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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編⑥フレイムの王 フラム

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リヴィエールへの帰還 ― 炎と水のあいだで

フレイムの国の空は、澄み切っていた。

 つい先日まで、空を焦がすような炎と魔法が交錯していたことが信じられないほどの静けさだった。


 フラムは国の丘の上に立ち、健司たちを見送っていた。

 背後には、炎の精霊たちが穏やかに揺らめいている。

 戦いの後の平和――それは、フラムにとっても、健司たちにとっても、ようやく掴んだひとときだった。


「フラム、また会いましょう」

 

健司が微笑んで言うと、フラムは炎のような赤髪を揺らし、堂々と頷いた。


「ああ。またな、健司。……お前は不思議な男だ。出会う者たちが皆、お前に何かを託していく」


「そんなことは――」


「否定するな。私もその一人だ。お前が示した“愛”というもの、私もこれから少しずつ学んでいこうと思う」


 フラムの瞳は優しかった。

 炎の女王でありながら、どこか人間らしい温もりを取り戻したようだった。


 その時――後方から声がした。


「フラム様、私たちも……健司についていってもよろしいでしょうか?」


 振り向くと、ヒシリエとファルネーゼが立っていた。

 どちらもフレイムの国を支えていた炎の魔女たち。戦いの最中、誰よりも勇敢に国を守った者たちだ。


「なに?」

 

フラムは少し驚いたように眉を上げた。


「お前たちが……健司に?」


「はい」

 

ヒシリエがまっすぐ健司を見た。


「彼を見て、心が変わりました。力ではなく、想いで人を導く――それができる人を初めて見ました」


 ファルネーゼも頷いた。


「私も同じです。フラム様に仕えることは誇りですが……私の心が、別の道を選びたいと告げています」


 その言葉に、フラムは少しだけ笑った。


「……そうか。お前たちまで変わってしまったか」


 ヒシリエとファルネーゼは一瞬不安げな表情を見せたが、フラムは首を振った。


「いいだろう。行ってくるがいい。ただし、忘れるな。お前たちはこの国の炎だ。いつでも帰ってこられる場所がここにある」


「……ありがとうございます!」

 

二人の声が重なった。

 そして、健司の方を向き、深く頭を下げた。


「健司さん、よろしくお願いします」


「え? あ、ああ……」


 健司は少し戸惑いながらも微笑んだ。


「こちらこそ。仲間として歓迎するよ」


 こうして、新たな同行者が二人増えた。

 健司たちは再びリヴィエールを目指して旅立った。



 陽の光が穏やかに照らす中、一行は南東へ向かって進んでいた。

 緩やかな草原を抜け、森の道を進む。空気は涼しく、鳥のさえずりが心を和ませた。


 だが――その空気を少しだけ重たくしていたのは、後方の三人だった。


 ヒシリエとファルネーゼが、左右から健司の腕をしっかり掴んでいたのだ。

 まるで護衛のように見えるが、その距離はあまりにも近すぎた。


「健司さん、歩き疲れてませんか?」


「え、ああ……大丈夫」


「そう? なら、もっと寄り添って歩きましょう。風が強いですし」


「え、いや、その……」


 リセルが後ろから見て、思わずため息をついた。


「ねぇ、リーネ。あれ、どう思う?」


 リーネは肩を落とした。


「やはり、こうなったか……」


「しょうがないよ、リーネ。いつものことじゃない」


「いや、今回はちょっと違う。あの二人、完全に狙ってる」


 そう言ってリーネが前を睨むと、案の定、アナスタシアが険しい表情をしていた。

 彼女の美しい銀髪が風に揺れ、その瞳はほんのり冷たい。


「ちょっと、健司」


「な、なんですか?」


「ヒシリエさんとファルネーゼさん、ちょっとくっつきすぎじゃない?」


 ヒシリエがすぐに反応した。


「くっついてるわけじゃありません。ただ、守っているだけです」


「そうそう。敵が出たら困るでしょ?」


「ここ、敵なんて出ないけど?」


「出るかもしれないでしょ?」

 

ファルネーゼが軽く舌を出して言い返した。


 その瞬間、アナスタシアの周囲の空気がわずかに冷たくなった。

 魔力が静かに漏れ出す――だが、健司が慌てて止める。


「アナスタシア、やめてくれ」


「でも……」


「みんな仲間だ。争うのはやめよう」


 ヒシリエとファルネーゼも少し反省したように頭を下げた。


「すみません、つい」


「ただ……私たちは正直に言いたかっただけです」


「正直に?」

 

アナスタシアが眉をひそめる。


「そう。愛しているってことを」


 ヒシリエの言葉に、一瞬、空気が止まった。


「……は?」

 

アナスタシアの声が少し低くなる。


 ファルネーゼも続けた。


「愛を知ったんです。健司さんに出会って、初めて気づいたんです。私たちは“誰かを想う”ということを知らなかった。だから、正直に伝えたいんです」


 その真っ直ぐな告白に、健司は何も言えなかった。

 心が熱くなる――それは嬉しさと戸惑いが混ざった感情だった。


 アナスタシアは腕を組み、深く息をついた。


「……ふーん。つまり、誰かさんみたいに隠してないってことね」


「ええ、その通りです」

 

ヒシリエとファルネーゼの声が重なった。


 風が止まり、一瞬、空気がピリついた。

 リセルが慌てて口を挟む。


「ま、まぁまぁ! みんな仲良く! ねっ!」


 だが、アナスタシアの冷たい笑みは消えなかった。


「正直なのはいいことよ。でも――健司の隣は、そう簡単に譲らないわ」


「挑戦、受けて立ちます」


「同感です」


 その言葉に、リーネがぼそりと呟いた。


「これは……また面倒なことになりそうだね」


 ミリィが健司の後ろから顔を出す。


「健司さん、モテモテですね」


「ミリィ、からかわないでくれ……」


 旅路は、平和なのに妙に賑やかだった。

 誰もが笑っているのに、どこかで火花が散っている。




 夕暮れ、川面に黄金の光が反射する。

 水の都――リヴィエールが見えてきた。

 健司たちは思わず足を止め、懐かしい風景に息をのんだ。


「帰ってきた……」


 リセルが呟く。

 街の人々は健司たちの姿を見つけ、歓声を上げた。


「健司さんだ!」


「魔女たちを救ったんだ!」


 笑顔と拍手が、彼らを包んだ。

 その光景に、健司は少し照れくさそうに頭を掻いた。


「ただいま、リヴィエール」


 宿屋へ向かう途中も、人々が花を差し出し、感謝の言葉を送った。

 だが――その間もアナスタシアとヒシリエ、ファルネーゼの視線の火花は止まらなかった。


「ねぇ、アナスタシアさん?」


「なに?」


「今夜、健司さんの隣、私がもらっていいかしら?」


「却下」


「じゃあ、私が」


「二人とも却下」


「ずるいわね、あなた」


「努力が足りないのよ」


 その後ろで、クロエとリセルがくすくす笑っていた。


「ねぇ、あの三人、仲良くなる日は来るのかな?」


「無理じゃない?」


 健司はため息をつきつつ、空を見上げた。

 夕陽が沈み、川が赤く染まっていく。

 その光は、どこか炎の国を思い出させた。


「……フラムも、見てるかな」

 

そう呟いた時、アナスタシアがふっと微笑んだ。


「大丈夫。あの人も、あなたのことを忘れたりしない」


 健司はその言葉に頷き、街を見渡した。

 仲間たちがいる。

 新しく加わった者も、古くからの仲間も。

 それぞれの心に愛を抱きながら、次の旅へ進もうとしていた。


 けれど――

 アナスタシアと、ヒシリエ、ファルネーゼの間に流れる“バチバチ”は、宿に戻ってからも続いた。


「健司さんはどんな女性が好きなんですか?」


「え、あー……」


「やっぱり強い女性ですよね?」


「それとも、優しいタイプ?」


「ちょっと、二人とも。質問攻めやめてくれる?」


 ミリィとリセルが笑いをこらえながら囁いた。


「健司さん、まるで王様みたいだね」


「いや、違うから……!」


 こうして、リヴィエールの夜はまた騒がしく幕を開けた。

 愛と嫉妬、安らぎと予感が入り混じる、

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