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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編②大地の一族 ラグナ

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リヴィエール侵攻 — 炎に沈む水の都

月がまだ青白く輝く、黎明前の時間。

 湿った風が、リヴィエール近郊の森を吹き抜けた。

 その闇の中で、3つの影が蠢いていた。


 「……到着ね」

 

声の主はマリエ。

 黄金の髪を後ろで束ね、紅の瞳が夜の中で鈍く光る。

 その隣には、薄緑色の髪のシミラ。肩には黒蛇の紋章が浮かんでいる。


 「思ったより静かだね。人間も魔女も、油断してるんじゃない?」


 マリエは口の端を上げた。

 

「水の都なんて呼ばれてるけど、私からすれば“のんきな街”ね。

 それにしても……この“転位”の術は便利だわ。配下さえいれば、どんな場所にも行ける」


 シミラが指先で空を撫でた。

 そこには、薄く光る魔法陣の残滓。

 彼女たちは、野蛮な魔女の配下が潜伏している場所へ魔力を通し、“位置の入れ替え”を行う術を使っていた。

 それにより、リヴィエールから5キロ離れた森に現れたのだ。


 「見えてきたわね。あそこがリヴィエール」


 「そうね。あの街、今は“健司”とかいう人間の影響で、魔女と人間が共存してるらしい。滑稽だわ」


 シミラが鼻で笑った。

 

「理想を語るだけの街。そんなもの、すぐ燃えるよ」


 その時、背後から声がした。


 「私も行くわ」


 マリエとシミラが同時に振り返る。

 そこにいたのは、紅いローブを纏った1人の女。

 肌は白く、瞳は深紅。血液のような光がゆらめいていた。


 「……ブラットレイン」

 

マリエが眉をひそめる。

 

「あなたも出るの?」


 「ええ。少し、興味があってね。あの“水の都”というやつに」


 シミラは肩をすくめた。


 「幹部のあなたがわざわざね。まぁ、いいけど。ボスの機嫌を損ねないうちに終わらせよう」


 ブラットレインは笑った。

 

「ボスの機嫌……ふふ。でも、最近のあの方、少し“おかしい”と思わない?」


 「……ああ、思うわ」


マリエが答えた。

 

「人間にやたらこだわるようになった。まるで何かを重ねているみたいに」


 シミラが興味深そうに問う。

 

「重ねてる? 誰に?」


 「さぁ……昔、あの方が失った誰かかもね」


 その一言に、3人の間に沈黙が落ちた。

 森を渡る風が、ざわざわと木々を鳴らす。

 それがまるで、嵐の前の静けさのようだった。


 彼女たちはゆっくりと歩き出す。

 リヴィエールまで、残り2キロ。

 その時──森の奥から、重い魔力が流れ込んできた。


 「……止まれ」


 マリエの足が止まる。

 空気が変わった。

 熱でも冷気でもない、“圧力”。

 空間そのものが沈み込むような感覚。


 闇の中から、5つの影が現れた。


 先頭に立つのは、漆黒のローブを纏った女。

 その背から溢れる魔力は、山をも潰すほどの重さを持つ。


 「……ラグナ」


 マリエが呟く。

 彼女の背後には、4人の魔女──クラリーチェ、リズリィ、ヴァルディア、ノイエル。

 いずれも、かつてカリストを支配した審問官の名を持つ者達。


 「野蛮な魔女達よ。そこまでだ」


 ラグナの声は低く、重く響いた。

 マリエは不敵に笑う。

 

「お前が……ラグナか。人間に負けた審問官どもが、まだ生きていたとはね」


 クラリーチェが一歩前に出た。

 

「口を慎め。貴様らのような獣が、この地に踏み込むことは許されない」


 シミラが舌打ちした。

 

「強気だねぇ。私たちは“野蛮”なんて呼ばれてるけど……それだけじゃない。

 あんた達よりも、もっと“自由”に生きてる」


 ヴァルディアが剣を抜いた。


 「自由? それを“破壊”と呼ぶのよ」


 魔力の衝突が始まりそうな瞬間、ラグナが片手を上げた。


 「やめろ」


 クラリーチェ達がすぐに静まる。

 ラグナの眼光が、野蛮な魔女達を貫いた。


 「お前たちの目的は分かっている。

 絶望を撒き、街を壊し、人々を跪かせること。

 ……健司という男を“絶望させる”ことだな?」


 マリエの口角が上がる。


 「正解。人間の顔がどんな風に歪むのか、楽しみで仕方ないわ」


 その瞬間だった。

 空気が震えた。

 足元の土が砕け、木々が軋む。

 目に見えない“重力”が一帯を押し潰していく。


 「っ……な、に……これ……」


 シミラが膝をつく。

 ブラットレインでさえも、額に汗を浮かべた。


 ラグナはただ立っていた。

 何もしていない。

 ただ、存在しているだけで空間が圧し潰されていく。


 「……やってみるがいい」


 その声には怒気も熱もない。

 それが、かえって恐ろしい。


 マリエの頬を一筋の汗が流れた。

 

「……さすがね。これが重力の魔女の力か」


 リズリィが冷たく言い放つ。

 

「お前たち程度が束になっても、リヴィエールには届かない」


 だが、マリエは笑っていた。

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