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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編⑤四天王

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邪悪なる時空の魔女 ― マリエの出現

 静寂が訪れたはずの白い塔の広間に、不意に音が響いた。

 ――パチン、パチン、と乾いた音。


「……素晴らしい見せ物だったよ」


 拍手だった。

 その声は女のもの。

 低く艶やかな声に混じる冷酷な響きが、場の空気を一瞬にして張り詰めさせる。


 皆が声の方を振り向いた。そこには、一人の女が立っていた。

 黒い衣に身を包み、瞳は星明かりのように青白く輝いている。笑みを浮かべているが、それは慈悲のかけらもない笑みだった。



 その女の姿を目にした瞬間、ベルンドの顔が炎に焼かれるように歪んだ。

 全身の血が沸騰するような怒りが噴き出す。


「――マリエ……!」


 ベルンドは地に膝をついていたはずが、怒りの力で立ち上がった。

 その声は咆哮に近い。


「お前の顔は、絶対に忘れない……! 妻と子供を奪った仇……!」


 女――マリエは、涼しい顔で口角を上げた。


「ふふふ……そう、思い出してくれて嬉しいよ。あの時は楽しかったね。お前の妻と子供――最後まで助けを求める顔、絶望に染まるその瞬間……ああ、今思い出しても愉快だわ」


 ベルンドの全身が震えた。


「貴様ぁぁッ!」


 手にした死神の鎌を大きく振りかぶり、マリエへと叩きつける。


 ――だが、その瞬間。


 鎌は音もなく消え失せた。


「……なに?」

 

ベルンドの目が見開かれる。


 マリエは小さく笑った。


「ふふ。時空魔法――“なかったこと”にしたのよ。その鎌をね」


「そんな……ふざけた魔法が……!」


 ベルンドは目を血走らせ、怒りと恐怖をないまぜにして叫んだ。



 そのやり取りを目にしたクロエとカテリーナも、体を震わせていた。

 怒りと憎しみ。長く抑え込んできた感情が一気に噴き出したのだ。


 クロエが声を張り上げる。


「マリエ……! あの時、村によくも……! よくも嘘を吹き込んで、みんなを絶望に陥れたな!」


 カテリーナも一歩前へ進み、指を突きつけた。


「忘れもしない……。野蛮な魔女たちの中に、あんたの顔を見た! 人を弄び、壊すためだけに笑っていた……!」


 マリエは二人の言葉に、さらに嬉しそうに唇を歪めた。


「そう。わたしはいつだって同じ。そこの男に言ったことと同じよ。――わたしが見たいのは、幸せから絶望に落ちる、その“顔”だけ」


 その瞳は氷のように冷たい。だが、燃え盛るような狂気が宿っていた。




 その時だった。


 健司の体から、異様な圧が溢れ出した。

 それは魔力ではなく、もっと根源的な“威圧感”だった。

 空気が震え、仲間たちでさえ息を呑んで健司を見た。


 健司の声は低く、鋭く響いた。


「……君みたいなのは、魔女ではない」


 その言葉に、マリエの笑みが一瞬だけ消えた。

 彼女の瞳に初めて警戒の色が宿る。


「……ほう。人間風情が……」

 

マリエは小さく吐き捨てると、再び笑みを作り直す。


「だけど――ここで君たちは終わりだ」



 その瞬間。


 轟音と共に、水流がマリエへ襲いかかった。

 透明な奔流が空気を切り裂き、渦巻くように彼女を包み込む。


「……水魔法?」

 

マリエは嘲笑しながら手をかざし、時空の術で消そうとした。


 だが次の瞬間、水は凍りつき、鋭い氷の槍へと変貌した。

 無数の氷刃がマリエを取り囲む。


「……な、これは……氷……?!」


 カテリーナの目が大きく見開かれた。


「この魔法……アナスタシアの……!」


 だが、マリエは即座に否定した。


「違う……これは……!」


 その瞳に浮かんだのは、恐怖に近いものだった。


「まさか……孤高の魔女……!」


 氷の魔法は鋭さを増し、マリエの周囲を切り裂く。

 彼女は一瞬、時空魔法を発動するのが遅れた。


 だが次の瞬間、空間そのものが歪み、マリエの姿は掻き消えた。


「くっ……逃げたか!」

 

リセルが悔しげに叫ぶ。



 氷の刃が消え、広間には静けさが戻った。

 仲間たちは緊張を解かぬまま、互いに視線を交わす。


 クロエは息を荒げながら呟いた。


「……あの女……絶対に許さない……」


 カテリーナは拳を握りしめ、低く付け加える。


「マリエ……。必ず倒す。あんな奴を野放しにしたら、この世は地獄になる」


 健司は仲間を見渡し、静かに頷いた。


「……次に会う時は、必ず決着をつける」


 そして彼は、先ほどの氷魔法を思い返した。

 もし本当に“孤高の魔女”なら――彼女はどこで、何をしているのか。


 不安と期待が入り混じった感情を胸に、健司たちは再び前を向いた。

 まだ戦いは終わらない。むしろ、真の敵が姿を現したにすぎないのだ。


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