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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ヴェリシア編①炎の街フレイム

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炎の魔女達

ホワイトヴェル――。

かつて、ブラッジが治めていた堅牢な街。

冷たい風が吹き抜けるこの高原の街は、今や異様な熱気に包まれていた。

灰色の石造りの建物には黒い紋章が刻まれ、街の中央にある塔には、赤黒い炎が絶え間なく揺れている。


その塔の最上階。

黒曜石の床に、9人の魔女が集まっていた。

野蛮な魔女の幹部達――ルネイア、シミラ、マリエ達幹部、そしてその頂点に立つ女。


「――まさか、レディアが生きているとはね。」


最初に口を開いたのはルネイアだった。

彼女は椅子の背にもたれながら、爪先で床を軽く叩いていた。


「異常だな、あの男は。」


マリエがため息混じりに言う。


「なかったことにする魔法……あれ、本当に存在するの?」


シミラがにやりと笑う。


「存在するさ。私は見た。あれは“修復”じゃない、“否定”の魔法。過去そのものを無かったことにする……そんな狂った力、誰が持てる?」


ルネイアが目を細めた。


「人間で、しかも男で……信じられない。」


その時、奥の扉が勢いよく開いた。


「――健司。」


鋭い声が部屋を切り裂いた。

現れたのは、野蛮な魔女の王、セイラ。

赤紫のローブを翻し、金の装飾を散りばめた衣装の裾を引きながら、ゆっくりと中央へ進み出る。


彼女の目は、まるで燃えるような赤。

その中に宿るのは、怒りと嫉妬、そして抑えきれない憎悪だった。


「救って見せる、だと? ――私を?」


セイラの声が低く響いた。


「人間風情が、魔女を“救う”だなんて。どこまで私達を侮辱すれば気が済むの?」


ルネイアがそっと一歩前に出た。


「セイラ様、落ち着いてください。今は……」


「落ち着け、ですって?」


セイラはルネイアをにらみつけた。


「私は落ち着いているわよ。――ただ、少し、いいことを思いついただけ。」


マリエが眉をひそめる。


「まさか、また……?」


セイラは唇の端を歪めた。


「そう。掠奪してみようと思って。」


「リヴィエールを、ですか?」


ルネイアが問う。


セイラは首を振った。


「違うわよ。」


部屋に沈黙が走った。

セイラの赤い唇から、次の言葉が静かに落ちた。


「――健司を、奪うの。」


一瞬、全員が息を呑んだ。


マリエが思わず口を開いた。


「な、なぜ……? 彼を奪ってどうするんですか?」


セイラはくるりと振り返り、塔の外の遠く離れた炎を見つめた。そして、健司達がいるとされるリヴィエールを見つめた。


「奴らは、健司を“愛している”のだろう? クロエも、リセルも、アスフォルデの環の魔女達も。」


彼女はその言葉を吐き捨てるように言った。


「なら、奪うよ。その“愛”を。」


沈黙が再び落ちる。

セイラの周囲の空気が、じわりと黒く染まっていく。


「愛は脆い。ひとりが傷つけば、全てが崩れる。

 信頼も、絆も、そして希望さえも。」


ルネイアは小さくため息をついた。


「……相変わらず、ボスですね。」


セイラは楽しそうに笑った。

その笑いは狂気と美しさが混じり合い、どこか悲しい音をしていた。


「待っていろ、健司。」


「愛が憎悪に変わる瞬間を、見せてあげる。」


そう言い放つと、セイラはゆっくりと窓辺に歩み寄った。

ホワイトヴェルの街を見下ろすその瞳には、遠くの紅い光――炎が映っていた。


――あの地の向こうには、炎の魔女達の国・フレイムがある。


マリエがそっと呟いた。


「炎の魔女達は、どうしますか? 彼女達、今も中立を保っていますけど。」


「関係ないわ。」


セイラは即答した。


「炎の魔女達は傲慢すぎる。己の信念以外は何も信じない。私達とは違う。」


ルネイアが少し笑った。


「野蛮と炎……似ているようで、違うんですね。」


セイラは目を閉じた。


「違うわ。私達は“奪う”。あいつらは“燃やす”。

 でも――どちらも、愛とは程遠い。」


再び、炎が塔の周囲を包み込む。

セイラの背中に、紅蓮の光が反射した。


「次に奪うのは、心そのもの。」


彼女の瞳が光を宿した瞬間、床の魔法陣が淡く輝いた。

各幹部の影が、ひとつひとつ消えていく。


マリエが最後に問いかけた。


「ボス、奪って……それで?」


セイラは笑みを浮かべたまま、振り返らなかった。


「壊すのよ。愛も、希望も、そして――健司の心も。」


その声と同時に、光が発したように見えた。


遠く離れたラグリオンの街でも、その光はかすかに見えていた。

そこでは、炎の魔女達が集い、異変に気づき始めていた。


赤い空を見上げながら、フレイムの長――フラムが低く呟く。


「……野蛮の火が、絶望を呼ぶか。」


その目には、冷たい炎が宿っていた。


「だが、この炎は誰にも消せない。」


野蛮の魔女達の動きが、炎の国をも巻き込もうとしていた。

愛と憎悪、救いと破壊――



そしてその中心には、

一人の人間――健司の存在が、確かにあった。

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