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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
アスフォルデの環②リセル

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闇の調停者

南へ向かう道の途中、夕暮れの光が木漏れ日となって森を照らしていた。

健司たちはひと休みするため、岩の影に腰を下ろしていた。ルナとミイナは近くの泉で水を汲んでいたが、健司はずっと考えていた。


あのとき、現れた魔女――リセル。


彼女の瞳には確かな哀しみがあった。

それは、誰かを本当に失った人間の、深い痛みの色だった。


「クロエ。……さっきのリセルって人、どんな人なんだ?」


健司の問いに、クロエは少し黙り、木の葉が風に揺れる音を聞いていた。やがて、静かに口を開いた。


「“闇の調停者”よ。リセルは、そう呼ばれているわ」


「……調停者?」


「ええ。闇の魔法を操りながらも、戦うことより、争いを止めることに力を使っていた魔女。あの谷では、昔から魔女同士の衝突も絶えなかった。でも、リセルだけは、いつも中立を保っていたの」


健司は意外そうな顔をした。


「じゃあ、なんで……僕に攻撃を?」


クロエはわずかに視線を落とす。


「……あの子は、人間に裏切られたのよ。昔、彼女には“彼”がいた。ある村で出会った青年。彼は魔女である彼女を受け入れて、信じてくれた。誰よりも――」


「……じゃあ、なぜ?」


「その村の女性が彼に嫉妬してね。リセルが魔女だと村に吹き込んだの。彼女が呪っている、って……。村の人々は恐れ、追放しようとしたわ。でも、彼だけは最後まで信じ続けた」


クロエの声は低く、どこか震えていた。


「だけど、村の襲撃で彼は命を落とした。リセルを守るためにね。……最後まで、“リセルは違う”って言い続けて」


「……!」


健司は胸が締めつけられるようだった。

リセルの冷たい視線。その裏にあった、消えない痛み。


「それ以来、リセルは人間と関わらないようになった。魔女を守るためには、感情を捨て、冷酷にならなきゃいけないって、自分に言い聞かせて」


「それが“調停者”なのに……?」


「ええ。皮肉よね。争いを止めていた子が、今では戦いを始める側にいる。でも……私は信じてるの。リセルの奥底には、まだ“あの頃”の優しさが残ってるって」


健司は黙って空を仰いだ。

橙色に染まった空が、ゆっくりと夜の帳を落とし始めていた。


「……だから、彼女、僕だけを狙ったんだ」


「そう。ルナやミイナには指一本触れず、あなたにだけ正確に攻撃を集中させた。あれは、本気で誰も傷つけたくない人の戦い方よ」


「でも……それでも、彼女は悲しそうだった。たぶん、自分でももう引き返せないって思ってる」


クロエは微笑んだ。かすかに、寂しそうに。


「あなたがそう思えるってことが、もう救いなのよ、健司。リセルが、もしどこかで立ち止まれる日が来るなら……あなたの言葉が、鍵になるかもしれない」


そのとき、泉のほうからルナとミイナが戻ってきた。


「健司ー! 水いっぱい持ってきたよ!」


「ごはんも、もうすぐ火が通るよー!」


2人の笑顔に、健司は笑って応えた。


「ありがとう、2人とも」


クロエはそっと目を閉じた。


――そう、彼女は願っていた。


この旅が、傷ついた魔女たちの過去を癒し、再び誰かを信じられる日へと導いてくれることを。


そして――


闇の調停者、リセル。


彼女の閉ざされた心が、再び光を見るその日まで。


健司の歩みは、止まらない。

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