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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編④守護者 ファルネーゼ

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第2の守護者 ファルネーゼ

炎の王の間は、常に赤く照らされていた。

 大地の奥底で燃え続ける炎が、石造りの床の隙間から覗き、ゆらゆらと光を放っている。

 天井は高く、黒曜石の柱が左右に伸び、そこに燃える炎の紋章が刻まれていた。

 それが、かつて「炎の一族」を象徴した印——フラムが治める王の印である。


 フラムは玉座に座っていた。

 長い赤金の髪が肩を流れ、瞳は灼熱の光を宿している。

 その身に纏う炎は、ただの熱ではない。

 それは、存在そのものを燃やし尽くす「本質の炎」。

 あらゆる炎を扱う炎の一族最強の魔女その人だった。


 扉の前で、長い沈黙が流れた。

 やがて——


「……フラム様。報告がございます」


 厚い扉が重々しく開かれ、青い髪の女が現れた。

 彼女の名はファルネーゼ。

 炎の一族における“第2の守護者”。

 青い炎を自在に操る、激情の魔女。


 フラムの瞳がわずかに動く。

 その視線ひとつで、空気が変わった。

 燃える音だけが響く。


「……話せ」


 低く、しかし威圧感を帯びた声。

 その一言で、ファルネーゼは片膝をつき、頭を垂れた。

 青い炎が彼女の体を包み、まるで忠誠の証のように、床に青い焔が散った。


「——バーネが、破れました」


 その言葉に、炎の空気が一瞬、冷えたように感じた。

 フラムは沈黙を保ったまま、目を閉じる。


「……そうか」


 たったそれだけの返答。

 しかし、王の間の炎がその瞬間だけ、大きく燃え上がった。

 フラムの感情が、炎を通じて表に出たのだ。


 ファルネーゼは、息を呑みながら続けた。


「相手は、アナスタシアと……健司という人間。そしてその仲間たちです」


 その名を口にした瞬間、フラムの瞳が開かれた。

 深紅の光が射抜くようにファルネーゼを見据えた。


「アナスタシア……」


 その名には、数十年の因縁が込められていた。

 炎の一族と、水の一族。

 かつて、東大陸を二分して争った宿敵の名。

 だが、今フラムが感じたのは——怒りではなかった。


「……あの少女が、もうそんな立場か」


「はい。バーネを破ったのは、彼女と……その人間です」


「人間?」


「ええ。“健司”と呼ばれております。どうやら、ただの人間ではないようで」


 ファルネーゼの炎が揺らぐ。

 その炎に、フラムは無言で手をかざした。

 青い炎が紅蓮に染まり、やがて一瞬で消えた。


「バーネが破れるとはな……。あの子は、私の作った“白炎の式”を受け継いだはずだ。白いものすべてを燃やす——完全燃焼の魔法。それが破られたというのか」


「はい。ヴェリシアと名乗る女が、“紫炎”を使ったそうです。精神すら燃やす炎——まるで伝説のカルナ様の魔法そのものだと」


 フラムは微かに笑った。

 その笑みには、わずかに懐かしさが混じる。


「なるほど、まだフラム様が生きているようだな」


 ファルネーゼは一歩進み、拳を握りしめた。


「ご安心ください、フラム様。第2の壁は、私が守ってみせます」


 炎が爆ぜた。青く、そして激しく。

 ファルネーゼの青炎は激情の象徴。彼女が感情を燃やせば燃やすほど、その力は増す。


「アナスタシアは、水の一族の中でも特に危険です。15歳で当主になった女。」


「……知っているよ」


 カルナの声が低く響く。


「彼女は“氷の女王”と呼ばれた。冷たく、美しく、そして情けを知らぬ女だった。

 だが、あの頃は……まだ若かった。心が壊れていたのだろう」


 ファルネーゼは眉をひそめた。


「フラム様、まるで彼女を……庇うような口ぶりですね?」


「庇ってはいない。ただ、理解しているだけだ」


 フラムの視線が遠くを見た。

 かつて炎と水がぶつかり、世界を焼いた大戦。


「……アナスタシアがまだ、あの時の私を覚えているだろうか」


 呟いた言葉に、ファルネーゼは小さく首を傾げた。


 カルナは微笑んだ。

 だがその笑みには、王としての威厳が宿っていた。


「いや。私は、ただ見届けるだけだ。

 この時代を、次の炎を、そして“愛”という名の光を——」


「愛……?」


 ファルネーゼはその言葉に戸惑う。

 “炎の魔女”という存在に似つかわしくない言葉。

 しかし、フラムの瞳は真剣だった。



「……フラム様。まさか、人間などに希望を?」


「お前はまだ知らないのだな。炎の意味を」


 フラムは立ち上がった。

 その瞬間、王の間全体の炎が揺れ、赤、青、紫、白と、あらゆる色の炎が一斉に舞った。

 それは、彼女が持つ“全色の炎”——万炎ばんえんの支配者の証。


「炎とは、破壊だけではない。心を照らすものでもある。

 愛も怒りも、悲しみも、炎の一部だ。お前の炎もそうだろう? ファルネーゼ」


「……フラム様……」


「だからこそ、行け。お前の激情をぶつけろ。ただし、忘れるな。

 燃やすのは敵の命ではなく——お前の誇りだ」


 ファルネーゼの胸に、熱が宿った。

 青い炎がさらに濃く燃え上がる。

 彼女は深く頭を下げ、静かに答えた。


「はっ。第2の壁、ファルネーゼ。命を賭して、この炎を護り抜きます」


「行け。そして、アナスタシアを見よ。

 彼女の氷の奥に、まだ消えぬ炎があるなら——その時は、教えてやれ」


「……はい。フラム様の名に誓って」


 ファルネーゼが立ち上がり、炎の扉へと向かう。

 青い炎が足跡のように残り、やがて消えていった。


 フラムは一人、玉座に残った。

 炎の揺らめく音だけが響く。


「アナスタシア、そして……健司。

 お前たちは、どんな世界を作ろうとしている?

 私は見届けよう。愛を知らなかったこの世界が、

 再び“光”を取り戻すその時まで——」


 紅炎が舞い上がる。

 それは、古の時代から続く戦いの幕開けを告げるように。

 そしてフラムの背に、炎の羽が一瞬だけ広がった。


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