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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
アスフォルデの環②リセル

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闇の扉の前で

夕暮れの光が森を照らす頃、健司たちはついに南の村の手前の丘にたどり着いた。

赤く染まる空の下、遠くに見える小さな村の灯りが、まるで希望のように瞬いていた。


「もう少しだね……」

ルナが息を整えながら言った。

「村が見えてきた。あそこなら、きっと……」


しかし、次の瞬間、空気が張り詰めた。


突如、風が止み、森の影がうねるように動いた。

その中心から現れたのは、黒いローブに身を包んだ一人の魔女――リセルだった。


「……!」


ミイナが一歩下がり、ルナも身構える。

クロエは静かに前へ出たが、リセルの視線はただ、一人を射抜いていた。


「また来たのね、リセルさん……」

健司が口を開いた。


リセルの瞳は冷たく、感情を拒絶するようだった。

けれどその奥にある微かな揺らぎを、健司は見逃さなかった。


「ここまで来たんだ。僕たち、魔女が安心して住める場所を作ろうとしてる。誰にも追われず、怯えず、笑って過ごせる町を」


その言葉に、リセルの眉がわずかに動いた。

だが、次の瞬間、彼女は吐き捨てるように言った。


「そんなものは――存在しない。幻想だ。夢物語にすぎない」


「幻想でもいい。僕は、それを現実に変えたいんだ」


「お前に何ができる?」

リセルの声は鋭かった。

「人間に信じられるというのか? 彼らは恐れ、拒絶し、憎む。いつかまた裏切られる。それを、あなたたちが証明したじゃないか!」


彼女の手が闇の魔法を呼び起こした。

影が地面から立ち上がり、黒い槍となって健司に向かって伸びる。


「健司!」

ルナが叫んだ。ミイナが守ろうと前に出ようとしたが――


「いいんだ」

健司は静かに手を上げて止めた。


そして、まっすぐにリセルへ歩き出す。


槍が目前に迫る――だが、彼は恐れなかった。

リセルの手が震えていた。迷いが、明らかにその動きを鈍らせていた。


健司は一歩、また一歩と近づき――ついに、リセルの手を取った。


「君の痛みは、ちゃんとわかってる。裏切られて、傷ついて……それでも、君は人を信じていたんだよね。だから、最後まで“調停者”でいられたんだ」


リセルは息を呑んだ。


「僕が作りたいのは、魔女も人も、誰もが一緒に生きていける町だ。――でもそれは、僕一人じゃできない。だから……一緒に作ってほしい」


健司の声は静かだったが、真っ直ぐで揺るがなかった。


リセルは目を見開いた。

ずっと閉ざしてきた心の扉が、少しだけ揺らいだような気がした。


彼の手は、あたたかかった。


誰かの手に触れるのは、あの人以来――いや、それ以上に、彼女の心に入り込んできた感覚だった。


「……私には、そんな資格はない。誰かと何かを作るなんて……できない」


「あるよ。資格なんて、誰かに決められるもんじゃない。君が前に進みたいと思ったら、それだけで十分なんだ」


風が吹いた。

森の木々がざわめく中、リセルは視線をそらせなかった。


彼の瞳は、かつて自分を守ろうとして命を落としたあの人と――どこか似ていた。


「君の魔法は“闇”かもしれない。でも、闇は光を知ってる。だから、僕たちは共にいられる」


リセルの手が、静かに下がった。

黒い槍は闇に溶け、風と共に消えていく。


しばらくの沈黙ののち、彼女は小さくつぶやいた。


「……あなたは、愚かだわ」


「よく言われるよ」


健司は照れくさそうに笑った。

それが妙に優しく、リセルの胸に温かいものを灯した。


「……本当に、後悔しない?」


「しない。もしすることがあっても、それはきっと、一緒に笑いながら思い出せる後悔だよ」


沈んでいく太陽が、彼らの背後を赤く染めていた。


クロエがそっと歩み寄る。

ルナとミイナも、少し戸惑いながらも微笑んだ。


リセルはゆっくりと深呼吸をした。


「……わかった。もう少しだけ、信じてみる」


その言葉は、闇の調停者からの、最初の「和解」だった。


健司の手は、しっかりと彼女の手を包んでいた。


そして一行は、また歩き出す。


“誰もが住める場所”――

その光を信じて。

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