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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編④守護者 ファルネーゼ

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ファルネーゼ対ローザ ―青炎と影の誓い―

青い炎が塔の広間を覆っていた。

 息をするたび、熱ではなく痛みが走る。炎というよりも、憎しみそのものが形を持って燃えているようだった。


 ローザは一歩前に出た。

 健司もアナスタシアも止めようとしたが、彼女は静かに首を振る。


「この戦い……私が行くわ」


 彼女の瞳には恐れがなかった。

 影のように静まり返り、すべてを見透かすような深い闇の色をしていた。


「復讐など、何にもならない」


 その言葉に、青炎が一瞬だけ揺れた。

 そして、ファルネーゼの怒りが爆発する。


「何を言っている?お前に何が分かる!」


 ファルネーゼの声が塔を震わせた。

 彼女の髪が青く燃え上がり、瞳が怒りと悲しみで歪む。

 周囲の床が焼けただれ、空気がひび割れたように歪む。


「私の両親は……無垢なる子供たちは……アナスタシアの氷に閉ざされた。

 誰も助けに来なかった。誰も、泣いてもくれなかった!」


 青い炎が噴き上がった。

 ローザの足元に触れると、すぐに逃げ場を塞ぐように壁を作る。

 彼女の叫びは、まるで過去に縋りつく祈りのようだった。


「終わりだ。何もできないんだよ」


 ファルネーゼの指が弾け、ブルーファイアが発動した。

 その炎は消えない。燃える限り、対象を焼き尽くすまで止まらない。


 しかし、ローザは焦らなかった。

 影が足元から溶け出す。

 まるで地面の闇そのものが息を吹き返すように、ローザの体を包み込む。


「……シャドウ・シェルター」


 影が青い炎を吸い込み、飲み干す。

 熱が闇の中で凍りつき、音も光も失われた。


 ファルネーゼは歯ぎしりした。


「その程度か?なら、大したことないな。私には“愛”があるからな!」


 その言葉に、ローザの眉がわずかに動いた。

 愛。

 それは復讐の火を燃やすための“燃料”に過ぎないのか。


「……それを、愛と呼ぶの?」


「そうだとも!私が燃やしているのは、両親と無垢なる子供たちへの愛!

 あの女を許すことなどできない!」


 青い炎がさらに膨れ上がる。

 炎の柱が塔を突き抜け、夜空を青く染める。

 広間にいた者たちは、誰もが息を呑んだ。


 ローザはゆっくりと影を伸ばす。

 炎の向こうに立つファルネーゼの瞳をまっすぐ見つめて、低く言った。


「あなたの愛は……燃え尽きてしまう愛ね。

 私はね、燃やすんじゃなく、包むことを選んだの。

 誰かの痛みを包み、癒すために」


 ファルネーゼが歯を食いしばる。

 だが、怒りよりも何か別の感情が、その目に宿った。

 戸惑い、かすかな恐れ――いや、“羨望”だった。


「ファイアバーン!」


 ファルネーゼが叫ぶ。

 青炎が爆発的に広がり、ローザを中心に巨大な円を描く。

 地面が割れ、空気が焼ける。

 その中心で、ローザは静かに影を立たせた。


「シャドウ・ナイフ」


 影が刃に変わり、闇を切り裂く。

 刃が青炎を貫くと、火が裂けるように二つに分かれ、空気が一瞬で冷たくなった。

 衝撃波が吹き荒れ、塔の壁に亀裂が走る。


 そして――

 青い炎が、消えた。


 ファルネーゼは膝をついた。

 青い髪が揺れ、燃えかすのようにほどけて落ちる。


「……何故、負けた? 私は、愛のために戦ったのに……」


 ローザは近づき、そっと彼女の前にしゃがんだ。

 その瞳は、勝者のものではなかった。

 どこまでも優しく、哀しみに満ちていた。


「それは……一人だからよ。

 憎しみを抱えて、誰にも預けられなかった。

 仲間は大事なんだよ。

 人は、一人で戦うと……心が燃え尽きる」


 ファルネーゼの目から、一筋の涙がこぼれた。

 それは青く光り、床に落ちて蒸発した。


「……私にも、仲間が……いたはずなのに」


「今でもいるわ」

 

ローザの後ろで、健司とアナスタシア、そしてバーネが見守っていた。


 アナスタシアが一歩前に出る。

 彼女の表情は苦しげだった。

 そして、震える声で言った。


「……あなたの両親と無垢なる子供たちのこと、覚えている。

 あの時の私は、冷たくて、何も見えていなかった。

 命令に従うだけの、人形だった……」


 ファルネーゼの瞳が揺れる。

 怒りと悲しみがぶつかり合い、やがて静かに涙に変わっていった。


「……謝る資格なんて、私にはない。でも、それでも言わせて。

 ごめんなさい」


 青い炎が、完全に消えた。

 ファルネーゼは、拳を地に落とし、嗚咽を漏らす。

 その涙が床に落ちるたび、青い光が柔らかく揺らめいた。


 バーネが近づき、静かに肩を叩いた。


「……よくやったな、ファルネーゼ。あの時の私たちは、みんな間違っていたのかもしれん。

 でも、今は……少しだけ、救われた気がする」


 ローザは空を見上げた。

 塔の天井の裂け目から、青白い月の光が差し込んでいる。

 夜風が入り込み、焦げた匂いを吹き流していった。


「憎しみは、消えない。けれど――

 誰かを想う心があれば、いつかきっと……変わる」


 その言葉に、ファルネーゼは小さく頷いた。

 彼女の青い炎は、もう燃えていなかった。

 だが、その瞳の奥には、確かに“光”が残っていた。


 健司が小さく息をついた。

 戦いの終わりは、いつも静かなものだ。

 だがその静けさの中に、確かな希望が宿っていた。


 ――炎と影、怒りと赦し。

 すべては、愛にたどり着くための試練だった。


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