カリオペ達
荒れ果てた大地に、煙が立ち上る。
ホワイトヴェルの兵士たちが守っていた前線拠点は、今や瓦礫と血に染まり、戦いの凄惨さを物語っていた。
「……ふぅ」
カリオペは短く息を吐いた。鮮血に濡れた杖を振ると、赤黒い飛沫が砂に散る。
「予想以上に抵抗したわね。けれど……やはり数で押し潰すだけの兵士では、我らを止めるには至らない」
その隣で、グルバルが肩で息をしながらも口角を吊り上げた。
「まったくだ。鉄の鎧に身を包もうが、肉を裂けば同じことだ。これで前座は終わりだな」
さらに後方で、ハートウェルが静かに頷いた。
「兵士たちは命を懸けて戦った。だが……相手が悪すぎたのだ」
ルーイは軽い笑みを浮かべながら、指先を払った。そこから散った火花が残骸に落ち、まだ息のある兵士たちの呻き声を一瞬で掻き消した。
「これで静かになったな。さぁ、次は?」
ネラスは目を細め、白くそびえる塔を指差した。
「……行く先は決まっている。あの白い塔。そこがこの地の要、ホワイトヴェルの中心だ」
カリオペは頷き、冷然と告げる。
「よし、次は白い塔の中だ。すぐに向かうぞ。四天王は厄介だ」
その言葉に、側近たちの表情が一瞬だけ引き締まった。
四天王――ホワイトヴェルを守る最強の四人。その存在は、カリオペたち魔女にとっても伝説めいた敵として語られてきた。
「……油断はできないな」
グルバルが唸る。
「兵士たちですらこれだけだった。奴らが本気を出せば……」
「分かっている」
カリオペは冷たい眼差しを塔へと向ける。
「だが、恐れは不要。私たちが退く理由はどこにもない」
彼女が歩み出すと、四人の側近もすぐに続いた。
瓦礫を踏みしめ、白い塔の前へと進む。
――扉を押し開けた瞬間。
彼女たちの視界に飛び込んできたのは、戦闘の痕跡だった。
割れた石畳。砕け散った壁。焦げ跡、血飛沫、そして折れた剣。
そこには、激しい戦いが繰り広げられた証拠が生々しく残されていた。
「……これは」
ルーイが口笛を吹いた。
「思った以上に派手にやられたな」
ハートウェルの目が鋭く細まる。
「この戦い方……ただの兵士や守備隊ではない。相当な猛者がいたはずだ」
ネラスが崩れた柱に手を触れ、残留する魔力を読み取った。
「……間違いない。ここには、あの三人がいた。神速のバキラエ、そして格闘のカイリ……さらにもう一人、名は分からぬが、一番槍が」
カリオペの唇が僅かに吊り上がる。
「ほう……それを倒したというのか」
「まさか……」
グルバルの声に、ほんのわずかな動揺が混じる。
「あの神速のバキラエを? 一番槍とまで称さたあの槍使いを? さらに魔女殺しのカイリまで……」
「信じられぬ話だが……証拠は目の前にある」
ハートウェルの声は低い。
「彼らは敗れた。間違いない」
沈黙が流れる。白い塔の空気は重く、冷ややかに彼女たちを包み込んでいた。
「健司……か」
カリオペはぽつりと呟いた。
「やはり、あの男の力は本物らしい。これだけの敵を退けたのなら、白い塔を攻略することも夢ではない」
ルーイが笑みを浮かべる。
「いいじゃないか。面白くなってきた。四天王とやらを倒せば、我らの名はさらに高まる」
ネラスは首を振った。
「だが、油断は禁物だ。三人を倒したからといって、それ以上がいないとは限らない」
「……その通りだ」
カリオペの声が鋭く響く。
「真に恐るべきは、ブラッジだ」
その名が告げられた瞬間、場の空気が凍りついた。
「ブラッジ……」
グルバルの表情に影が差す。
「あの男がいるのか」
ハートウェルが低く頷いた。
「西では最強の剣士と呼ばれる存在。数多の魔女ですら、その剣に斃れたと伝えられている」
ルーイが肩を竦めたが、声には緊張が隠せなかった。
「最強の剣士、ね……。私たちで勝てる相手なのか?」
ネラスが真剣な目で仲間たちを見回す。
「勝てるかどうかではない。勝つしかない。ここで退けば、我らの進軍は止まる」
カリオペは静かに頷いた。
「そうだ。ブラッジは確かに脅威だ。だが……彼とて人の身。無敵ではない」
その言葉に、四人の側近は黙って頷いた。
恐怖を抱きつつも、彼らの心には確かな決意が芽生えていた。
塔の奥から、冷たい風が吹き抜ける。
まるで、彼らを試すかのように。
「行こう」
カリオペが歩を進める。
「ここからが本番だ」
五人の影が、白い塔の暗闇へと消えていった。
その先に待ち受けるのは――最強の剣士ブラッジ。
西を震撼させた刃が、今まさに彼女たちを待ち構えているのだった。




