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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編⑤四天王

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魂を操る魔女

健司はすぐにソレイユとセレナのもとへ駆け寄った。

 二人はカイリとの戦いで傷を負っていたが、健司の魔法の光に包まれると、その傷は瞬く間に消え、痛みの痕跡すら残らなかった。


「……ありがとう、健司」


ソレイユは自らの腕を見下ろし、深く息を吐いた。先ほどまで血が流れていたはずの皮膚は、まるで何事もなかったかのように滑らかだ。


「本当に、傷がなかったみたい」


 隣でセレナも頷いた。彼女の頬にかすかに残っていた切り傷も、今や影も形もない。


「あなたがいると、どんな戦いも乗り越えられる気がするわ」


 その光景を見届けたカイリは、重々しい声で言葉を発した。


「……覚悟はあるみたいだな」


 彼の瞳には、どこか羨望と諦念が入り混じっていた。


「だが……忘れるな。悪魔みたいな魔女はいる。お前たちがいかに手を取り合おうと、やつらは容赦なく踏み潰す。気をつけろ」


 その言葉を残した直後、カイリの身体から砂が零れ落ち始めた。指先から、腕から、肩へと、淡い砂粒がこぼれ落ちていく。


「……カイリ?」


ソレイユが慌てて手を伸ばすが、その手は彼の腕をすり抜け、虚しく空を掴むばかりだった。


 エルネアが眉をひそめて問いかける。


「それはいったい……? なぜ、あなたの体が……」


 カイリはかすかに笑った。


「……俺も昔は、魔女と共に暮らせると思っていた。信じていたんだ。魔女と人が共に生きる未来を……。だが、野蛮な魔女が村を滅ぼした。ほんの一瞬で、すべてが崩れた」


 声が掠れ、彼の肩から胸元にかけて、砂がさらに崩れ落ちる。


「俺も……その魔女にやられて、体はすでに死んでいたんだ。ただ、憎しみと未練が、この砂の体を繋ぎ止めていただけだ」


 セレナが小さく息を呑んだ。


「そんな……。あなたも被害者だったのね」


 カイリは首を横に振った。


「いや……俺は戦った。だが力及ばず……仲間を守れなかった。それが悔しくて、俺は……この世に留まってしまった。だからこそ言えるんだ」


 彼の視線が、真っ直ぐ健司に注がれる。


「そんな魔女がいる。お前の優しさや、力だけではどうにもならない存在が。……心しておけ」


 健司は唇を噛んだ。


「……そんな魔女が、本当にいるのか」


「いるさ」

 

カイリの声は、すでに砂嵐の中から響いてくるようにかすんでいた。


「その魔女は西にいる。魂を操る魔女だ。俺の仲間も、村人も……みんな魂を奪われ、操られた。死んでもなお、あやつの兵にされる。あれは生き物の姿をした地獄だ」


「魂を……操る……」


エルネアの瞳が揺らいだ。彼女は古い記録を思い出すかのように言葉を紡ぐ。


「伝承にある……“魂狩り”の魔女。存在するかどうかも疑わしいと思っていたけれど……」


 ソレイユが健司の腕を掴む。


「健司、どうするの? その魔女が……また村を襲うかもしれない」


 セレナも険しい表情で頷いた。


「放っておけないわ。魂を弄ぶ存在を野放しにはできない」


 健司は彼女たちを見回し、そして砂となりつつあるカイリへと視線を戻した。


「……カイリ。君が伝えてくれたこと、無駄にはしない。必ず、その魔女と向き合う」


 カイリの口元が、わずかに緩んだ。


「……そうか。なら……もう、思い残すことはない」


 彼の全身が一気に砂となり、風に舞い散っていく。

 最後に残った声だけが、耳の奥に響いた。


「どうか……俺のような後悔を繰り返すな……」


 やがて砂の嵐は静まり、大地には何ひとつ残っていなかった。


 沈黙が訪れる。誰もが言葉を失っていた。


 最初に口を開いたのは、セレナだった。


「……魂を操る魔女。あんな存在が本当にいるなんて」


 ソレイユが腕を抱きしめる。


「考えただけで、背筋が凍るわ。死んでも、自由になれないなんて……」


 エルネアは深く息をつき、冷静さを取り戻そうとしていた。


「だが、彼の言葉に嘘はなかった。砂に還る姿……あれは、魂を縛られ、肉体を失った者の末路だ。カイリのような者が他にもいるとすれば……放置できない」


 健司は黙って拳を握りしめていた。

 カイリの後悔、無念、そして警告。そのすべてが胸の奥に重く沈んでいた。


(魂を操る魔女……。今まで出会ったどんな魔女よりも、恐ろしい存在かもしれない。それでも、向き合わなければならない。誰かを守るために)


 決意を新たにした健司の表情を見て、セレナが微笑んだ。


「あなたがいるなら……きっと乗り越えられるわ。私たちも一緒に戦う」


 ソレイユも頷く。


「そうよ。健司ひとりに背負わせるつもりはないわ。私たちも覚悟を決めてる」


 エルネアが最後に言葉を添えた。


「彼が伝えたものは、絶望だけじゃない。希望でもある。人と魔女が共に歩める可能性を……あの人は、最後まで信じていたんだ」


 空を見上げると、夕暮れの光が差し込んでいた。砂となって消えたカイリの魂が、どこか遠くで安らいでいるような気がした。


 健司はその光を見つめながら、心に誓う。


「必ず……魂を操る魔女を止める。そして、もう誰も後悔しない世界にしてみせる」


 その誓いは、仲間たちの胸にも深く刻まれていった。

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