表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
リーネ編⑦野蛮な魔女達

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

157/189

孤高の魔女ルメ

炎のような赤髪が、漆黒の空間を切り裂いた。

 派手な衣装を纏い、孤独と誇りを宿した瞳を持つ女が、一歩踏み出す。


「……そこまでだ」


 その声は静かに、しかし絶対の響きをもって監獄全体を揺るがした。


「おまえ……ルメ」

 

セイラの口から、押し殺したような声が洩れる。


 孤高の魔女。

 かつて数多の魔女を翻弄し、味方を持たず、ただ己の信じる道を歩んだ孤高の存在。

 だがいま――彼女は健司の隣に立ち、剣を向けるのではなく、背を護る立場で立っていた。


「孤高の魔女……が味方に……」

 

クラリーチェもリズリィも、信じられないといった顔をしていた。


 セイラが嗤う。


「くだらない……くだらないな。ルメ。おまえらのくだらない喧嘩が、すべての元凶だろう。それが今の西の現状だ。忘れたとは言わせないぞ!」


 その声には、憤怒と悲嘆が入り混じっていた。


 ルメはしばし沈黙した後、ほんの一瞬だけ寂しげに微笑み、悲しそうに頷いた。


「……あの人の代わりはいないんだ」


 その言葉を聞いた瞬間、セイラの瞳が大きく見開かれた。

 そして次の瞬間、絶望と怒りが混じった叫びが、監獄を震わせた。


「それでも……! それでも私は……!」


 ルメは、その叫びをただ真正面から受け止めた。

 そして、ゆっくりと返す。


「それでも――信じたいんだ」


 沈黙。

 野蛮な魔女たちの中でさえ、その言葉の重みは誰も嘲笑できなかった。

 セイラは一歩退き、顔を歪める。


 その時だった。


 重厚な靴音が廊下に響き渡る。

 そして、監獄の入口から新たな影が現れた。


「……潮時のようだな」


 荘厳な声と共に姿を見せたのは、カリオペ。

 その背後には、カリオペの側近たち――グルバル、ハートウェルらの姿があった。


「カリオペ……!」

 

クラリーチェの顔が険しくなる。


 カリオペは冷たい笑みを浮かべ、視線を監獄の奥に向けた。


「レディアは……どこにいるでしょうか?」


 その笑みはぞっとするほど邪悪で、まるで全てを見通しているかのようだった。


 健司は一歩踏み出し、その視線を真っ向から受け止めた。


「……あなた達も救ってみせる」


 その言葉に、一瞬場が凍り付く。

 セイラでさえ目を見開き、揺れ動く心を抑えきれなかった。


「救う……だと? くだらない。無駄だ」

 

セイラは強く言い放つ。

 だが、その声には迷いが混じっていた。


 ――かつて失ったもの。

 ――手にできなかったもの。

 健司の言葉は、セイラの奥底の何かを揺さぶっていた。


 その動揺を悟られまいとするように、ルネイアが声を張り上げる。


「ここまでだ! 野蛮な魔女達、撤退する!」


 次の瞬間、マリエが詠唱を完成させる。


「時空魔法――帰還の門」


 空間が歪み、野蛮な魔女達の身体が黒い渦に呑まれていく。

 セイラもまた、最後に健司を鋭く睨みつけ――そのまま消え去った。


「待て!」

 

リズリィが追いすがろうとするが、マリエの魔法の前には抗えなかった。


 監獄に残されたのは、健司たちとカリストの魔女たち。

 そして……。


「……気づいたか」

 

ルメが小さく呟く。


 健司は静かに頷いた。


「レディアさんは……カリストだ」


 その言葉に、カリオペの瞳が鋭く光った。


「なに……?」

 

クラリーチェが息を呑む。


 健司は説明するように続けた。


「セイラさんがレディアさんに化けていた……最初から違和感があった。ブラッジさんと直前まで話していたはずのレディアさんを、彼が“気づかない”はずがない。入れ替わったんだ。転移魔法で」


 その推理に、リセルもクロエも凍りついた。


「そんな……! 最初から入れ替え……!」


 リズリィが唇を噛む。


「野蛮な魔女……恐ろしい奴らだ」


 カリオペは初めて、心の底から動揺を見せた。


「……な、なんだと? ならば……すぐに引き返さねばならぬ!」


 彼女は珍しく声を荒げ、周囲に命じる。


「全員、直ちに帰還の準備を!」


 健司も一歩前に出る。


「……行こう。僕たちも」


 その声には迷いがなかった。


 セイラの憎悪も、ルメの孤独も、カリオペの驚愕も――すべてを背負って、彼は前に進む。


 


 赤い髪の孤高の魔女ルメは、健司の横顔をじっと見つめ、小さく微笑んだ。


「……あの時とは、違う。きっと」


 彼女もまた――信じたかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ