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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編⑦野蛮な魔女達

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魔女の監獄・反転の罠

冷たい石壁が取り囲む監獄の最奥。

 鎖に繋がれた魔女達の呻き声が静まり返り、空気は異様な緊張に支配されていた。


 健司たちとブラッジの戦いは続いていた。カテリーナとエルネアの連携により、一度はブラッジに傷を与えたものの、なおも彼の剣は禍々しい輝きを放ち、監獄全体を圧倒する。


 だが――その時だった。


 カラン、と乾いた音が響いた。

 監獄の奥、囚われているはずの檻の中から。


「……くくっ……あははははっ!」


 甲高い笑い声が広がった。

 それは鎖につながれたはずの一人の女からだった。


 闇のような髪。瞳には狂気と愉悦が宿り、全身から異様な魔力が滲み出ている。

 その女は――野蛮な魔女のボス、セイラ。


「始めろ。」


 短く、しかし絶対的な支配力を持ったその言葉に、檻の中に潜んでいた魔女達が同時に動いた。


「……っ!」


健司の心臓が跳ねた。

 その中には、見覚えのある顔もあった。

 マリエ――時空魔法の使い手。

 


 マリエは逃げたはずなのに、今は悠然と立ち上がり、何事もなかったかのように笑っていた。


「ルネイア。」


セイラが囁いた。


 前へ出たのは、野蛮な魔女の幹部――リーダー格のルネイア。

 冷ややかな瞳を健司達に向け、静かに頷く。


「分かりました。全員、詠唱を。」


 檻の中にいた幹部達が同時に声を合わせた。

 呪文は低く、しかし次第に不気味な共鳴を持ち始め、監獄全体に振動が走る。


 ――ズズズ……!


 空間が歪み、天井から黒い光が滴り落ちる。

 呪文が最高潮に達したその瞬間。


 セイラがゆっくりと手を掲げ、口を開いた。


「――反転。」


 空気が爆ぜた。


 次の瞬間、健司達も、そしてブラッジでさえも、全身に凄まじい衝撃を受けた。

 まるで体の奥から何かをひっくり返されるような痛み。魔力が逆流し、血管が裂けるかのように苦痛が走る。


「ぐああああっ!」


 ソレイユが悲鳴を上げ、セレナが崩れ落ちる。

 クロエもリセルも地に伏し、カテリーナとエルネアも呻き声を漏らした。


 健司は周りを見て驚いた。


 ブラッジですら膝をつき、血を吐いた。


「馬鹿な……私が……魔女どもの……術に……!」


 檻の中の魔女達は、愉快そうに笑っていた。

 それは苦痛に喘ぐ仲間を見て笑う冷酷な狂気。


「……まさか……」


エルネアが震える声を漏らす。


「最初から……囚われてなんか……いなかった……!」


 そう。

 檻に囚われていたはずの魔女達――その正体は野蛮な魔女たち自身だった。


「面白い茶番をありがとう。」


 ゆらりと立ち上がり、セイラが檻の格子を掴む。

 その姿が波紋のように揺れ、変貌を遂げる。


 ――少女の姿から、大人の女へ。

 黒衣に包まれたその容貌は冷酷で、瞳には理性を超えた狂気が燃えていた。


「……レディア……?」

 

クラリーチェが愕然と声を漏らす。


 だが、その疑念はすぐに打ち砕かれた。

 変貌したセイラは、囚われていたはずのレディアその人の姿だったのだ。


 否――レディアに「変装」していたに過ぎなかった。


「馬鹿な……!」

 

カテリーナの瞳が怒りに染まる。


「……レディアをどこへやった!」


 セイラは邪悪な笑みを浮かべ、楽しげに答える。


「さぁ……?もう泣き叫ぶ声も聞こえない。おそらく、どこかで夢を見ているんじゃないかしら。」


「貴様……!」


 アスフォルデの環の魔女達が怒りで震え、立ち上がろうとするが、まだ体が重い。反転の呪文によるダメージは尋常ではなかった。


 セイラはゆっくりと歩み寄り、健司を見下ろす。


「健司、と言ったかしら。……あなた、本当に面白いわね。魔女と人間が共に歩める?くだらない。だから私は確かめに来たのよ――絶望に染まるあなたの顔を。」


 彼女の笑みは残酷で、冷たい。


「さあ、もっと見せてちょうだい。幸せから地獄に落ちる、その瞬間を。」


 健司の拳が震える。

 心臓が早鐘を打つ。

 目の前にいるのは――これまで対峙したどの魔女よりも邪悪。


「……君みたいなのは、魔女じゃない。」


 その一言に、セイラの笑みがわずかに消えた。

 だが、すぐにまた狂気に染まる。


「フフフ……いいわ。だったら証明してみせなさい。……絶望に勝てるというのなら!」


 監獄が揺れる。

 野蛮な魔女達が一斉に立ち上がり、詠唱を始める。


 ――戦場は、ついに地獄と化そうとしていた。


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