが自然よ」


 ヒシリエが息を呑んだ。


「そんなことができるのは……」


 ファルネーゼが低く呟いた。


「魂の魔女、メルガ」


 その名が響いた瞬間、空気が凍りついた。


「メルガ……!」

 

健司は拳を握り締める。


「四天王のカイリが言っていた魔女!野蛮な魔女の幹部なのか……!」


 リセルが顔を歪めた。


「魂を縛るなんて、卑劣すぎるわ。どうしてそんなことを……」


 ファルネーゼは苦く笑う。


「野蛮な魔女は“愛”の真逆を歩く存在だからね。

 奪い、縛り、壊す。それが彼女たちのやり方」


 健司はセレナの手を握りしめたまま、静かに答えた。


「……戻る方法はあるのか?」


 カテリーナは首を振る。


「分からない。

 炎の魔女と野蛮な魔女は相容れない存在。

 だけど、必ず手があるはずよ。あなたが諦めない限り」


 健司は頷いた。

 セレナの頬に触れる。


「必ず……助ける」


 その時、部屋の隅から声がした。

 低く、落ち着いた女の声。


「――そう簡単にはいかないわ」


 振り向くと、赤いローブを纏ったブラットレインが立っていた。

 彼女の瞳は、深紅のようでありながら、どこか優しさを宿している。


「ブラットレイン……!」


 健司は彼女に駆け寄る。


「来てくれたのか」


「あなたの表情を見れば、来ないわけにいかないでしょ」


 ブラットレインはセレナを一瞥し、長く息をついた。


「……やられたわね。これは、間違いなく“魂の魔法”。

 この状態では、外から癒しを与えても届かない」


「そんな……」


 健司の声に、ブラットレインはゆっくりと目を向けた。


「健司、あなたに一つ聞きたいことがあるの」


「何でも答える」


「魂の魔女と、透明の魔女――もしその二人がここに現れたら、あなたはどう思う?」


 健司は少し考え、そして静かに言った。


「……魂の魔女は、きっと孤独なんだと思う。

 誰かに女性として認められなかったから。

 だから、自分を閉じ込めるしかなかったんだ」


 ブラットレインの目が細くなる。


「続けて」


「透明の魔女は……もっと悲しい。

 きっと誰にも存在を見てもらえない。

 声をかけても、知らない人としか見られない。

 誰も自分の存在を信じてくれない。

 だから、知らない人として、誰かのそばにいたんだ」


 健司は静かにブラットレインを見つめた。


「2人とも……あなたの仲間だったんだね」


 ブラットレインの唇がわずかに震えた。


「……そうね。あなたの言葉、当たってるわ」


 沈黙が流れた。

 カテリーナやリセルは何も言わず、ただその場を見守っていた。


 やがて、ブラットレインが問う。


「ソレイユとセレナを奪われて、憎いとは思わないの?」


 健司は首を横に振った。


「憎くなんてないよ」


「どうして?」


 健司は小さく微笑んだ。


「彼女たちも、苦しんでるから。

 魂の魔女も、透明の魔女も、誰かを傷つけたくてやってるわけじゃない。

 孤独の中で、間違った形で“愛”を求めてるだけだ」


 その言葉を聞いたブラットレインは、目を伏せた。

 ゆっくりと、唇の端に穏やかな笑みを浮かべる。


「……あなた、本当に変わらないのね。

 憎しみを抱くことを知らない」


「違う。憎しみを抱くと、自分まで壊れることを知ってるだけさ。

 だから、救う。彼女たちを――ブラットレインの時と同じように」


 ブラットレインは短く息を吐いた。


「ふふ、言ってくれるわね」


 しかし、その瞳にはどこか誇らしげな光があった。


 健司が部屋を出ようとした時だった。

 誰も気づかない空間の歪みが、壁の影に揺らめいた。

 そこにいたのは――透明の魔女スルネと、魂の魔女メルガ。


 姿は見えない。

 だが、声だけがひっそりと漏れる。


「……聞いた? あの女、わざと質問したんだよ」

 

メルガの声には怒気が混じっていた。


「落ち着け。挑発だよ。何もできやしないさ」


 スルネが冷静に返す。


「救う、だって? 人間が? 排除したのはあの人間どもじゃないか!」


 メルガの声が震える。

 その怒りの奥には、消えない痛みがあった。


 スルネは黙ったまま、健司の背を見つめていた。

 その表情は、誰にも見えない。


「……でも、彼は違う」


「何が?」


「“見えてないもの”を見ようとしてる。

 私たちのことも、きっと」


 メルガは舌打ちした。


「甘いわ。そんな希望は、すぐ砕ける」


 スルネは答えず、ただ小さく息を吐いた。

 視線の先では、健司がセレナの髪を優しく撫でていた。

 その手には、怒りでも悲しみでもなく、ただ“祈り”のような温かさがあった。


「……孤独にさせれば、分かるさ」

 

メルガが低く言った。


「“愛”なんて、幻想だってね」


「そうかもしれない。でも、あの人は――」


 スルネの言葉は途中で止まった。

 メルガが彼女の腕を引き、影の中へと消えていく。


 空間が静まり返る。

 健司たちは気づかぬまま、ソレイユとセレナを救うための方法を模索し始めた。


 窓の外には朝の光が差し込み、湖の水面が煌めいている。

 けれど、その輝きの中には、見えない影が揺れていた。

 それはまるで――“透明な悲しみ”のようだった。

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