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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編⑥フレイムの王 フラム

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炎の残響 ― カルナの行方 ―

塔の中は静まり返っていた。

 フラムとの激闘が終わり、空気にはまだ熱の名残がある。

 しかし、それはもう人を焦がす炎ではなかった。

 温もりのある、穏やかな熱。

 まるで誰かの想いがまだここに残っているかのように。


 アナスタシアが一歩前に出る。

 彼女の白い髪がゆっくりと揺れた。


「……フラム、あなた、さっき言ったね。

 カルナ様が“生きている”と。」


 フラムは深く息を吐いた。

 瞳の奥に映る光は、かつての主を想う懐かしさだった。


「そうだ。カルナ様は生きている。

 ただし、この世界にはもういない。」


「どういうこと?」

 

アナスタシアの声が震える。

 その隣で、健司も静かに聞いていた。


「いなくなる前に、あの方は私に言った。

 “争っている場合ではない。西の魔女たちを止めなくてはならない”と。」


 塔にいた者たちは皆、息をのんだ。

 カルナ——炎の王にして、フラムの師。

 彼女の言葉は、魔女の国全体の均衡を変えるほどの重みがあった。


「……だから、カルナ様は消えたんですね。」


 ヒシリエが呟いた。

 その表情には、どこか納得したような、寂しさが滲んでいた。


「そうだ。

 カルナ様は、自ら姿を消した。

 誰も傷つけぬように。

 あの方は最後まで“愛すること”を選んだのだ。」


 フラムの声には誇りと哀しみが混じる。

 炎の女王でさえ、その言葉を口にするのに躊躇うほどの痛みがあった。


「だが……今、どうしているのかは、私にも分からぬ。」

 

フラムは視線を落とした。

 沈黙が塔を満たす。

 その時——


「……カルナに、会ったことがあります。」


 静かな声が響いた。

 それは、後方で控えていたヴェリシアの声だった。

 皆が彼女を見た。


「あなたが?」

 

アナスタシアが問う。

 ヴェリシアは頷いた。


「まだ私がちいさかったころ……街で空腹だった時、

 紫の炎が降ってきたんです。

 その炎が、私を包み、癒してくれました。」


 彼女は手をかざす。

 そこに、小さな紫の火が灯る。

 揺らめくその光は、どこか懐かしい香りを放っていた。


「……それは!」

 

フラムが息を呑んだ。

 膝をつき、震える声で言う。


「間違いない……カルナ様のみが使える炎。

 私の魔法はすべて、カルナ様に教わった。

 ——紫の炎は、癒しと慈愛の象徴。」


 フラムの頬を、涙が伝った。

 それは熱い炎ではなく、心から溢れた涙。

 炎の王が泣いている。

 誰も言葉を発せなかった。


 健司が一歩、前へ出た。

 その瞳はまっすぐで、迷いがなかった。


「フラムさん。ひとつ聞いてもいいですか?」


「……ああ、何でも聞け。お前たちには、その資格がある。」


「——“野蛮な魔女たち”について。」


 その瞬間、空気が変わった。

 ヒシリエもファルネーゼも、バーネさえも息を呑む。

 その名を聞くだけで、緊張が走るのだ。


「野蛮な魔女たちは、何者なんですか?」


 フラムはしばし目を閉じ、記憶を探るように語り出した。


「……彼女たちは、

 “狂気”と呼ばれるほどの、深い呪いを抱えている。」


「呪い……?」


「正確には、“トラウマ”と言った方がいいだろう。

 彼女たちは——男に選ばれなかった。」


 塔にいる全員が言葉を失った。

 フラムは続ける。


「ある男がいた。

 彼は、魔女である彼女たちに優しくした。

 けれど最終的に、彼が選んだのは“別の女”だった。

 その瞬間、彼女たちの心は壊れた。その集まりが野蛮な魔女達だ。

 ……以来、幸せな男女を見つけると、壊したくなる。」


 クロエとリセルが顔を見合わせた。

 そして小さくため息をつく。


「なるほどね。男に振られた腹いせで世界を壊そうとしてるってわけ。」


「まあ……そういう女たち、どこの世界にもいるけどね。」


 アナスタシアは眉をひそめた。

 だが、健司だけは違っていた。

 彼は、少しだけ微笑んだ。


「……まだ、救えますね。」


「何?」

 

クロエが呆れた声を出す。


「ほんと、あなたらしいわね。」

 

リセルも肩をすくめる。


 フラムはその様子を見て、微かに笑った。

 炎が小さく灯り、その笑顔を照らした。


「人間というのは、不思議なものだな。

 誰もが諦めることを、簡単に“まだ救える”と言ってのける。」


「僕はただ、諦めたくないだけです。

 誰かを恨んで生きるのは、悲しいですから。」


 その言葉に、フラムの瞳が揺れた。

 ——まるでカルナがそこに立っているかのようだった。


「……カルナ様も、同じことを言っていた。

 “人は、誰かに愛されることで、炎のように変わる”とな。」


 ヒシリエは静かに涙を拭った。

 バーネも、ファルネーゼも、皆が心のどこかでカルナの面影を感じていた。


 しばらくして、健司がまた尋ねた。


「最後にもう一つだけ。

 “ワープ”のような魔法……あれは、野蛮な魔女たちが使っていたものですか?」


 フラムは頷いた。


「そうだ。あいつらには、転移の術がある。

 だが正確には、自分で移動しているわけではない。

 “配下の魔女”と位置を入れ替えるのだ。」


「つまり……配下がいれば、どこにでも行ける、ということですね。」


「そうだ。だから厄介だ。

 彼女たちには大勢の従者がいる。

 行きたい場所に配下を送り込み、瞬時に“自分”と入れ替わる。

 どんな結界でも防げない。」


 アナスタシアが眉を寄せる。

 リセルは低く唸った。


「……まるで、影のようね。」


「影、か。」


 フラムが頷く。

 その言葉が意味深に響いた。


 カテリーナが口を開く。


「つまり、カルナ様は西の魔女たちを止めに行ったのね。」


「そうだ。だが、ひとりで、だ。」


「なら、行かないと。」

 

健司の言葉に、全員の視線が向く。

 彼は迷わなかった。


「カルナさんを助けるために。そして——野蛮な魔女たちを、救うために。」


 その言葉に、フラムの口元がほころぶ。


「……やはりお前は、人間ではなく“光”だな。」


 彼女は紫の炎を掲げた。

 その光が、健司たちを優しく包み込む。


「この炎が、お前たちを導くだろう。」


 塔の天井が開き、夜空が見えた。

 星々の間に、紫の火が道のように伸びていく。

 それは、カルナの炎。

 彼女の魂が、まだこの世界を見守っている証。


 健司たちはその光を見上げ、歩き出す。

 

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