ラグナ vs 野蛮の3魔女
静まりかえる森の静寂の中、マリエが笑った。
あははは、と心底愉しげに。
その笑いは恐怖でも絶望でもなく、純粋な狂気の響きを帯びていた。
「何がおかしい?」
ラグナの声は静かだった。
しかし、その静けさの中にこそ、恐ろしい重さがあった。
マリエは口元を歪め、赤く燃える瞳をラグナへ向けた。
「おかしい? ふふ、あなたたちの“絶望”が滑稽でならないのよ。
さっきの一撃、確かに強力だった。でも──私たちを甘く見たわね?」
その言葉と同時に、隣のシミラが手を前に突き出した。
彼女の掌が淡い黒光を帯びる。
「──カウンターワープ」
空間がねじれた。
ラグナが先程放った重力波が、まるで鏡に反射するように彼女へ跳ね返る。
重力の塊が逆流し、ラグナを中心に空間が軋んだ。
「くっ……!」
クラリーチェが叫ぶ間もなく、衝撃波が弾ける。
だが、それで終わらない。
「時をずらせ──クロックマジック!」
マリエの詠唱が重なる。
時空が歪み、跳ね返された重力が“時間差”で再びラグナ達を襲う。
見えない重力が2度、3度と波状に押し寄せた。
「リズリィ!」
ノイエルが叫ぶ。
しかし次の瞬間、3人目の魔女──ブラットレインが静かに呟いた。
「ブラッド・パワー」
空気が赤く染まった。
リズリィ達の足元に無数の血の紋様が広がり、そこから血が抜かれていくような錯覚が起こる。
実際、彼女たちの頬は蒼白になり、身体がふらついた。
「なっ……血が……抜けていく……!?」
クラリーチェの声が掠れる。
ラグナの護衛であるリズリィたちは次々に膝をついた。
彼女たちの魔力は著しく低下し、立ち上がることすらままならない。
「ラグナ様……! お逃げください……こいつら、やばいです……!」
ノイエルの懇願に、ラグナは静かに目を閉じた。
そして──次の瞬間、開いた瞳の色が変わっていた。
深紅。
血よりも濃い、地の底を思わせる色だった。
「……弱いものいじめ、か」
マリエが肩をすくめる。
「これは戦いよ。弱者は切り捨てられる。それが、この世界の理」
ラグナの口角がわずかに上がる。
「理、か。では、お前たちは“理”に耐えられるか?」
その声とともに、空間が軋んだ。
まるで天地が逆転するように、重力が狂い始める。
「──《グランド・ゼロ》」
地面が波打つように盛り上がり、やがて浮き上がった。
マリエたちの足元の土が生き物のようにうねり、空中に舞う。
「な、なに……⁉」
シミラが叫んだ。
足元がなくなり、彼女は宙に浮く。
「まだだ」
ラグナの声が響く。
彼女が掌を握りしめると、上空から無数の影が落ちてきた。
それは岩塊。
大地を構成する礫のすべてが、まるで巨大な質量の雨のように落下する。
「アース・パワー──」
その重さは人間数人分どころではない。
都市を押し潰すほどの“重み”が、空間ごとマリエたちにのしかかる。
爆音が轟く。
衝撃波が森を薙ぎ払い、木々を吹き飛ばした。
クラリーチェ達は倒れたまま、ただその光景を見つめていた。
「……まるで、世界が潰れるようだ……」
ノイエルの声は震えていた。
マリエ達3人は、地面に叩きつけられ、砂塵の中で呻いた。
「ぐっ……な、何だこれは……!? 重力の魔法じゃないのか……!?」
ラグナはゆっくりと歩み寄る。
その歩みは音すらも吸い込むように静かだった。
「いつ、私が“重力使い”だと言った?」
マリエが目を見開く。
「なに……?」
「土の魔法の応用だ。
大地は重みを知っている。
その“重さ”を操る術が、重力だ」
マリエの顔が歪む。
「まさか……お前、大地の一族か?」
ラグナはしばらく無言だった。
風が、彼女の銀髪を揺らす。
やがて、静かに答えた。
「……昔の話だ」
その一言に、リズリィ達が息を呑んだ。
「ラグナ様が血統の一族だったなんて!」
マリエが血を吐きながら笑う。
「ふふ……大地の一族、ね。
じゃあ、あなたも“あの戦争”の生き残りか……。
なるほど、どうりで化け物じみてるわけだ」
ラグナの目が細められる。
「……それ以上は喋るな」
その声には、怒りではなく悲しみが滲んでいた。
「血統なんて、呪いだ。
力を誇る者は、力に呑まれる。
私がそれを証明しよう」
マリエが魔力を練り直す。
「まだ、終わってないわ!」
シミラとブラットレインも立ち上がる。
ボロボロの体で、それでも彼女たちは笑っていた。
「いいわ。血統の魔女だろうが、神だろうが──壊すだけ」
ラグナは静かに息を吐く。
「なら、来い」




