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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編④メルガの魔法

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メルガとスルネの暗躍

夜のリヴィエール。

 街の灯りは穏やかに揺れ、風が湖面を撫でていた。

 健司達の家の中では、まるで戦場のような声が響いていた。


「ちょっと、カテリーナ様! そこはわたしの場所です!」


「ふふ、譲らないわよ。今日こそ健司の隣で寝るのはこの私!」


「そう言って毎回負けてるじゃない、カテリーナ様」


「ミリィ、うるさいわね! あなたこそ順番守りなさいよ!」


 ベッドの上では、カテリーナ、ファルネーゼ、ヒシリエ、ミリィが取っ組み合いのような騒ぎを繰り広げていた。

 健司は苦笑しながら、それを止めようと手を伸ばすが、誰も聞いちゃいない。


「ちょ、ちょっと落ち着いて! 順番決めよう、ね?」


「順番なんていらないわ!」


「健司は私のものよ!」


「寝る場所の話でしょ!?」


 そんなやり取りを、少し離れた場所から見つめている魔女がいた。

 ソレイユ――かつてアスフォルデの環に所属していた魔女。

 今は、健司と共に生きることを選んでいるが、彼のそばで笑う彼女達を見るたびに、胸が少しだけ痛くなる。


(……いいな、みんな楽しそうで……)


 彼女は笑顔を作ろうとしたが、唇が震えた。

 そして、ふと、健司の声が聞こえた。


「おっと!」


 その瞬間、ファルネーゼとヒシリエが一斉に押し合い、カテリーナの身体が前に出た。

 その勢いで、カテリーナが健司の胸に飛び込む形になった。


 抱き合うような姿勢。

 健司の腕が反射的にカテリーナを支え、カテリーナが頬を真っ赤にした。


「……け、健司……」


「い、いや、これはその……」


 ヒシリエとファルネーゼが一斉に睨んだ。

 ミリィは「おお……」と呆然。

 部屋の空気が、一瞬でピリつく。


 そして、ソレイユは立ち上がった。

 胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


「……ちょっと、外の空気、吸ってくるね」


 そう言って、微笑みを作る。

 だがその笑顔は、どこか無理があった。

 誰も止められないまま、ソレイユは静かに部屋を出た。


 外は月が出ていた。

 白銀の光が街を包み、湖面を照らす。

 ソレイユは歩きながら、ぽつりと呟いた。


「……健司は、ぐいぐい行く人が好きなのかな……」


 その声は、夜の空気に消えていった。


 すると――不意に背後から、別の声がした。


「そうだよ。金髪のソレイユなんて、好きじゃないよ」


「――っ!?」


 ソレイユは振り返った。しかし誰もいない。

 風が吹くだけ。

 けれど、その声は確かに聞こえた。


「誰……?」


 すると、少し離れた暗がりの中から、ゆらりと影が動いた。

 透明な輪郭が、月の光にかすかに浮かび上がる。


「本当は、ソレイユのことなんて、どうでもいいんじゃない?」


 声の主は、スルネ。

 透明の魔女と呼ばれ、姿を自在に隠すことができる存在。

 そのすぐ後ろに、冷たい笑みを浮かべたもう一人の女が現れた。

 魂の魔女、メルガ。


「……あなたたち、野蛮な魔女の……」


「そう。野蛮の魔女、メルガとスルネ。覚えておいてね」


 ソレイユは一歩下がった。

 しかし、背中が街の石壁にぶつかる。逃げ道がない。


「健司は……そんなこと言わない……!」


「ふふ、でも見たでしょ? カテリーナに抱きつかれて、何も言わなかった」


「それは……!」


「ねぇ、あなたは、あの中で一番“外”にいる。誰にも甘えられず、誰にも抱きしめられない」


 その言葉が、心に刺さった。

 ソレイユは歯を食いしばるが、目の奥が熱くなる。


「そんなこと……ない……健司は……」


 スルネは冷たく笑った。

 そして、彼女の背後で、メルガが静かに手を掲げた。


「――ソウル・リバインド」


 ぞわり、と空気が揺れた。

 黒い鎖のような光が、ソレイユの身体を取り囲む。

 逃げようとした瞬間、その鎖が魂に絡みつくように、深く突き刺さった。


「――あ、ああ……」


 瞳から光が消えていく。

 ソレイユの身体が、ゆっくりと崩れ落ちた。


「ふふ……成功」

 

メルガの唇がゆがんだ。


 スルネは肩をすくめながら笑う。


「えげつないね、あんたの魔法。本当に魂まで縛るなんて」


「あなたの“スケープ”も負けてないでしょう? カテリーナを健司に押しつけたの、あなたでしょ?」


「まあね。ちょっと透明になって、背中を押しただけ。彼女、勢い余って抱きついたのよ」


 2人は、互いに笑い合った。

 夜風が静かに吹き抜け、地面には昏睡したソレイユが横たわる。


「これで、あの男の心も揺らぐでしょうね」


「ええ。愛から疑心へ――その変化が楽しみだわ」


 月光の下、2人の影がゆらりと消えていった。

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