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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編⑥フレイムの王 フラム

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フラム対カテリーナ ― 炎の夢 ―

 塔の上空に紫の雲が渦を巻いていた。

 その中心から、紫炎が雨のように降り注ぐ。

 ——フラムの魔法、《パープルレイン》。


「う、うそ……こんな規模……っ!」


 バーネが恐怖に顔を引きつらせ、ファルネーゼは青い炎を握りしめながらも後退した。

 ヒシリエでさえ、震える声で叫んだ。


「おやめください、フラム様! この炎は、味方すら焼き尽くします!」


 しかし、フラムの紅い瞳は揺るがない。

 炎の王と呼ばれた魔女は、すでに覚悟を決めていた。

 カルナの消失、王国の崩壊、そして今、訪れた異邦の男とアスフォルデの環の魔女たち——。


「もう遅い。抗う者には、裁きを下す。」


 空が裂けた。

 紫の炎が流星のように降り注ぎ、塔の大地を焦がす——はずだった。


 だが。


 熱くない。


 炎が頬を撫でた瞬間、カテリーナの髪が柔らかく揺れた。

 肌に触れた感触は、春の陽だまりのようなぬくもり。

 ファルネーゼも、ヒシリエも、そして健司も目を見張った。


「……これは……温かい?」


 フラムが眉をひそめる。


「何だ? なぜ、奴らは燃えない?」


 健司が手をかざしていた。

 周囲の炎の流れを読むように、指先で何かを編み上げる。


「僕が……変えました。

 フラムさんの炎は、怒りの熱。だから……僕は、それを愛の炎にしたんです。」


「貴様……!」

 

フラムの声に、焦りと驚きが混じる。


「そんなことができるのは——」


「ええ、人間の魔法です。」


 健司の瞳は静かに光っていた。

 その背後から、黒い衣をなびかせてカテリーナが一歩、前に出る。


「ここからは、私の番ね。」


 闇の波動が足元から立ちのぼる。

 カテリーナの魔力が、黒い嵐となってフラムの前に広がった。


「ほう……カテリーナ。噂は聞いている。

 実力だけなら最上位に並ぶ魔女だと。」


「なら、話は早いわね。」


 闇と炎。

 正反対の属性を持つふたりが、ゆっくりと距離を詰める。

 塔の空気が震え、地面が溶ける。

 互いの魔力がぶつかるだけで、空間が歪むほどだった。


「私の夢のために、あなたに勝つ。」


「夢、だと? 魔女に夢など必要ない。必要なのは力だ。」


 フラムの周囲に再び炎が踊り出す。

 今度は紫ではなく、紅・橙・黒、すべての炎が混ざり合う。


「これを喰らうがいい。——《炎極ルーム》!」


 塔全体を包み込む、色とりどりの炎の結界。

 空間の中心から爆発的な熱が生まれ、逃げ場はどこにもない。

 ヒシリエたちが叫ぶ。


「カテリーナ、下がって! あれは数々の敵を滅ぼした禁術よ!」


 しかし、カテリーナは微笑んだ。

 彼女の闇が、全方位に広がっていく。


「——《ブラックアビション》。」


 黒い光が、まるで夜そのもののように塔を包む。

 炎が当たっても、燃えない。

 それは“吸収する闇”だった。


「ばかな……それは何だ?」


「守りの魔法よ。」


「守り、だと? カテリーナ、お前は攻撃主体の魔女だろう!」


 フラムが信じられないというように叫ぶ。

 カテリーナは静かに首を振った。


「守りたい人がいるからね。」


 その言葉に、健司が一瞬だけ彼女を見る。

 カテリーナの背中が、まるで光って見えた。

 ——彼女が戦っているのは、勝利のためではなく“愛する者を守るため”だ。


 フラムの炎が、なおも燃え盛る。

 炎と闇が交錯し、光が生まれ、塔の空が真昼のように明るくなった。

 その中心で、カテリーナは指を鳴らす。


「次は……《ブラックホール》。」


 闇が一点に集まり、重力がすべてを吸い込んでいく。

 フラムはそれを読み、瞬時に回避した。

 だが、その一瞬の動きをカテリーナは読んでいた。


「《ブラックワープ》。」


 空間が歪む。

 避けたはずの炎が、逆にフラムの背後に出現した。

 そして——


 ドンッ。


 フラム自身の炎が自分を包み込む。

 爆発音が響き、塔の外壁が光で満ちた。

 炎が消えた後、フラムは片膝をついていた。

 その瞳からは、紫色の光がゆっくりと消えていく。


「……なるほど。……私の負けだ。」


 炎の王が、静かに笑った。

 その表情には、清々しささえあった。

 長い年月、誰にも敗れなかった彼女の中に、ようやく“納得”という感情が芽生えていた。


「カテリーナ……お前の夢とは……何だ?」


 カテリーナは息を整え、健司を見た。

 健司はただ頷く。

 その瞬間、彼女の声が響いた。


「——戦いのない世界。

 愛する人を、誰も奪われない世界。

 そのために、私は闇を使うの。」


 フラムは、ゆっくりと目を閉じた。

 まるでその言葉を、心の奥に刻むように。


「カルナ様が……この言葉を聞いたら、どう思っただろうな。」


 炎が、風に溶けるように消えていく。

 塔の中の熱も、静まりかえった。

 バーネたちは唖然と立ち尽くし、ヒシリエは涙を拭った。


「フラム様……あなたがこんなにも穏やかな顔を……。」


「ヒシリエ、もう戦う時代ではないのかもしれんな。」


 フラムは立ち上がる。

 焦げ跡ひとつない床を見つめ、そしてカテリーナに言った。


「勝者としてではなく、同じ魔女として聞いてほしい。

 ——カルナ様は、生きている。」


「……何ですって?」


 アナスタシアが一歩前へ出る。

 健司も息をのんだ。

 フラムは微笑む。

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