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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
クロエ編①侵攻

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野蛮の咆哮

ホワイトヴェル。

 かつては清らかな自然に包まれた美しい街だった。

 だが今、赤に染まり、冷たい風は悲鳴と煙の匂いを運んでいた。


 この街は今、野蛮の魔女たちによって支配されている。

 力こそ正義。慈悲も理性も不要。

 そんな思想のもとで築かれたのが、この「暴の国」だった。


 その中心――黒曜石の塔の最上階。

 円卓の間では、幹部たちが集まっていた。

 壁に刻まれた魔法陣が淡く光り、部屋中に緊迫した空気が漂っている。


「……以上が報告です」

 

低く頭を下げた部下の声に、沈黙が落ちた。


 最初に口を開いたのは、黄金の髪を揺らす女――マリエだった。

 彼女の肌は雪のように白く、しかしその瞳は血のように赤く輝いていた。


「炎の魔女たちが破れた、というのは本当か?」


「はっ。間違いありません。しかも、その内の二人――ヒシリエとファルネーゼという者が、人間の健司という男に同行したと」


 その瞬間、隣の席にいた女が立ち上がった。

 青髪を逆立て、全身から電光のような魔力を放つ。

 シミラだ。


「何だと!? あのフラムの配下が人間について行った!? あり得ないわ!」

 

彼女の声が部屋に響き渡る。

 彼女は冷静で無表情、しかし、この時はさすがに驚いた。


 マリエは腕を組みながら、落ち着いた口調で言った。


「信じられないかもしれないけど、報告は確かよ。フラムは敗れ、彼女たちは健司と共に去った。……まるで、心を奪われたようにね」


 シミラの眉が跳ねた。


「フラムが……負けた? あの女、炎の頂点とまで言われたのに……!」


「それだけ、あの人間が異常ってことね」


 不穏な沈黙。

 やがて、その空気をさらに圧し潰すような、禍々しい気配が部屋を包んだ。


 ――おぞましい魔力だった。


 空気が震え、壁の光が一斉に歪む。

 その中心に、ゆっくりと現れたのは一人の女。


 黒い衣を纏い、長い銀の髪が宙に漂う。

 その瞳は闇そのものであり、誰よりも冷たい微笑を浮かべていた。


 セイラ。

 野蛮な魔女の最高位に立つ魔女であり、ホワイトヴェルを支配する者。


「……聞いたわ」

 

静かな声に、誰もが背筋を凍らせた。


「フラムが敗れたことも。健司という人間が、また新たな仲間を得たことも」


 その言葉に、誰もが息を呑む。

 セイラはゆっくりと円卓の中央に歩み寄り、椅子に腰を下ろした。

 長い指で肘掛けを叩く音が、妙に響いた。


「正直、負けるとは思わなかった。でも……二人も連れて行くなんて、面白い展開じゃない」


 マリエとシミラは、恐る恐る口を開いた。


「セイラ様……ご命令は?」


 セイラの笑みがわずかに歪んだ。


「命令? そうね……」

 

そして、テーブルの上に黒い魔力を落とす。

 その一滴は瞬く間に地図の形を成した。


 ――リヴィエール。


「この街に行きましょう」


 その一言で、部屋の空気が一変した。


「リヴィエールを……攻める、のですか?」

 

マリエが確認するように問いかける。


「そうよ」

 

セイラは冷ややかに笑った。


「フラムが破れ、健司たちが戻る場所――それがリヴィエール。彼らが“安らぎ”だとか“愛の街”だとか言って作ろうとしているその場所を、跡形もなく消すの」


 シミラが目を見開く。


「しかし、あそこにはアナスタシアがいます! 水の当主にして、フラムと並び立つ魔女! 容易では――」


「アナスタシア?」


 セイラはあざ笑うように唇を歪めた。


「あの女は戦わないわ。守ることしか考えていない。フレイムにしたことへの罪の意識に囚われているから」


 沈黙が落ちる。

 マリエとシミラは目を合わせた。

 その表情には、戦慄と好奇心が入り混じっていた。


「まさか……」


「彼女が罪を……?」


 セイラは続けた。


「ええ。フレイムで多くの命を奪ったこと。それが今、彼女の枷になっている。だから――あの街は守りを固めても、心の中に穴があるの」


 机に肘をつき、セイラは妖艶に微笑んだ。


「そこを突くの。力じゃなく、恐怖と混乱で」


 ルネイアが口を開いた。


「ボス、気にしないでください。私たちが動けば――」


「気にしない?」

 

セイラの声が低くなる。


「私たちを無視して、フレイムに行ったのよ。私たちが先に宣戦布告をしたのに」


 怒りが、魔力とともに広がっていく。

 壁に刻まれた魔法陣が一斉に軋み、床が震えた。


「彼らは私たちを恐れて避けたのよ。いいわ、それなら見せつけてやりましょう。誰がこの世界を支配しているかを」


 その声は、冷たく、絶対だった。


 シミラが拳を握る。


「……了解しました。リヴィエールを攻め落とします」


 マリエも頷いた。


「私たちの力を見せる時ですね」


「そう。あなたたちならできる。絶望感を――この世界に与えられる」

 

セイラの唇が、薄く歪む。


「さあ、行きなさい。水を砕け。安らぎなど、野蛮の前では無意味だと教えてやるのよ」


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