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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編④メルガの魔法

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沈黙の朝 ― ソレイユの昏睡

朝の光が、リヴィエールの街を照らしていた。

 湖面には白い霧が立ち込め、夜の残滓を溶かしていく。

 鳥の声が聞こえる――はずだった。

 だが、その朝だけは違っていた。


 健司が目を覚ました瞬間、家の中にはざわめきが広がっていた。

 いつもの穏やかな笑い声ではない。

 不安と焦りが混じった、重たい空気。


 寝室の戸が開き、リセルが飛び込んできた。

 顔は青ざめ、息を切らしている。


「健司、大変!」


「どうしたの、リセル?」


 彼女は一瞬ためらったが、すぐに言葉を絞り出した。


「ソレイユが……意識不明で見つかったわ!」


「……なんだって!?」


 健司の胸が凍りついた。

 ベッドから飛び起き、靴も履かずに外へ駆け出す。

 ファルネーゼ、ヒシリエ、カテリーナ、クロエ、ミリィ――

 全員が後を追った。


 湖畔の広場。

 朝露に濡れた石畳の上で、ソレイユが倒れていた。

 金の髪が地面に散らばり、頬には冷たい光が宿っている。

 まるで、月の眠りに囚われたように静かだった。


「ソレイユ!? おい、しっかりして!」


 健司は彼女を抱き上げ、呼びかけた。

 だが返事はない。

 その体は確かに温かい。

 息もある。だが、目を開けない。


「……これは……いったい……」


 ファルネーゼが膝をつき、魔法で調べる。

 掌に淡い炎を灯し、ソレイユの額にそっと触れた。

 しかし、すぐに眉をひそめた。


「何か……おかしい。魔力が……乱れてる。魂の流れが閉じているわ」


「魂……?」


 健司の声が震えた。


 アナスタシアが駆けつけ、冷静に状況を見た。


「とりあえず、家へ。暖かいベッドに運びましょう」


 皆でソレイユを抱え、家の中へ運んだ。

 ベッドに寝かせたソレイユの顔は、まるで安らかに眠っているようだった。

 だが、どれだけ呼びかけても、反応がない。


 健司は、ベッドのそばに座り込んだ。

 彼の瞳が、震えていた。


「どうして……こんなことに……」


 彼はソレイユの手を握った。

 冷たい。だが、その奥に微かに命の温もりがある。


「……僕が、ちゃんと見ていれば……」


 その声に、誰も返事ができなかった。

 沈黙の中で、時間だけが流れた。


 やがて、クロエとリセルがそっと健司を呼んだ。


「健司、ちょっと……来て」


 健司は顔を上げた。

 2人は真剣な表情をしていた。


 ベッドから離れ、隣の部屋に移動する。

 扉を閉めると、クロエが静かに切り出した。


「昨日……カテリーナと抱き合ってたって、本当?」


 健司は息を詰めた。


「……どうして、それを?」


 リセルが後ろを指す。

 そこには、ファルネーゼとヒシリエが立っていた。

 2人とも顔を伏せ、肩を震わせていた。


「……見ちゃったの。あの瞬間、ソレイユが部屋を出て行くのも」


 健司は頭を抱えた。

 あのときのことが、まざまざと蘇る。

 たしかにカテリーナが勢い余って抱きついた。

 自分は支えただけ――だが、それがどう見えたかは別だ。


 リセルが、絞り出すように言った。


「……健司の曖昧さが、ソレイユを傷つけたんじゃない?」


 その言葉は、刃のように突き刺さった。

 だが、健司は逃げなかった。


「……ごめん。

 僕が悪かった。

 でも、誤解してほしくない。僕は――」


 彼は、まっすぐに2人を見つめた。


「リセルも、クロエも……家族のように大好きだ。

 ソレイユも、カテリーナも、みんな大切なんだ」


 その言葉に、2人は頬を赤くした。


「な、なに言ってるのよ!」


「そんな真顔で言わないで……!」


 健司の真摯な声が、かえって心をくすぐった。

 だが、その背後に広がる静寂は、どこか不穏だった。


 ――その時。


 家の外を、誰かが駆け抜けた。


 クロエが窓の外を見た。


「……今の、セレナじゃない?」


 健司は驚いた。


「セレナが? こんな朝早くにどこへ……」


 その姿を、遠くから“観察”していた影があった。


 透明な気配。

 風の中に溶けるような存在。


「……次の獲物、決まりね」

 

スルネの声が、かすかに響いた。


「そうね。ソレイユは眠り、次は“信じる者”の心を壊す番」

 

メルガが微笑んだ。


 2人の姿は風と共に消えた。


 ――夜。


 セレナは、ひとりで湖のほとりに立っていた。

 昼間、ソレイユが倒れていた場所だ。

 月が浮かび、波が静かに揺れている。


 彼女は手を胸に当て、俯いた。


「……ソレイユ。

 どうしてあなたが……」


 小さな風が吹き、金の髪が揺れる。

 その風に紛れて、微かな声が響いた。


「ねぇ……健司を、信じる価値があるの?」


 セレナの背筋が凍った。


「だれ……?」


 あたりを見渡すが、誰もいない。

 ただ、空気がゆがんでいた。


 そこに、透明の魔女・スルネが姿を現した。

 月明かりの中に、影のように浮かぶ。


「健司は、あなたを見てくれてる?

 それとも、あの女達のひとりとしてしか見てない?」


「やめて……そんな言い方……」


 すると、スルネの隣に、もうひとつの影が現れた。

 魂の魔女・メルガ。

 漆黒の瞳が、セレナを見つめていた。


「愛ってね、簡単に壊れるの。

 一度、疑いが芽生えたら、それだけで終わり」


 セレナは一歩後ずさった。

 だが、足が動かない。

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