孤高の魔女、真の姿
セイラは愉快そうに肩をすくめた。
「よくもまあ、ここまで踊ってくれたな。愛だの希望だのと騒いで……だが、私が望むのは反転だ。流した血はすべて力と化し、おまえ達を苛む。なぜ我らが“野蛮”と呼ばれるか……分かったか?」
「ふざけんなあああ!」
カテリーナが叫ぶ。
しかし、セイラは楽しげに微笑むだけだった。
ルネイアが一歩進み出る。
「カテリーナ……久しぶりだな。どうだ、自分だけ生き残った気分は? あの村を滅ぼした日のこと、忘れちゃいないだろう?」
「――おまえは……!」
カテリーナの瞳に怒りが宿る。
その怒りは長い年月の奥底に封じられてきたもの。だが、いま再び炎となって燃え上がっていた。
野蛮な魔女たちが一斉に邪悪な笑みを浮かべる。
監獄の空気は絶望で塗りつぶされ、息をするのさえ苦しい。
その中で、セイラの声だけがやけに澄んで響いた。
「愛……くだらない。くだらないからこそ、壊す価値がある。おまえ達が信じる愛を、私は絶望に変える。それが私の存在理由だ」
「……なるほど」
健司が口を開いた。
その声は震えていなかった。むしろ、誰よりも静かで、真実を突き刺す響きを持っていた。
「あなたは……愛が憎いんですね。自分が手に入れられなかったから」
セイラの笑みが一瞬で消える。
空気が揺らぎ、魔力の奔流が膨れ上がる。
「……何を……言った?」
その声は怒りと動揺に震えていた。
ルネイアが慌ててセイラの肩を抑える。
「落ち着け、セイラ様!」
だが、健司は止まらない。
「分かりますよ。昔、あなたは人間と魔女のカップルになろうとした。でも……叶わなかった。別の魔女がその人と結ばれたから。あなたはその瞬間、愛を呪った。だから“野蛮”に堕ちた」
「……っ!」
セイラの雰囲気が一変する。
狂気とも絶望ともつかぬ感情が溢れ、監獄の壁を軋ませた。
「おまえは異常だな、健司。痛覚を消して戦いながらも、なお愛を語るか……。そうだ。おまえの魔法は――思考具現。思った通りになる魔法だったな」
セイラが手を掲げる。
圧倒的な力が蠢き、空間そのものが軋みを上げる。
「――風魔法。すべてを刻む風だ」
切り裂き、刻み、命を塵に変える魔法が発動しようとした――その瞬間。
空気が凍りつく。
「……誰だ?」
ブラッジが思わず声を漏らす。
全員が感じた。
異質な、孤独で冷たい、しかし確かな“魔女”の気配を。
暗がりの中から、一人の影が歩み出る。
その姿を見て、セイラの瞳が大きく見開かれた。
「まさか……おまえ……」
彼女だけが知っていた。
現れたその魔女の正体を。
「――孤高の魔女」
監獄の空気が一変した。
愛を語る健司の存在すら霞むほどの、絶対的な孤独と静謐を纏って――孤高の魔女が、真の姿を現した。




