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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編②炎の都ラグリオン

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炎の都ラグリオンへ―

朝靄のかかる山道を、風が通り抜けていく。

 遠くに見える地平の向こう――赤く染まる空の下に、まるで燃えるように輝く都市があった。

 炎の都ラグリオン。

 そこは、炎の魔女たちが支配する地であり、外界の者を寄せつけぬ灼熱の結界に包まれている。


 健司たちはその都を目指していた。

 目的はひとつ――ヴェリシアの過去に関わる炎の魔女の痕跡を追うこと。

 そして、ラグリオンにいると噂される「炎の魔女たち」の動きを探るためだった。


 道のりは険しく、足元には黒く焦げた大地が続く。

 かつて戦火が走った跡だと、リセルが小さく呟いた。


「このあたり……十年前の“炎の侵攻”の跡ね。まだ、土地が生きてる」


 その背後から、ゆっくりと声がした。


「――私も行くわ」


 全員が振り返る。

 黒い外套をまとったアナスタシアが、静かに立っていた。

 冷たい風に銀髪が揺れ、その瞳はいつもよりも深い色をしている。


「アナスタシア様!?」

 

フィーネが驚きの声を上げた。


「何を……いえ、危険です。ラグリオンは炎の魔女の領域。あなたの魔法は氷水。相性が――」


「わかっているわ。でも、必要なの」

 

アナスタシアはまっすぐに健司を見つめる。

 その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


「炎の壁を突破するには、水の魔法か、中から開けてもらうしかない。

 けれど――あの都の炎はただの炎じゃない。魔女たちの意思そのものよ。

 ならば、水の力で応えるしかないわ」


 フィーネは言葉を失い、やがて静かに頷いた。


「……わかりました。ですが、せめて援護を」


 その時、後ろから別の声が割って入った。


「行ってくるがいい、アナスタシア」

 

ラグナだった。

 炎を宿した瞳で、彼女をまっすぐに見つめている。


「ここは私たちが守る。野蛮な魔女たちはまだ動かんだろう。リヴィエールの防衛は任せておけ」


 アナスタシアは短く礼を言い、肩にかかる外套を整えた。


「ありがとう、ラグナ。恩に着るわ」


 そのやりとりを、健司は黙って見つめていた。

 彼女の横顔が、いつもよりも柔らかく見える。

 それに気づいたのは、カテリーナだった。


 彼女は隣で腕を組みながら、ぽつりと呟いた。


「なんかさ……アナスタシアの健司への接し方、変わったよね」

 

リセルが苦笑する。


「カテリーナ様、そういうのよく気づくわね」


「だって、目が違うもん。あれは“女”の顔。昔の氷の女王の顔じゃない」


 クロエが肩をすくめた。


「恋をした氷の女王、か……なんだか詩的ね。でも、悪くないわ」


「ふん、詩的とか言ってる場合?」


 カテリーナは呆れたように眉を寄せる。


「健司って、ほんと罪な男だよ。アナスタシアまで落とすなんて」


 健司は慌てて手を振った。


「落とすって言わないでくれ……そんなつもりじゃ」


「そんなつもりがなくても、そうなってるのよ」

 

リセルの声はやさしく、けれどどこか冷静だった。


 やがて、アナスタシアが彼らの輪に戻ってきた。

 彼女は炎の都を遠くに見つめ、口を開く。


「ラグリオン……この名を聞くと、昔を思い出すの。まだ私が“氷の魔女”と呼ばれる前。あの都の魔女たちと戦ったことがある」


 風が一陣、吹いた。

 その中に、焦げた匂いと古い記憶が混ざるようだった。


「彼女たちは誇り高かった。誰よりも強く、誇りを炎に変えて生きていた。

 でも、いつしか炎は怒りに変わり、街は燃え尽きた。

 ……あの時、私は何もできなかったの」


 健司がその横顔に視線を向ける。

 アナスタシアは静かに微笑み、言った。


「だから今度こそ、誰も燃やさせない。私自身の手で、終わらせる」


 その言葉に、誰も返すことができなかった。

 ただ、ヴェリシアが小さくうなずく。


「ありがとう、アナスタシア。私も行く。炎の都の中で、確かめたいことがある」


「ええ、行きましょう。ヴェリシア」

 

アナスタシアの声は、まるで母が娘に語りかけるような温かさを帯びていた。


 こうして、一行はラグリオンへと出発した。


 ――道中、空気は次第に熱を帯びていく。

 遠くの山肌が赤く光り、空がまるで夕焼けのように染まる。

 だが、それは夕焼けではない。ラグリオンの炎の壁が、空を焼いているのだ。


「これが……炎の壁」

 

リセルが目を細めた。

 高くそびえる炎の結界は、風も熱も拒むように渦を巻いていた。


 アナスタシアは前に進み出た。


「ここからは私の役目ね」


 その声には、氷の気配が混ざっている。

 彼女が両手をかざすと、周囲の空気が一瞬にして冷えた。

 氷の結晶が浮かび上がり、炎の壁に触れた瞬間――

 バチッ、と音を立てて、蒸気が弾けた。


「すごい……」

 

ヴェリシアが呟いた。

 アナスタシアの魔法が、炎を少しずつ押し返していく。


「でも……この炎、ただの魔力じゃない。誰かが中で操ってる」

 

アナスタシアの額に汗がにじむ。

 健司が一歩踏み出し、彼女の背に手を添えた。


「無理するな。僕も手伝う」


 その瞬間、アナスタシアの魔力が変化した。

 氷と炎の間に、淡い光が生まれる。

 それは、健司の魔力と共鳴している証だった。


 クロエが目を見張った。


「……魔法が、融合してる?」


「まさか、健司の魔力が……アナスタシア様に?」

 

リセルの言葉に、カテリーナが口を開いた。


「やっぱり、あの二人……ただの仲間じゃないよね」


 光が強まり、炎の壁が裂けた。

 その向こうには、赤い大地と、燃える塔が見えた。

 ラグリオン――炎の都が、彼らを迎え入れていた。


 アナスタシアは肩で息をしながらも、満足げに微笑んだ。


「やったわ……開いた」


「ありがとう、アナスタシア」


 健司が手を差し出す。

 彼女はその手を見つめ、ゆっくりと握り返した。


「礼を言うのは私の方よ。あなたがいなければ、届かなかった」


 その一瞬、二人の間に言葉にならない何かが流れた。

 熱でも氷でもない、ただ静かな“想い”が。


 カテリーナは遠くからそれを見て、小さく息をついた。


「ほんとに、あの人……恋してるんだ」

 

リセルは笑った。


「まあ、氷が溶けるほどの恋なら、悪くないでしょ?」


 ヴェリシアが振り向く。


「行こう。炎の都が呼んでる」


 健司たちは、開かれた炎の門をくぐった。

 その先には、赤く染まる街と、待ち受ける炎の魔女たち――

 

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