表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編⑤四天王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/165

死神のベルンド

白い塔の最上階へと続く回廊は、凍てつくほどの静寂に包まれていた。

 石造りの壁には無数の傷が刻まれ、ここに至るまでにいくつもの戦いがあったことを物語っている。


 健司たちは足を止め、息を整えた。

 ソレイユとセレナの胸にはまだ先ほどの戦いの余韻が残り、リーネやローザの顔にも緊張が色濃く浮かんでいる。


 そして、扉を押し開けた瞬間――。


 そこに立っていたのは、一人の男だった。

 黒衣に包まれた長身、肩まで伸びた白髪がゆらりと揺れ、その背後には重苦しい影が渦を巻いている。


「……ここまで来るとはな」

 

低く響く声が、塔の最奥に広がった。

 その声音には、無慈悲な冷たさと圧倒的な自信が込められていた。


「だが、ここまでだ。俺の名はベルンド――死神のベルンド。お前たちの旅路は、ここで断ち切られる」


 その名が告げられた瞬間、クラリーチェとリズリィの表情が凍り付いた。


「……死神だと!」

 

リズリィの声が震える。


「審問官にとって、最も忌むべき存在……あいつはかつて、幾人もの審問官を捕らえ、葬った……!」


 クラリーチェも青ざめ、唇を噛みしめた。


「……信じられない。奴がこの塔にいるなんて」


 ベルンドは不気味に笑った。


「ふふ……捕らえるのも悪くはないが、俺が最も得意なのは――殺すことだ」


 その言葉に、場の空気が一層重くなる。

 死そのものが形を成したかのような威圧感。目を合わせた者すら魂を吸い取られるような錯覚に陥る。


 クロエが前に出た。

 その瞳には冷酷な光が宿っている。


「……ここは、私が行く。死神だろうと、恐れる必要はない」


 リセルもその隣に立った。


「ええ、クロエ。私たちが切り開く番だわ」


 健司が一歩踏み出そうとするが、クロエは首を振った。


「あなたは見ていて。これは、私たちが背負う戦い」


 ベルンドが嗤った。


「女二人が俺に挑むか……面白い。だが、すぐに後悔するぞ」


死神のベルンド。その鎌が振るわれた瞬間、空気そのものが切り裂かれるような音が響いた。

 クロエは咄嗟に闇の煙を広げ、刃の軌跡を曇らせる。リセルもすぐさま闇の盾を展開し、刃を受け止める壁を生み出した。


 ――ガギンッ!


 重い衝撃。盾は揺らぎ、クロエの煙は切り裂かれて消えていく。


「その程度で止まると思うな」

 

ベルンドの声は低く、冷たい。


 彼の動きは無駄がなかった。大振りに見える鎌の一撃でさえ、わずかな軌道修正を伴っており、逃げ場を潰すように計算されている。


 だが、その冷徹さの裏に、クロエはある種の狂気を感じ取っていた。




 かつてベルンドは、ただの一人の男だった。

 小さな村に妻と子供と暮らし、穏やかな日々を送っていた。狩りをし、畑を耕し、冬には家族と焚き火を囲む。彼にとって、それが世界のすべてであり、幸福だった。


 その村に魔女が迷い込んできた時、ベルンドは恐れを感じつつも「この村には隠すものもない、害を与える理由もない」と考えた。

 実際、魔女たちは最初こそ穏やかに接し、村人と打ち解ける素振りさえ見せた。ベルンドの妻も子供も笑い合い、共にパンを分け合った夜もあった。


 ――その日までは。


 ベルンドが遠出から戻った日、村は地獄と化していた。

 炎に包まれた家々。転がる死体。泣き叫ぶ声もすでに途絶えていた。


「な、なぜだ……」


 足を引きずりながら駆け寄ると、目に飛び込んできたのは、愛する妻と子の無惨な姿だった。

 血に濡れ、虚ろな瞳をした彼女たちは、笑うような苦悶の表情を浮かべて息絶えていた。


 その横で、魔女たちが愉快そうに笑っていた。


「やっぱりさ、幸せの絶頂から地獄に叩き落とした時の顔が最高だよな」


「ねえ、ほら、あの子供の顔。母親が殺されるのを見て泣き叫んでたのに、最後は絶望で黙っちゃった。たまんないね」


 ベルンドは膝をつき、絶叫した。

 その瞬間、彼の中で何かが砕け散った。


 魔女など信じない。

 決して許さない。

 彼はその日から、「死神」と呼ばれる道を歩き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ