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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編③カルナの炎

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パープルフレイム

街を包む炎の光が、まるで夜を拒絶するように輝いていた。

 赤、橙、金。燃え盛る色彩の中、突如として異質な光が生まれる。


「——ホワイトフレイム!」

 

バーネが叫んだ。

 その声とともに、彼女の両腕から純白の炎が吹き出した。


 それは炎というよりも、光そのものだった。

 焼ける音すらない。

 ただ世界の輪郭を溶かし、存在の色を奪っていく。


「っ……熱い!」

 

クロエが目を覆う。

 白炎が通った地面は、黒く焦げることもなく、ただ色を失っていった。


 アナスタシアが険しい表情で呟く。


「やはり来たわね。……ホワイトフレイム。炎の一族の中でも、最も危険な魔法よ」


「どういうこと?」

 

健司が問うと、アナスタシアは短く答えた。


「白いものなら、何でも燃やす炎。純粋であるほど、無垢であるほど、焼かれる」


 ヴェリシアの周囲の光が揺らいだ。

 彼女の髪の先、衣の縁、そして頬を包む光までもが、じわりと白に染まり始める。


「なっ……なんだ、これは!?」

 

ヴェリシアは後ずさった。

 炎に焼かれる感覚ではない。

 もっと内側から、存在の色を抜き取られていく。


「ヴェリシア!」


健司が駆け寄ろうとする。


 しかし、アナスタシアが腕を伸ばして止めた。


「ダメ、健司! 彼女の炎が奪われる!」


「ホワイトフレイムは、“色”を燃やす炎よ」

 

バーネの声が街に響く。

 その白い髪が風に舞い、まるで神のような威厳を放っていた。


「白いものは燃える。だが、それは物質ではない。お前たちが“白”と想うもの、純粋、信念、無垢、理想……それを焼き尽くす炎だ」


「そんな……!」

 

ヴェリシアの視界が揺らいだ。

 彼女の炎が、自分の手から消えようとしている。

 掌が震え、熱が抜けていく。


「この魔法は破れない!」

 

バーネの瞳に光が宿る。

 彼女の背後で、純白の炎が舞い上がり、翼のように広がった。


「どうした? アナスタシアの仲間はこの程度か!?」

 

嘲るような声が街に響く。


 ソレイユが呟いた。


「……強い。これが炎の魔女達……これが“血統の炎”……!」


 アナスタシアは歯を食いしばった。


「ヴェリシア、心を失うな! 炎はお前の魂よ!」


 だがヴェリシアは膝をついた。

 白い炎が体を包み、指先から魔力が抜けていく。


 ——そのとき。


 彼女の脳裏に、昔の記憶がよみがえった。

 雨の夜、冷たく濡れた路地裏。

 全身が震えるほど寒かった。


 その時、誰かが声をかけた。

 

——「寒いの? なら、少しだけ温めてあげる」


 少女の前に現れた魔女。

 紅の髪を揺らし、彼女の頭上に炎の壁を作り出した。

 だが、不思議なことに熱くない。

 ただ、やさしい。


 あの炎は——。


「そうか……あの時、教えてもらったんだ」

 

ヴェリシアが顔を上げた。

 瞳が静かに燃えている。


「いろんな炎があるって。

 温める炎、照らす炎、焦がす炎、そして——心を燃やす炎が」


 バーネの眉が動いた。


「何を言っている?」


「あなたの炎は、すべてを焼き払うだけ。でも、私は違う」

 

ヴェリシアは立ち上がった。

 白炎に包まれながらも、微笑んでいた。


「炎は、心の色を映すもの。白いものを焼くなら——私は色を変える!」


 次の瞬間、彼女の身体から、紫の光が溢れた。

 炎が空へと舞い上がり、白炎とぶつかる。


 轟音が走り、空気が震える。

 バーネの目が見開かれた。


「なっ……何だこれは!?」


 ヴェリシアの周囲を包む炎は、紫色に輝いていた。

 赤でも青でもない。

 冷たくも熱くもない、不思議な炎。


「——パープルフレイム」

 

ヴェリシアの声が響く。

 風が止まり、空気が静まった。


「精神すら燃やす炎。

 私を救った、炎の魔女の魔法」


 その名を聞いた瞬間、アナスタシアの表情が変わった。


「カルナ……!? 伝説の、炎の魔女……!」


 バーネが後ずさった。

 彼女の白炎が、紫の焔に飲まれていく。


「ば、馬鹿な……! 白炎が、焼かれていく!?」


 白が揺らぎ、紫が空を染めていく。

 バーネの瞳が大きく見開かれ、手が震えた。


「この炎……心に……直接……!」


 白炎が燃やすのは“純粋なもの”。

 だが、紫炎が燃やすのは“信じすぎた心”。

 理想に囚われ、他を見失った心を焼く炎だ。


 ヴェリシアの炎が、バーネの胸元に触れた瞬間——。


「やめろおおおおおおっ!」


 バーネの叫びが響いた。

 炎の翼が砕け、地面に膝をつく。

 彼女の白髪が、ゆっくりと赤に戻っていく。


 静寂。


 紫の炎が消え、風が吹き抜けた。


 健司が駆け寄った。


「ヴェリシア、大丈夫か!?」


「うん……大丈夫。……でも、彼女の中の“白”が、もう消えてた。守るために燃えてたんだね」


 バーネは苦しげに目を開けた。


「……あの時、カルナ様が言っていた。炎は……温かくあるべきだと。私は……忘れていたのかもしれない」


 ヴェリシアが膝をつき、静かに微笑んだ。


「忘れたなら、思い出せばいい。炎は、壊すためじゃなく、照らすためにあるんだよ」


 バーネの目から、一筋の涙がこぼれた。

 それは白く、光のように溶けていった。


「……カルナ様の弟子か。お前たちが来る時代が、もう来ているのかもしれない」


 そう言い残し、バーネは意識を失った。


 風が止み、紫の炎の残滓が、夜空に花のように散っていく。

 ヴェリシアの髪が月光に照らされ、柔らかく光っていた。


 アナスタシアがそっと彼女の肩に手を置いた。


「立派だったわ、ヴェリシア。……あなたの炎は、確かにカルナの血を継いでいる」


「でも、まだ怖いんだ。この炎を完全に制御できる気がしない」


「大丈夫。あなたの隣には、健司がいるでしょう?」


 ヴェリシアは健司の方を見た。

 彼は優しく頷き、微笑んだ。


「僕たちは仲間だ。どんな炎でも、きっと乗り越えられる」


 ラグリオンの夜空で、紫の炎が最後の光を放ち、やがて消えた。

 その静寂の中、フレイムの長——フラムが遠くの塔からその光景を見下ろしていた。


「……カルナ様の炎。まさか、見ることになるとは。面白い」


 彼女の瞳に、ゆらめく興味と笑みが宿る。

 炎の都は、いま、新たな試練の幕を上げたのだった。


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