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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編①炎の街フレイム

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炎の壁

リヴィエールの街に、秋風が吹き抜けていた。

 高原を越え、長い旅路の末に健司達が帰ってきたのだ。


 街の門が見えた瞬間、健司の胸に懐かしい安堵が広がった。

 あの戦いの日々から、どれほどの時間が経っただろう。

 仲間の笑顔が、再びこの街で見られる――それだけで胸が熱くなる。


「おかえり、健司」


 先に駆け寄ってきたのは、アナスタシアだった。

 彼女の後ろにはラグナ、アウレリア、そしてルナとミイナの姿もある。

 ルナは目を潤ませながら、健司に抱きついた。


「もう、心配したんだから!」


「ごめん、ごめん。ちゃんと帰ってきたよ」


 健司が笑うと、ルナの表情が少し緩んだ。

 その横でアナスタシアが優しく言った。


「みんな、よく無事で戻ったわね。……カリストは、どうだった?」


 その問いに、健司は小さく息をつき、うなずいた。


「いろいろあった。でも、ホワイトヴェルが……」

 

言葉を詰まらせた健司に、アナスタシアは静かに頷いた。


「そう。……ホワイトヴェルはなくなったのね。」


 ルナも、ミイナも黙って頷いた。

 彼女たちは健司の顔を見れば分かった。

 戦いの中で、何かを失う痛み――それを彼が背負ってきたことを。




 その夜、アナスタシアの部屋で健司たちは集まった。

 木のランプが淡い光を灯し、外は静まり返っている。

 風が窓を揺らし、遠くで水の音が聞こえた。


「それで……“野蛮な魔女達”って言ってたわね」


 アナスタシアが静かに切り出した。

 健司は頷き、順を追って語り始めた。


 ブラッジが亡くなった後、カリストに戻る途中で聞いた報告。

 ホワイトヴェルが占拠され、セイラという名の魔女が中心にいること。

 そして――彼女から届いた挑発。


「“健司、ここまで来るがいい。愛を否定してあげる”……か。随分な物言いね」


 アナスタシアの声が低くなった。

 彼女は椅子に背を預けながら、思案深げに目を細める。


「セイラは、有名よ。風の一族で風の魔法を扱う魔女の中でも、群を抜いて強い」


「有名なんですか?」


とルナが聞いた。


「ええ。昔から“空を統べる者”と呼ばれていた。

 自由で、気まぐれで、そして誰よりも残酷。風を止め、国を沈黙させた魔女よ」


 その言葉に、室内が一瞬だけ静まり返った。

 ミイナが小さく身を寄せる。アウレリアがため息をついた。


「彼女が動くなんて、何年ぶりだろう。……厄介ね」


 そこで、壁際で静かに座っていたラグナが口を開いた。


「野蛮な魔女達――あれは一枚岩じゃない。構成員は多く、幹部達の魔法もそれぞれ異質だ。

 風、魂、夢、血、時空……まるで異なる流派が、ひとつにまとまっているような連中だ」


「でも、それだけの魔女が一箇所に集まるなんて……どうして?」


とルナが問う。


「目的は一つだろう」


とラグナは淡々と答えた。


「“愛の否定”だ。彼女たちは、愛を嘲笑う」


「……愛を、否定……」

 

健司はその言葉を繰り返し、拳を握った。


 愛を、否定する。

 彼にとって、それは“この世界で一番許せない言葉”だった。


 その時だった。

 ヴェリシアが静かに立ち上がり、話を切り出した。


「……ホワイトヴェルで、聞いた話があるの」


「聞いた話?」


とアナスタシアが首を傾げた。


「ええ。“炎の魔女達”という一族がいる街があるって」


 ルナとミイナが顔を見合わせた。

 ヴェリシアは少し躊躇いながら続けた。


「彼女たちは、純粋な炎の血統を持つ魔女たち。

 北東の果て、凍てつく荒野の中に“灼都ラグリオン”という街を築いている。

 常に炎の壁に囲まれていて、外部からの侵攻は不可能。

 ……そして、野蛮な魔女達も、彼女たちには手を出さない」


「関係がない?」


「ええ。互いに知ってはいるけど、交わらない。

 炎の魔女達は“己の血”を誇りにしていて、他の魔法体系を軽蔑してるの」


「なるほどね」


とアナスタシアが呟く。


「野蛮な魔女達が“混沌”なら、炎の魔女達は“純粋”ということか」


「ただ――」


とラグナが続けた。


「炎の壁を越えるのは不可能だ。近づくだけで、肉体が焼かれる」


 その場にいた全員が息を呑んだ。

 だが健司だけは、少しも怯えた様子を見せなかった。


「行く必要がある気がする」


「え?」


とルナが驚いた。


「野蛮な魔女達が動いてる。けど、炎の魔女達が黙ってるのはおかしい。

 彼女たちは何か知ってる。……セイラの目的も、もしかしたら」


「健司、危険よ」


とアナスタシアが言う。


「分かってる。でも、何もしない方が危険だ。

 僕はもう、見て見ぬふりはできない」


 その言葉に、全員が黙り込んだ。

 彼の決意は、もう揺るがない。


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