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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編⑥ブラッジ

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最強の剣士ブラッジ

白い塔の奥に設えられた「魔女の監獄」は、光の届かない箱庭のように冷たかった。壁は厚く、窓は細く小さく、外界の音を遮断するようにその重さを誇示している。牢の一つ一つには厳重な縛りと封印が施され、そこに閉じ込められた者たちの魔力は少しずつ削がれていく――まるでこの塔自体が、魔女という存在を浄化し尽くす装置のようだった。


その中に、レディアはいた。白銀の髪が乱れ、聖光の力はかつての煌めきを失っていたが、瞳だけは鋭く生きていた。鎖につながれ、祭壇のような石床に座らされている彼女の姿は、外で戦っている仲間たちの目に刺さる。レディアはカリオペの妹。周囲を守る光を内に秘め、かつては「聖光のレディア」と呼ばれた者だ。しかし今は、拘束の中で己の力を抑え込まれている。


廊下の向こうから、複数の足音が低く鳴り響いた。兵の重装甲が石を踏む音、管制のように整然とした歩調。扉の陰に立つ者たちの影が伸びる。彼らは来た――ブラッジと、その配下の幹部たちだ。


「健司達が来たか。いいだろう。ここで終わりだ。レディア、よく見ているがいい」


低く響く声は、白い塔の冷気に吸い込まれるように広がった。ブラッジは歩を進め、剣を携えていた。その剣はただの刃ではない。振るえば魔力の流れを断ち、詠唱を切り裂き、封印すら切り崩すという古代の剣――魔力断ちの剣。彼の表情には慈悲も躊躇もなく、まさに領主としての冷徹さだけが滲んでいた。


「お姉さまたちが負けるわけがない」


レディアは声を震わせながらも、睨み返すように口を結んだ。希望の火がまだ消えていないことが、その言葉から伝わる。


扉が開く。そこに立っていたのは、健司と彼に従う面々だ。アスフォルデの環の魔女たち、そしてかつて敵であったはずのリズリィ、クラリチェーナ、ノイエル、ヴァルディアといった者たち――今は同じ志のもとに集っている。彼らの顔には疲労と怒り、そして固い決意が刻まれていた。


「ここは……魔女の監獄だ」


健司の声が低く通る。監獄を目の当たりにした者たちの胸は締め付けられた。魔女として、あるいは人として縛られた者たちの苦しみが、その場の空気を重たくしている。


リズリィが前に進み、叫んだ。


「この塔を破壊する! ここにいる連中を解放するまで、私たちは止まらない!」


だが、ブラッジは軽く笑いながら一歩前へ出る。剣をくるりと回し、その鉄光が微かに光る。


「破壊? できないよ。この私がいる限り」


その言葉は命令であり宣告だった。塔を護るのは彼の意志であり、彼が居る限りこの白い塔は動かない、とでも言うように。


健司は一歩前に進み、冷静に問いを放った。


「あなたの目的は何ですか? なぜ魔女をここに閉じ込め、こうして苦しませるのですか?」


ブラッジの瞳が鋭くなる。彼はゆっくりと笑った。笑いには狡さと信念が混じっている。


「目的? そんなものは最初から決まっている。人間の手で魔女たちを取り返すのだ。魔女の力に人の運命が左右される時代は終わるべきだ」


その声は平たんな独白にも聞こえたが、その含意は重い。彼の理屈では、魔女は制御されるか消されるべき存在であり、塔はそれを実行するための装置だ。


「嘘ですね!」


健司が鋭く食い下がる。


「あなたは、ある魔女達を殲滅しようとしているだけだ。選別的に、気に食わぬ者だけを消すために――」


「話はここまでだ」


ブラッジは剣を抜いた。刃の周囲に黒曜のような光が迸る。魔力を斬る剣。その音だけで詠唱者の喉元が締め付けられるかのような感覚が走る。


「カテリーナ、エルネア、前へ」


その声は的確だった。カテリーナとエルネアは一瞬で前に出る。二人の表情には怒りと守るべき意志――彼らはこの場から引き下がらない。


カテリーナは肩に掛けた鎧をぎゅっと押さえて、剣の柄を片手に取った。彼女の目は真剣そのものだ。


「あんたが何をしようと、ここにいる誰も見捨てたりはしない。なぜ人を縛る? なぜ魔女を恐れる?」


エルネアは青白い光を纏い、小さく詠唱を始める。風のように穏やかだが確かな力が彼女から湧き出し、周囲の魔力を整える。彼女は仲裁者であり、未来視ができる。だが今は、防御と反撃のための誓いを立てるべく、魔力を集中させている。


ブラッジは剣を静かに構えると、皮肉な笑みを浮かべた。


「魔力を帯びる者はこれで楽になれる。剣は魔力を断ち切る。それは救済でもあり、秩序の均衡のための措置だ」


カリオペの名字はここにいない。彼女の妹が目の前に囚われていることを、カリオペたちはこの場にいながらもそれぞれの胸に抱えていた。リズリィたちの憤怒は理不尽さへの反発を越え、燃える復讐へと変わる。


「私から訊く」


リズリィが叫ぶ。


「あなたは何を恐れている? 魔女の力が“彼らを守ってしまう”ことが恐いのか? それとも、自分でご都合主義的に選別して支配することが気持ちいいのか?」


ブラッジの顔が暗く陰る。


「恐れ? 恐れとは、管理できぬものへの尊敬だ。だが魔女の力は尊敬などではない。制止すべき、管理すべき力である。人間の安全を脅かすならば排除するのが務めだ」


その言葉に、クラリチェーナが吐き捨てるように言った。


「それは『人々のため』ではなく、あなたの正義だ。あなたの都合だ。私たちの自由はあなたの恐れによって奪われるのか?」


言葉がぶつかるたびに、塔の空気が重たくなる。封印の魔紋が剣の鋭い光で震え、レディアの瞳が僅かに潤む。彼女は姉たちを信じ、しかし今は力を欠いている。

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