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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編⑤四天王

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カリオペ達

荒れ果てた大地に、煙が立ち上る。

 ホワイトヴェルの兵士たちが守っていた前線拠点は、今や瓦礫と血に染まり、戦いの凄惨さを物語っていた。


「……ふぅ」

 

カリオペは短く息を吐いた。鮮血に濡れた杖を振ると、赤黒い飛沫が砂に散る。


「予想以上に抵抗したわね。けれど……やはり数で押し潰すだけの兵士では、我らを止めるには至らない」


 その隣で、グルバルが肩で息をしながらも口角を吊り上げた。


「まったくだ。鉄の鎧に身を包もうが、肉を裂けば同じことだ。これで前座は終わりだな」


 さらに後方で、ハートウェルが静かに頷いた。


「兵士たちは命を懸けて戦った。だが……相手が悪すぎたのだ」


 ルーイは軽い笑みを浮かべながら、指先を払った。そこから散った火花が残骸に落ち、まだ息のある兵士たちの呻き声を一瞬で掻き消した。


「これで静かになったな。さぁ、次は?」


 ネラスは目を細め、白くそびえる塔を指差した。


「……行く先は決まっている。あの白い塔。そこがこの地の要、ホワイトヴェルの中心だ」


 カリオペは頷き、冷然と告げる。


「よし、次は白い塔の中だ。すぐに向かうぞ。四天王は厄介だ」


 その言葉に、側近たちの表情が一瞬だけ引き締まった。

 四天王――ホワイトヴェルを守る最強の四人。その存在は、カリオペたち魔女にとっても伝説めいた敵として語られてきた。


「……油断はできないな」

 

グルバルが唸る。


「兵士たちですらこれだけだった。奴らが本気を出せば……」


「分かっている」

 

カリオペは冷たい眼差しを塔へと向ける。


「だが、恐れは不要。私たちが退く理由はどこにもない」


 彼女が歩み出すと、四人の側近もすぐに続いた。

 瓦礫を踏みしめ、白い塔の前へと進む。


 ――扉を押し開けた瞬間。

 彼女たちの視界に飛び込んできたのは、戦闘の痕跡だった。


 割れた石畳。砕け散った壁。焦げ跡、血飛沫、そして折れた剣。

 そこには、激しい戦いが繰り広げられた証拠が生々しく残されていた。


「……これは」

 

ルーイが口笛を吹いた。


「思った以上に派手にやられたな」


 ハートウェルの目が鋭く細まる。


「この戦い方……ただの兵士や守備隊ではない。相当な猛者がいたはずだ」


 ネラスが崩れた柱に手を触れ、残留する魔力を読み取った。


「……間違いない。ここには、あの三人がいた。神速のバキラエ、そして格闘のカイリ……さらにもう一人、名は分からぬが、一番槍が」


 カリオペの唇が僅かに吊り上がる。


「ほう……それを倒したというのか」


「まさか……」

 

グルバルの声に、ほんのわずかな動揺が混じる。


「あの神速のバキラエを? 一番槍とまで称さたあの槍使いを? さらに魔女殺しのカイリまで……」


「信じられぬ話だが……証拠は目の前にある」

 

ハートウェルの声は低い。


「彼らは敗れた。間違いない」


 沈黙が流れる。白い塔の空気は重く、冷ややかに彼女たちを包み込んでいた。


「健司……か」

 

カリオペはぽつりと呟いた。


「やはり、あの男の力は本物らしい。これだけの敵を退けたのなら、白い塔を攻略することも夢ではない」


 ルーイが笑みを浮かべる。


「いいじゃないか。面白くなってきた。四天王とやらを倒せば、我らの名はさらに高まる」


 ネラスは首を振った。


「だが、油断は禁物だ。三人を倒したからといって、それ以上がいないとは限らない」


「……その通りだ」


 カリオペの声が鋭く響く。


「真に恐るべきは、ブラッジだ」


 その名が告げられた瞬間、場の空気が凍りついた。


「ブラッジ……」


 グルバルの表情に影が差す。


「あの男がいるのか」


 ハートウェルが低く頷いた。


「西では最強の剣士と呼ばれる存在。数多の魔女ですら、その剣に斃れたと伝えられている」


 ルーイが肩を竦めたが、声には緊張が隠せなかった。


「最強の剣士、ね……。私たちで勝てる相手なのか?」


 ネラスが真剣な目で仲間たちを見回す。


「勝てるかどうかではない。勝つしかない。ここで退けば、我らの進軍は止まる」


 カリオペは静かに頷いた。


「そうだ。ブラッジは確かに脅威だ。だが……彼とて人の身。無敵ではない」


 その言葉に、四人の側近は黙って頷いた。

 恐怖を抱きつつも、彼らの心には確かな決意が芽生えていた。


 塔の奥から、冷たい風が吹き抜ける。

 まるで、彼らを試すかのように。


「行こう」


 カリオペが歩を進める。


「ここからが本番だ」


 五人の影が、白い塔の暗闇へと消えていった。


 その先に待ち受けるのは――最強の剣士ブラッジ。

 西を震撼させた刃が、今まさに彼女たちを待ち構えているのだった。

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