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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編⑤四天王

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神速のバキラエ

白い塔の階段を踏みしめる音が響く。

健司を先頭に、仲間たちは息を整えながら上を目指していた。

すでに一番槍の猛者を退けたが、その代償は小さくない。リーネとローザは、疲弊している。クロエの冷酷な一撃で一番槍を消したが、その表情の奥には怒りと悲しみが混ざっていた。


――ここから先、さらに強大な敵が待つ。


誰もがそう感じていた。


「健司……」


リセルが彼の横に寄り添い、小さな声で呼びかけた。


「脇腹、大丈夫?」


「平気だよ」


健司は微笑んでみせる。血がにじんでいるにも関わらず、痛みを感じていないかのように歩き続けていた。

その姿に、クロエがじっと視線を落とした。彼女の瞳は氷のように冷たく、しかし心の奥底では燃えるような執念が渦巻いていた。


階段を登りきると、広間にたどり着いた。

そこには、薄紫の光を背にした男が立っていた。

背丈は高く、弓を手にしたその姿は猛禽のよう。

四天王の一人――神速の弓使い、バキラエ。


「……一番槍を倒したか」


彼は口元を歪めて笑った。


「なかなかやるな。まあ、あいつは慢心していたからな。お前らのような連中に討たれるのも、無理はない」


健司は一歩前に出た。


「僕たちは、ここを通ります」


それ以上の戦いを望んでいないことを示す、真っ直ぐな声。


だが、バキラエは首を振った。


「通すだと? ここは白い塔。侵入者を通すわけにはいかん」


そして、彼は口の端を吊り上げ、思わせぶりに言葉を放った。


「……もし、ここに“ミナ”がいるとしたら?」


その名が響いた瞬間、健司の足が止まった。

仲間たちも驚愕して彼を振り返る。

リセルが息をのむ。


「ミナ……? 」


健司の心臓が激しく脈打つ。

なぜ、ここでその名が出るのか。


「……なぜ、それを知っている」


健司の声は低く震えた。


バキラエは肩をすくめた。


「さあな。だが、お前には関係のない話だ。どうせここで終わるのだからな」


次の瞬間、弓弦が鳴り響いた。

放たれた矢は、目で追うことさえ困難な速さ――神速の矢。

空気を裂き、雷鳴のごとき衝撃が健司に迫る。


「健司っ!」


リセルとクロエが同時に声をあげた。


だが、矢は炎に弾かれた。

燃え上がる紅蓮が壁となり、矢を打ち砕く。


「間一髪ね」


炎の中から姿を現したのはヴェリシアだった。彼女の瞳は燃えるように光り、髪が炎に照らされて揺れている。


さらに、前に出る者がいた。


「私も行くわ」


ミリィが短く告げ、杖を構えた。

彼女の魔力がほとばしり、周囲の空気が緊張に満ちる。


バキラエは二人を見て目を細めた。


「その炎……なるほど。あの街で見たものと同じか」


「あの街?」


ヴェリシアが鋭く問い返す。

バキラエは鼻で笑った。


「知らないなら、それでいいさ」


――何を意味している?

健司の胸に、不穏な予感が渦巻いた。

だが今は、それを確かめている暇はない。


「私たちが相手をする」


ヴェリシアが宣言した。


「健司、あなたは上を目指しなさい。妹を取り戻すために」


ミリィも強い眼差しを健司に向ける。


「私たちがここを突破してみせる。だから……信じて」


健司は拳を握り、強くうなずいた。


「分かった。必ず戻る。絶対に」


バキラエが弓を引き絞る。

矢は光となり、神速の速さで解き放たれた。

ヴェリシアの炎が迎え撃ち、ミリィの魔力が流星のように輝く。


神速の矢と、炎と魔法の奔流が激突する。

轟音が広間を揺らし、床がひび割れる。


――戦いが始まった。

神速の弓使い、バキラエ。

そして、炎の魔女ヴェリシアと、アスフォルデの誇りを継ぐミリィ。


健司は背を向け、階段をさらに上る。

仲間の叫びと轟音を背に受けながら。

だがその心には、ミナの名が重くのしかかっていた。


「……待っててくれ。必ず、真実を確かめる」


白い塔の闇が、彼らをさらに深く呑み込んでいった。


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