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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編⑥フレイムの王 フラム

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フレイムの塔 ― 長フラム

焦げつくような熱風が、塔の外壁を舐めていた。

 紅の光が遠くまで揺らめき、まるで空そのものが燃えているように見える。

 健司たちは、ようやく第3の守護者ヒシリエの炎壁を突破し、フレイムの中心――長が住まう塔の前へと辿り着いていた。


 ヒシリエはその場に残り、傷だらけの体を支えながら、静かに彼らを見送った。

 緑の髪が風に靡き、汗に濡れた頬に赤みが差していた。


「……健司、あそこに長がいるわ」

 

ヒシリエが指差した塔の最上階。そこには燃えさかるような紅の光が灯っていた。


「長って、フラムさんのことですか?」


「ええ……フラム様は、カルナ様の……唯一の弟子よ」

 

そう言うと、ヒシリエの表情がふっと揺れた。

 頬がわずかに赤らむ。視線が、まっすぐ健司に向けられる。


 その柔らかなまなざしに、健司は戸惑いながらも微笑んだ。


「ヒシリエさん……?」


「……あなたといると、心が穏やかになる。燃えた心が、静まるの。

 魔女にとって、それは――初めての感覚なのよ」


 ヒシリエの言葉は、どこか切なかった。

 炎の国で生きる者が、炎を恐れたことなどない。だが今、彼女は“熱”ではなく“温もり”を感じていた。


 そんな様子を見たクロエが、呆れたように笑った。


「しょうがないね。魔女って、ほとんど男に免疫ないから」


 リセルも小さく頷く。


「そうね。人の温かさに触れること自体、禁忌とされてる世界だったから」


 ヒシリエはそれを聞いて、恥ずかしそうに目を逸らした。

 だが、その頬の赤みは消えなかった。


 アナスタシアは、少し離れた場所で腕を組んでいた。


「フラムがいるとなると……厄介ね」


「フラム……?」


と健司が聞いた。


「炎の魔女であり、この国を束ねる王。

 カルナがいなくなった今、フレイムを統べているのが彼女。

 戦いを好まぬ私と違って、彼女は“誇り”を戦いで示す魔女よ」


 その言葉には、長き因縁の響きがあった。


 そして――。


 塔の扉が、重々しい音を立てて開いた。

 灼熱の光が溢れ出し、空気が一瞬にして変わった。

 肌を刺すような熱量。息をするだけで肺が焼けるような感覚。


 中から現れたのは、一人の女だった。


 燃えるような紅の髪。琥珀色の瞳。

 背後の炎がまるで意思を持つように彼女の周りで揺れ動いている。


「フレイムの王……フラム」

 

アナスタシアがその名を口にする。


 フラムはゆっくりと彼らを見渡し、微笑んだ。


「久しいな、アナスタシア」


 声は柔らかく、それでいて内に確かな熱を秘めていた。


「お前が人間を連れてくるとは思わなかった。

 しかも――その周りにいるのは、“アスフォルデの環”の魔女達か」


 フラムの視線が、クロエ、ミリィ、リセル達、そして健司に向けられる。

 その瞳に宿るのは敵意ではない。だが、確かな警戒と、試すような光。


 アナスタシアは一歩前に出た。


「フラム、あなたに話を聞きに来ただけ。荒らすつもりはない」


 フラムの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「話、だと?」


 その声には、どこか懐かしさが滲んでいた。

 炎の間の奥で、炎が揺れるたびに、フラムの姿が歪む。

 それはまるで、カルナの面影を纏っているようにも見えた。


 その時、ヒシリエが前に出た。


「フラム様、本当です。彼らは敵ではありません。信じてください」


 フラムはその言葉に目を細めた。


「……ヒシリエ。お前がそう言うなら、耳を傾けよう。

 だが、覚悟はしておけ。ここは“国の心臓”だ。私の炎は、この国そのものだ」


 ヒシリエは静かに頷いた。

 その後ろで、ファルネーゼやバーネたち、フレイムの守護者達も並んで頭を下げる。


 フラムは、彼女らの姿を見て、深く息を吐いた。


「……そうか。来たるべき時が、今なのだな」


 その言葉は、遠い過去を思い出すようだった。


「この国を守るためには――戦いは避けられぬと思っていた。

 だが、お前達を見て、ほんの少しだけ……迷いが生まれた」


 アナスタシアが静かに問う。


「フラム、あなたは何を恐れているの?」


 フラムは紅い瞳で、アナスタシアを見つめ返した。


「恐れているのではない。知っているのだ。

 “血統の魔女達”が、どこから来たのかを」


 健司が眉をひそめた。


「どこから……?」


 フラムの声は重く、低く響いた。


「西だ。

 西の果て――“セールドール”からだ」


 その名が出た瞬間、アナスタシアの表情が変わった。

 周囲の魔女たちも一様に息を呑む。


「セールドール?」


「そうだ。

 西から多くの者たちが逃げた。理由は一つ。

 “狂った魔女”たちが、そこにいるからだ」


 フラムの瞳が細くなる。


「私はカルナ様から聞かされていた。

 自分達の欲望のために魔女たちが、いつか東へ侵攻してくると」


「だから私は、この塔を守ってきた。

 カルナ様が消えた後も、炎を絶やさぬように。

 いずれ訪れる“炎の夜”に備えるために」


 その声には、王としての覚悟と、弟子としての哀しみが入り混じっていた。


 アナスタシアは目を閉じた。

 今もフラムの中に、あの師の記憶が生きている。


 ヒシリエが小さく呟いた。


「フラム様……カルナ様は、まだどこかにいるのですか?」


 フラムは目を伏せた。

 その沈黙が答えだった。


 健司が前に出た。


「フラムさん。僕たちは、誰かを倒したいわけじゃない。

 ただ、もう一度――人と魔女が、手を取り合える世界を作りたいだけなんです」


 その言葉に、フラムの炎が静かに揺れた。


「……人と魔女が、手を取り合う?」


 フラムはかすかに笑った。


「カルナ様が昔、同じことを言っていたな」


 アナスタシアが目を開ける。

 その瞳の奥で、炎と氷が交わるように光が揺れた。


「健司ならできる。私はそう信じている」


 フラムはその言葉を聞き、しばらく沈黙した。

 やがて――紅い瞳が、柔らかく細まった。


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