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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編③カルナの炎

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白い炎

夕陽に染まる赤き大地を越え、健司たちはゆっくりと歩を進めていた。

 視界の先、炎の壁が陽光を反射して揺らめく。

 燃え盛るように見えるそれは、まるで大地が呼吸しているかのようだった。


「ここが……炎の都、ラグリオン」

 

ヴェリシアがつぶやいた。

 その瞳は懐かしさと緊張が混ざったように揺れている。


「すごいね。まるで炎が生きてるみたいだ」

 

健司が言った。

 街を包む炎の壁は、ただの防御ではない。魔力の流れが脈打つように感じられる。


「この街は炎の一族が代々守ってきた場所。血で繋がる者しか通れない結界よ」

 

アナスタシアが冷静に言葉を続けた。

 その声には懐かしさがあった。かつて敵対した相手との記憶が、胸の奥で疼いているようだった。


 健司が彼女の横顔を見つめた。

 焔のように照らされたその瞳には、戦いの覚悟と、どこか過去への痛みが宿っている。


「アナスタシア、君はこの街に来るの、久しぶりなの?」


「ええ。……昔、戦ったことがあるの。フラムと、その前の長とも」


 ヴェリシアが驚いたように振り向いた。


「戦った?アナスタシアが?」


「そう。水の魔女として、炎の一族を鎮めるために。あの時、私は多くを凍らせたわ……」

 

アナスタシアは苦く笑った。

 その笑みには後悔が滲んでいた。


 そして、炎の壁をくぐった瞬間——。

 まばゆい光が弾けた。


「——通れた!?」

 

リセルが目を見開く。

 アナスタシアが水の魔力を拡げ、ヴェリシアの炎の魔力がそれを包み、ふたつの相反する力が調和して、炎の壁をすり抜けたのだ。


 轟音が街中に響く。

 警鐘が鳴り、兵たちが駆け寄ってきた。


「侵入者だ! 炎の壁が突破された!」


 その声を聞き、ひとりの女が現れた。

 長い赤髪を揺らし、燃えるような瞳を持つ女。背には炎の紋章が刻まれている。


「私はバーネ。炎の壁の守護者にして、ラグリオンの防衛を預かる者」

 

彼女の声は低く、だがよく通る。


 その隣に立つ部下たちが、いっせいに魔法陣を展開する。

 空気が焼け、熱が肌を刺した。


「何用に来た、アナスタシア?」

 

バーネは冷たく言い放った。


 アナスタシアは静かに前に出た。


「ただ、炎の魔女に会いに来ただけよ」


「嘘を言うな!」

 

バーネの声が爆ぜる。炎のような怒りが迸る。


「お前がこの地に何をしたか、我々が忘れたと思うな!」


「何をしたの?」


健司が尋ねた。


 アナスタシアは、かすかに目を伏せた。


「——水の一族と炎の一族は、長い間争ってきた。私は、その戦いを終わらせるために多くを凍らせたの。……そして、それが憎しみを生んだ」


 沈黙が走る。

 バーネは、剣のような目でアナスタシアを見据えた。


「貴様の『終わらせ方』は殺戮だった。炎の血を封じた女、それがアナスタシアだ!」


 瞬間、バーネの手が振るわれる。

 空間が赤く染まり、炎の槍がいくつも生まれた。


「ホワイトフレイム!」


 その炎は白く輝き、通常の火とは違う。

 燃焼ではなく、光そのものが焼き付くような魔法だった。


 健司がとっさに剣を構えた。

 だが、触れた瞬間に剣が熱を帯び、空気が歪む。


「健司、下がって!」

 

アナスタシアが叫ぶ。

 しかし、炎の波はすでに襲いかかってきていた。


 その時——。


「《クリムゾン・バースト》!」


 ヴェリシアの両手から紅蓮の炎が噴き上がった。

 彼女の炎は、白い光とぶつかり、轟音とともに消えた。


 煙が晴れると、バーネが驚愕の表情を浮かべていた。


「何だ……その炎は……白炎を打ち消した……?」


 ヴェリシアは一歩前に出た。

 その瞳は揺らがず、炎の中に立ちながらも涼しげだった。


「私はヴェリシア。炎を使う魔女よ」


 バーネの顔がゆっくりと歪む。

 興奮と警戒の入り混じった表情。


「炎の魔女が……他に存在するだと? 外の世界に?」


「ええ。私はあなたたちの同族じゃないけど、教えてもらった。炎の温かさを」


 バーネは黙った。

 その言葉に、一瞬だけ、彼女の目が揺れる。

 しかし、すぐに戦士の顔へと戻った。


「面白い。ならば、確かめさせてもらおう。その“炎”が、本物かどうか!」

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